修士◆B1E4/CxiTwの物語



【かの森から】 [4]

・・・・見えた・・・・・・・・・・・・・・・
あぁ・・・お父さん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そんな川の向こうで手を振って・・・・こっちに来いって?・・・・・・
・・・・あぁ・・・・そっちは暖かそうだ・・・うん・・・今行くよ・・・・・

・・・・・・・・・・・・・って!・・・・待て待てちょっと待て!
しっかりしないか!ちょいと死の淵だからって幻覚なんか見るな!
そもそも俺の父さんはまだ生きているだろうが!どこにいるか知らんが。
へへまだだ・・・まだ大丈夫。気をしっかり持て。もう少しで外・・・・に・・・・!!


幻覚じゃない。父さんは露と消えたが、ここは確かに・・・・森の外!
目の前には川・・・川?・・・川!・・・・うおおぉぉおぉ!水!みず!!ミズぅ!!!
・・・・ゴゴゴ午後五語宕後呉・・・ゴクン・・・・・・・・ヴァァァ・・・体に・・・染みる・・・。
辺り構わず突っ込んだ。パジャマの前がびしょびしょだ。だからどうした!
うおおぉおお!!!飲むぞ飲むぞ飲むぞぉ!!!!


・・・・・・・・・一頻り喉の渇きを癒し、僕はやっと落ち着く。
・・・・・・日の光が・・・とても懐かしい。

周りを見渡してみると、水を補給した川の横幅は僕の身長くらいで、
左から右に亘る、とても緩やかな下り平野の上を流れている。
そして川の流れは、森の側面に沿いながら平野の向こうへ伸びている。

森の端から川のこちら岸にかけても、同じくらい緩やかな下り平野だが、
川の向こう側は平坦で、少し先に、横に広く大きな逆さ扇形の丘が見える。

その丘を見て僕は、もしかして、と思う。思い立ったらまず行動。
川の中にある石の上を歩き向こう側に渡り、
短い草が生え所々土が見える草原を足早に進み、そのまま丘を上へ登る。
思ったより急斜面で苦労したが、なんとか頂上に到達し、
緊張しながらもすぐ振り返る。


「ほら・・・・やっぱり」
遠い眼下には僕が抜け出た森。左右に、そして奥にも。
僕の目に、その端が見えないくらい広大な緑の面を見せ付ける。

そしてさっき、もしかしてと思ったこと。
森の中では気付かなかったが、僕は森の中で下り道を歩いてきたらしい。
森が広がる場所に、奥に向かって少し上り傾斜があるからだ。
その証拠に遠くの木々が正面に見え、その奥の木々はさらに上に伸びてる。

遠すぎて確信が無いが、さらに奥のおぼろげに映る緑も、森の一部だろうか。
だとすれば森の最奥部はここより遥かに高い。山脈面に生えているのだから。

森の中のあの草原は・・・・ダメだ。見えない。遠く見えないのか。
でもあれ程長時間歩いたんだ。まっすぐ進んでるとも限らないな。
正面から外れてあっちは・・・・やっぱり見えないか。
それにしても、日本にはまだこんな場所があるのか・・・。

奥にはその全貌が見えない巨大な山脈。
手前に下ると左右にも広がるあの森。
そして僕の眼下を左右に横切る、一本の線にも見える川。
なんだか自分を中心にして、世界があるような気がする。


Hywwuuuu・・・と背後から風が吹きつける。僕を目覚めさせるように。
丘の反対側のことを思い出す。さっきはあの森に夢中でろくに見てない。

先ほどと違いさっと振り返る・・・・・・!!

「・・・・・すげぇ・・・・・・・・」
後ろの山脈や森や川が、狭い扇の中の世界だったと知る。


遠く広がる緑の大平原!彼方には青の水平線!
終わりの見えない大世界が今、目の前に広がる。
僕は自然大好き人間ではない。でも、この世にこんな場所があるなんて!
空と海と大地が意思を持ち、それらの声無き声が
この場所を飛び交っているようだ!


・・・今、僕は確かにこの大地に立っている。
途方も無く広い平原を見下ろして。
本当なら、ここには家路の見えない絶望があるはずなのに。

「・・・・綺麗だ・・・・・」
けれども僕は、なぜか少し安心した。