◆bvTKLCRja6の物語



第6話

「……………………」

一人になった俺は、中央広場の視線から逃げる様に「やれやれ…」と呟きながらアリアハン城の立つ方へと向かった。

「またお前か」

そんなセリフが似合う人物にロマリアへどうやって行けばいいのか聞くことにした。門番の兵士である。
まさかただの城の門番の一兵士にこんなに何度も会話をすることになろうとは思ってもみなかった。

「ロマリアか。歩いていくのか?ベティ殿はどうしたのだ?彼女が居れば魔法の力で飛んでいくことも可能であろう」

いろいろと知っている門番だ…。
俺は正直に、「置いてかれた」と言った。
その反応を見るや声には出さなかったが、門番は間違いなく笑っていやがった。

「そ、そうかっ。ならば徒歩だな。船は今は魔物を恐れて出ていないからな」
「海を渡るんじゃないのか?」
「普通はな。だがここから東の地、そなたが化け物を倒したという所よりさらに南東に旅の扉があるという」
「旅の扉?」
「うむ。詳しくは知らなんだが海を渡らずして他の大陸に一瞬の内に移動できるそうだ」
「…へえ」

相変わらず可笑しな世界で溢れてやがる。この先何が待ち受けていることやらな。
俺は門番に礼と今度こそ別れを告げた。

「旅の扉の場所は非常に解り難いと聞く。詳しくは、それを使用してこの国へ渡ってきた旅の者に聞けばよかろう」

「ルイーダの酒場だ。行ってみるといい」

俺は言うとおりに、そういう者が集まるという酒場へと足を運んだ。

…………。

……。


そこは、昼間っから酒臭い場所だった。
店内が汚いわけじゃない。人多過ぎな上に客層が汚そうなのも含んでいるからだ。

自分の力を誇示するかのような態度のデカイ客があちらこちらで大声で騒ぎ立てて酒を飲んでいる。
ゴロツキや戦士の格好した輩が、どこぞの所で戦った熊のモンスターを一人で倒したとか倒せなかったとか、自慢話で盛り上がっていた。

俺は、隅っこの方に空いていた席に座った。
とりあえず何か注文してから、頃合いをみて旅の扉について誰かに聞いてみることにしよう。
ちらちらと見渡している内に気付く。
オーソドックスな戦士の他にベティの様な魔法使いの格好した者や神官のような者、軽装だが口元を布で覆い隠す盗賊の様な者までいた。
普通の一般客が見当たらない。様々な冒険者の集いし酒場だった。

また一人、店内に戦士の様な男が入ってきた。繁盛しているようだ。
その男が、叫ぶ。

「おいお前ら聞いたか!?東に現れた巨大アリクイが誰かに退治されたらしいぞ!!」

一瞬、静まりかえる店内。ただ一人飲みかけの果汁ジュースを噴き出す男がいた。俺だ。

「はあ!?何ほざいてやがんだぁ!!あんな化け物倒せる奴がいるわけねえだろ!!」
「そうだ!勇者でもあるまいし。勇者はもういないんだぞ!」
「それがよ…勇者に似てるらしいんだ。城に討ち取った化け物の首があるって」
「本当かよ!!勇者が蘇ったとでも言うのか!!今どこにいるんだそいつは!!」

……マズイ。なんだこの流れは。探し出せみたいな雰囲気になっている。なんでこんな有名人みたいになってんだよ。

「見つけ次第俺がそいつをぶっ倒してやる!俺以上強い奴は認めねえ!!」
「おうおうやれやれ!!骨は埋めてやるぞ!!」
酒の酔いもあるのか危ないことを言い始めている。怖い。
にしても話の流れからして、巨大アリクイだっけか。あの化け物を倒せるレベルの者はこの酒場にいないようだ。
……やっぱりベティは、ただの魔法使いじゃないってことだけは解った。

ともかくこの喧騒と化した酒場から逃れようと、対価の解らないゴールドを適当に多目にテーブルの上に置き、顔をふせて席を立とうとした。
その時。

「待てよ、アンタ」

ぐいっと腕を引っぱられ再び椅子に腰掛けさせられてしまった。
冷や汗がにじむ。
見ると、確か離れた席に座っていた筈の口元を黒布で隠した盗賊の格好をした男が、いつのまにか俺の隣の席に座っていた。




若そうだがよくわからない。銀髪。
細い。盗賊ならば当然の体型か。腰に短剣が見える。

「アンタ。まだ一杯しか飲んでないよな。それなのにあと5杯は飲める金置いてどこへ行くつもりだ?」
「……」
「悪い。別に責めてるわけじゃないんだ。ただな、アンタ。最初から酒を飲みに来た雰囲気じゃなかった。仲間でも探しに来たのかい?」
「……いや、そうじゃない」
ロマリアへ行くための旅の扉の在りかを。聞くべきか。しかしバレはマズイ。騒ぎは嫌だ。今はなるだけ顔を合わせず喋らない方がいい。

