◆DQ6If4sUjgの物語



第二話 Mr.インビジブル

俺は村の真ん中にさらさらと流れる川(すげえ水きれい)のほとりに座り込んでいた。
あの後、マスクの兄ちゃんが起きた隙を狙ってもう一眠りしてみたのだが、状況はまったく変わらなかった。
もしや本当に夢ではないかという一縷の望みにかけてみたのだが、それは徒労に終わってしまった。
むしろ、ここはまごうことなき現実なのだということを、これ以上なく突き付けられただけ。
俺は溜め息をついた。これからどうしたらいいのかまったく見当がつかない。
武器も防具も無いから魔王どころか魔物とすら戦えない。
装備を調えようにも姿が見えないから買い物もできない。
いや、このすけすけな体を活かして店から盗むことも考えたには考えたのだが、
さすがにそれはまずいだろうと思い止まったのだ。万引きは立派な犯罪です。

しかしこうしてぼうっと体育座りをしていると、
傍目にはリストラされたことを家族に言えず近くの公園で有り余った時間を
潰しているサラリーマンのように見えるのではないだろうか。
……って俺、今誰にも見えてないんだった。
もう俺ってば、ドジっ子なんだからぁ!あっははははは……はぁ。

(ん?待てよ?)

今の俺の姿は誰にも見えない。
それは魔物や魔王にも適用されるのではないだろうか。
もしそうならば、誰にも気取られることなく魔王の居城に乗り込み、悠々と魔王を討ち取ることができる。
魔王の茶に毒を盛ることだってお茶の子さいさいだ。毒効くのか知らんけど。

(つまり今の俺、最強?)

最強。それは男なら誰もが一度は抱いた夢。主に中学生の時とか。
それのみならず、柔道や空手などの武道に身を置いている者なら
男女老若問わず目指しているはずだ。
それが今、俺の手の中にある!

どん底から一転、希望が見えてきた俺はすっくと立ち上がった。
まずは魔王の居場所から突き止めなければ。しかし透明人間と化してしまった今の俺では、
人々に尋ね回るなどの方法で情報を集めることは難しいだろう。
となれば、心苦しいが盗み聞きを敢行するしかない。
ホテルに飾られていた世界地図を写せば何とか旅もできるだろう。
大丈夫、地理には昔から強いんだ。俺ならいける!

さて、それではどの家から情報を集めるべきか。
きょろきょろと辺りを見回すと、他の家よりも一際大きく立派な家が目に入った。
村長の家だろうか。とにかく村の実力者には違いない。より多い情報が集まっているはずだ。
俺はまるで獲物を定めた泥棒のように手を擦り合わせると、
意気揚々と扉の横に位置されている窓を覗き込んだ。まずは様子見だ。
十字の窓枠に遮られたガラスの向こうにまず見えたのは、
テーブルに向かって分厚い本を熟読している眼鏡の男だった。いかにも理系って感じだ。
その奥では奥さんらしき女性がいそいそと台所で作業をしている。
夕食の下ごしらえか何かだろうか。ああそうだ、今日から飯とかどうしよう…。

ガラスに耳をあててみると、滝の音でよく聞こえないものの
微かに子供がはしゃいでるような声がひとつ聞こえた。
なるほど、子供がひとりいるらしい。喜べロリコン諸君。声からすると幼女のようだぞ。
夫婦はお互いのやりたいことやるべきことに集中しているのか、特に会話は無いようだった。

さて、どうするか。俺はいったん窓から離れ、腕を組んだ。
察するに男はかなりの読書家のようだ。
ということは、この家には多くの本が納められている可能性が非常に高く、
その中に魔王について詳しく書かれた本がある可能性もなきにしもあらず。
本がすべて小説とかエッセイという可能性も否定できないが、この際それは無視だ。
しかし首尾良く忍び込んで本棚を発見できたとしても、問題はどうやって本を読むかだ。
俺自体は透明だが、俺が触れたものは透明にはならない。
つまり俺が本をこっそり読んでいる時、傍目から見れば本はぷかぷかと宙に浮いていることになるのだ。
家にいるのがあの夫婦だけならどうにかなったが、子供がいるなら話は別だ。
まったく、子供なら外で遊びなさい外で。
まあ女の子だからお人形遊びとかの方が好きなのかもしれないが。

とにかく、このままじゃ目ざとく発見されてしまう可能性が高い。
この家に隠れられるような場所を探さなければ。
俺は家の裏手に回り窓を見つけると、さっそく覗き込んだ。
右手の方にタンスと大きめのクローゼットがあり、部屋の向こうでは
一人遊び真っ最中の、亜麻色の髪を二つにくくっている女の子の姿が見えた。

俺は思わずガッツポーズを決めた。
いいぞ、あのクローゼットの中に隠れれば堂々と本を読むことができる!
明かり…はまあちょっと隙間を開けとけば何とかなるだろう。

……ん?若い姉ちゃんが家の中に入ってきた。あの子もここの家族なんだろうか。

「ただいまー。ねえ、お風呂入ってもいい?」
「おかえり。いいわよ、もう水張ってあるから好きな時に入りなさい」
「ありがとう!じゃあさっそく入っちゃお〜っと!」
「おねえちゃんおかえり!おふろはいるの?じゃあいっしょにはいろうよ!」
「えー?もう、しかたないわねえ」
「やったぁ!」

若い姉ちゃんは奥さんや女の子と何かしらの会話をした後、
はしゃぐ女の子と一緒にこちらの部屋に入ってきた。
思わず頭を引っ込めたが、そうだ今の俺には誰にも見えていないんだ。
頭ではわかっていても、思わず体が反応してしまうっていうのはこういうことを言うんだろうか。
若い姉ちゃんはクローゼットの前に立つと、長い髪をまとめていた白いリボンを解いた。
そして次には、その身にまとっている赤い上着の留め具に手を――――

(ちょ、ちょ、ちょっと待て。まさか!)

言い忘れていたが、クローゼットと反対方向には浴槽がある。
二人なら余裕で入れるくらいの大きさだ。
まさか今からこの二人は風呂に入るつもりなのか?そうなのか?
普通風呂っていうのは寝る前に入るもんじゃないのか?
こんな真っ昼間から風呂とかどこのしずかちゃんだよ!
……などなど突っ込みたいことは色々あるが、
俺の目は既に若い姉ちゃんに釘付けになっていた。
既に上着は脱ぎ去られ、後には白いブラウスと青いワンピースのみ。
まだ二枚ほど残っているにも関わらず、胸のふくらみはしっかりと自己主張している。
あれはC…いやDはあるな。

突然異世界に飛ばされただけでなく透明人間になっちまう
クソッタレな状況に絶望してたが、まさかこんな幸運に巡り会えるとは。
いやいや、まったく世の中捨てたものじゃないな。
そうだよな、透明人間は不便なことばかりだと思ってたが、
こんなラッキースケベをも招き寄せることができるんだ。
恐らくこのまま家に入って間近で見たとしても誰にもばれないだろう。
男にとってこんな幸せなことがあるだろうか。
いやむしろ、そこらを歩く村娘のおっぱいを公衆の面前で、こう……おっといけねえ、よだれが。げっへっへ。
そんな下衆な妄想に耽っている間にも、若い姉ちゃんの白く細い指は
ワンピースの胸に縫いつけられたボタンをひとつひとつ外していく。

(あれを脱げばブラウスと……うへへへへ)

と、ボタンがあと一つとなったその時。
同じく脱衣中であった女の子が姉ちゃんに向かって何やら騒ぎ出した。
ガラスに耳を当ててみる。

「おねえちゃーん、ふくがぬげないよぉ」
「あらあら、しかたないわね」

姉ちゃんはボタンを外す手を止め、女の子の黄色いワンピースを
脱ぐ手伝いにかかり始めてしまった。
幼いために指が器用に動かせず、自分ではまだボタンが外せないらしい。
ああ俺は思ったね、心の中で叫んだね。さあ皆さんご一緒に。




FUUUUUUUUUUUU○K!!!




ええいフoッキ○幼女め、なんてことをしでかしてくれたんだ。
もう少しで俺は桃源郷へと導かれるはずだったのに。今ならば血の涙も流せそうな気がするぞ。
エレクチオンしていた愚息も既に萎え萎えだ。
いや待てよ、中断されただけであって決して中止されたわけじゃないんだ。
焦らされてると考えればなかなか悪いもんじゃないかもしれない。
そうだ、時間はある。じっくり待てばいい。俺にはロリコン趣味はないが、
若い姉ちゃんと幼女の裸が両方楽しめると考えればこれくらい安いもんだ。

お、どうやら幼女のボタンが全部外れたようだな。
ようしいいぞ、これでいよいよ邪魔する者はなくなった。

……ん?あれ?なんでこっち見るんですか?なんでこっち来るんですか?
まさか姿が見えてるとか……は、ははは。

いや違う!見ているのは俺じゃない。俺を通した外を見ているようだ。
姉ちゃんは窓越しに外を窺うと、何かしらつぶやいて(おかしいわね、と言ったように思えた)
怪訝な顔で窓の両端に手をやり、何かを思いきり引っ張った。
シャッ!という音とともに、視界がベージュ色に塗り潰された。
――――カーテンを引かれたのだ!