「アンタ。誰かに似てるって言われたことあるだろ」
「っ……!」
「だんまりだな。騒ぎはしねえよ俺は。俺は盗賊フランってんだ。アンタは?」
「……リイト」
「リイトか。結構腕が立つんだな。そんな若そうなのにな。幾つだ?」

なんだ?なぜ会話が始まっている。どうする。無視して店を出るか。だがそうするとバラされるか?
……くそっ。面倒なことになった。なんなんだコイツは。

「16」
「ほう。俺より3つも下か。こりゃいい人材だ。アンタ。盗賊に興味は無いか?」
「盗賊?」
と聞き返す。いきなりどういうつもりなんだろうか。盗賊って何をするんだ。強盗集団か?

「まぁそんなとこだ。ハントが主だがな。盗みもする。世界中の武器防具を集め最強集団を目指しているんだ」
「集団?そんな人数いるのか」
「いや、まだ少数精鋭ってとこだ。聞けば誰でも知っている盗賊団だがな。俺もここではデカイ声で話せない。フフ。アンタと同じだな」
「……何て言うんだ。その盗賊団」
「カンダタ盗賊団って呼ばれている。リーダーの名前を取っただけだがな」
「……そうか」
「その様子だと知らないようだな」

まぁ、この世界に来て一カ月くらいしか経ってないしな。ベティはこいつらのことをどう思っているのだろうか。
「そんな集団を作って、何をする気なんだ?」
「世界を作り変える」
「なっ…!」

何を言っているんだろうかと俺はしばし沈思黙考した。本気で、言っているのだろうか、と。
世界を作り変えるの「世界」とはどこまでの事を言っているのか。モンスターを含めた上で言っているのか。魔王の強さを把握した上で。
勇者以外魔王を倒せないんじゃなかったのか。どうなんだ精霊ルビス。
それでも、どうにかなると言うのなら目の前に立つ銀髪の痩せぎすの男は相当な実力者と言うわけだ。

……試すか。



「……悪いけど、今ちょっと急いでるんだ実は」

俺はすぐに思い直してこの話を終わらせることにした。興味はあるけど、ロマリアでベティが待ってるからな。
それに、勇者が盗賊団に加わるとか。無いだろう。

「そうか。じゃ何をしにアンタはこの酒場に来たんだ」
盗賊の男フランは残念そうに細い眉をひそめた。口と鼻が布で覆われていて確信はないがその目の表情から端正な顔立ちだと想像出来る。

「ロマリアに…行こうかと思っているんだけど。旅人ならば東にある旅の扉を知っていると聞いて来たんだ」
「ほう。アンタはこの国から出たこと、無いのか?」
「…ない」
「そうか。これから今まさに旅立とうというわけか。それだけ強いならば仲間も必要ないしな」
「…あ、あぁ」
「教えてやる。これからもアンタに会う機会があるというわけだからな。俺は諦めていないぜ。じゃ行くか。急ぐんだろ?」

早々に立ちあがる。まさか、案内するつもりか。

「待ってくれ。何か地図に描いてくれればいいんだが」
「地図じゃ解らねえよ。急ぐんじゃなかったか」
「……三日で行かなきゃならない」
「じゃ、やっぱり一緒じゃなきゃ無理だな。場所はなんも変哲もない小さな池のほとりだ。ついてきな。俺と行けば2日でロマリアへ着く」

「だが…、報酬はそんな払えないし、代わりに盗賊団に入れと言われても無理だぞ。そんな会ったばかりで…」
「何もいらねえよ。俺もこれからロマリアに行くつもりだった。ここでの用事は済んだからな」
ぐっ。しかし。盗賊団だ。なにか悪巧みしているかもしれない。
「怪しんでいるようだな。安心しろ。俺たちは盗みはするが人を襲ったりはしない。平和主義者だぜ」
信じられるか。
「なら回りに聞いてみるがいい。そんな悪評は無いはずだが?」

「…………わかった。ロマリアまで、よろしく頼む」

極端な話にしてしまえば、こいつらがやはり悪巧みを考えていたのであれば、殺すか殺されてしまえば済む話だ。

それに、道中でモンスターに遭遇すれば、この男の戦う所を見れる筈。
そうすればカンダタ盗賊団がどれほどのものか解るしな。

銀髪の男フランに俺はついていくことにした。

続く。