なんてことだ。
恐らく凝視しすぎて、あの姉ちゃんもさすがに視線を感じたのだろう。
覗きは初めてだったとは言え、こんな失態を犯すなんて……ちくしょう!
俺は膝から崩れ落ちた。

「おい」

い、いや、まだだ。まだチャンスは残されている。今の俺は透明人間だ。
こっそり家の中に入ったって誰にもばれやしない。
あの夫婦はお互いの作業に夢中になっているし、
ドアがちょっと開いたくらいでは気にもとめないだろう。

「おい」

万が一気づかれたとしても、「あらドアの金具が弱くなってるのかしら」程度で済むはずだ。
よし、いける。いけるぞ。ああそうだ、ついでに本棚も漁っておくとしよう。
最初の目的から変わっている気がしなくもないが、何、気にすることはない。
そうと決まれば特攻だ!

「おいったら!聞いてるのか?」
「あぎゃああああぁぁあああああああ!?」

立ち上がろうとしたところを後ろから肩を叩かれて、
俺は驚きのあまり奇声を発してしまった。
だってそうだろう?今の俺の姿は誰にも見えていないはず。
声をかけられるどころか、肩を叩かれるなんて思いもしていなかったのだ。
実はさっきから呼びかける男の声は聞こえていたけれど、
どうせ俺に向けたものではないと高をくくって無視を決め込んでいた。
それがどうだ。あの声はしっかり俺に向けられていたものだったのだ。

俺は振り返らずに考える。
声をかけてきた男は、いったいいつから俺の後ろにいたのか。
窓を覗いて鼻息を荒くしている時か?カーテンを閉められて絶望している時か?
もし前者ならば、しょっぴかれることは間違いない。

だってそうだろう?
うら若き男が窓の前で顔を紅潮させて鼻息荒くさせていたならば、
「あ、こいつ覗きしてる」と思うだろう?
誰だってそうだ。俺だってそうだ。

「お前、こんなところで何をして……」

ひィっ!やっぱり見られてたのか!?
この世界では覗きはどれくらい重い罪なんだろう。
も、もし、一生牢屋で余生を過ごすなんてことになったら……
つぅっと冷や汗が頬を伝っていく。

「おおおお俺は悪くねえぞ!そ、そうだ、>>13がやれって言ったんだ!俺は悪くヌェー!」

俺は沸き上がる焦りに体を震わせ、言い訳を走らせながら後ろを振り返った。
そこにいたのは――――








そこにいたのは、宿屋でいびきをかいていたマスクの兄ちゃんよりも逞しい体をした紫のモヒカン男。
腕、胸、足のほとんどを露出しており、ほとんど裸といっても過言ではないくらいだった。

ああ、俺は思ったね。「掘られる」って。

「おいおい、こいつ何言ってやがんだ。なあ」
「自分の姿を見られる奴がいるとは思ってなかったんだろう。きっと混乱してるんだよ」

モヒカン男の隣にいた、背中に剣を背負っている少年が爽やかに笑う。
こいつの髪型もこれまた変わっていた。
青いツンツン頭って、おいおいどうなってんだそれ。
髪の一房一房すべてが重力に逆らってるじゃねえか。
セットするには何個のワックスが必要になるやら。

「そうね。あなたたちも私に話しかけられた時、ひどく驚いていたもの」

声がしたかと思うと、ツンツン頭の後ろから、すっと女性が姿を現した。
絹のように滑らかな金髪、優しげな色をたたえた緑の瞳、すっきりと通った鼻に桜色の唇。
伏し目がちな目が色気を醸し出しているが、無駄な露出を抑えた服装が
それを神秘的な雰囲気へと昇華させ、彼女を包んでいた。胸は控えめのようだがグッド!悪くない。

ああたまりません。
いやもう、バッチリタイプです、はい。外人モノとか大好きですから。

散々ボルテージを抑圧されていた俺が、これ以上耐えきれるはずもなく。


「生まれる前から好きでしたああああああああああああッ!!!」
「きゃああああああああああッ!!?」




タイチ
レベル:1
HP:20/20
MP:0
装備:ぬののふく
特技:とびかかり