修士◆B1E4/CxiTwの物語



【かの森から】 [3]

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ここは森の中の空き地みたいだが、歪な形をしていて、
どこに立っても張り出した木々に視界を塞がれ、全体は見渡せない。
空き地を囲っているのは、素人目に見る限り若々しい木々だ。

その木々はどこも同じ種らしく、丈は僕の身長の2倍くらいが一番数多い。
木々はどの場所でも鬱蒼とは生えておらず、結構向こうまで見渡せたが、
森の中は少々暗く、奥深いようだ。探索前の不気味さが少し蘇えってしまう。

また、空き地からどこかに繋がる道のようなものも見当たらない。
さらに、丈の短い草がこの空き地の地面の大部分を覆っている。
ところどころに名前の浮かばない花が咲いている。最早ここは草原だ。
リスや鳥などの森の動物は見なかったが、バッタが草の上で跳ねている。
そして、空に向かって大地が開けているためだろう。全体はとても明るい。

未知の空間を動き回りながら、だんだん僕は冷静な気持ちを取り戻してゆく。
そして、どれだけ時間が流れたか分からないが、帰巣本能だろうか、
最初寝ていた場所の辺りに腰を下ろす。僕はそこで、探索に一区切り付けた。


ええと・・・・なんだろうこの状況・・・まだほとんど理解できないや。
ただ、日の高さから判断すると、今は朝か昼間みたいだ。
僕は本当に神隠しにあったのかもしれない。まぁ今はそんなに怖くないな。
・・・・森の中はまだちょっと怖いけど。

それに、僕の身に起こったことがたとえ神隠しだとしても、
森を抜ければ何かしら道へ出られるはず。
ここが家から離れた場所なら、どこかで人に助けを求めないと。

あ・・・でもよく考えたら、僕は今パジャマ姿なんだ・・・・。
ここを抜けて人に助けを求めても、こんな姿じゃ・・・・。
でも、ずっとここにいても何の進展も無い。ここは行かないと!

・・・・あぁこんなことがバレたら友達は何と思うか。
後輩の卒研生にもいろいろ突っ込まれだろうなぁ・・・。
いやむしろ話のいいネタになる・・・。はぁ・・もういい・・・ここを出よう。

こうして弱々しいながらも、僕は脱出を決意した。



さて、行くと決めたし、なんとなく携帯開いて・・・圏外だよなそりゃ。
そういえば、圏外のまま電源入れてると、携帯が基地局の電波を探すために
普段より電池を食うんだよ。これ豆知識な。
森を出るまでの少しの間だけでも、電源切っとくか・・・・よし、できた。

型が古いため、ちょっと使うとすぐ電池残量が減る。
普段はバッグの中にも電池を1個常備してるが、今は携帯に入ってる分だけ。
就寝中にここに来たのなら、充電は不十分かも。大切に使わなければ。

決意ついでに森の上部や空を見てみる。・・・・・!
そこで初めて気が付く。ここで目覚めた瞬間は全く気付かなかったこと。
探索中も全く気にならなかったこと。今見ると明らかにおかしいこと。

今、初めて意識する。それは色彩。
空の色が、僕の知るあの空色ではなく、真っ青に見えるのだ。
記憶に無いような、真っ青。

あれ?空の色ってこんなのもあるのか?
太陽光の関係で、見る場所によって多少、色の濃さは変わるはず・・・。

うーん。確か、短波長光に対して起こるレイリー散乱が、
地球の大気中においては青から紫くらいの色の波長で起こり、
さらに昼は紫光より青光が大気に残りやすく、空は青く見えるんだよ。
日本にはこんな場所もあるのか。


・・・まぁいいや。さて、ぼちぼち森に入ろうかね。
方角は・・・・確か金田一少年の事件簿の亡霊兵士事件であったな。
木の苔が生える方向が北だとか。よしよし冴えてる・・・・って、おい。
方角なんて意味無ぇよ。地図無いし。・・・・えぇい!ここを真っ直ぐだ!

たまたま目の前にある森に僕は踏み入る。

中の様子は、背後の草原と異なり、地面は土がむき出しの部分が多い。
そこに群生する植物は、丈は草原の草花と同じくらいだが
森の中に転々と生えているに過ぎず、その形・色・伸び具合は
背後の草原に生える植物と種が違うことをはっきり示している。

また、雄雄しき木々の緑が空から降る日の光を遮っているために、
隙間から漏れた光が、一部の地面をスポットライトのように映し出している。

だから・・・・暗い。そして・・・・深い。暗く深い森の中に僕は一人。
暗く澱んだ世界が感じられ、足元の草は名も知らぬ先へ導く道標のよう。
すぐ背後には燦々と輝く草原があるのに、
自然の境界一つでこんなにも明確に空気は変わるものなのか・・・。

・・・・そ、そんなことはどうでもいい!日本は森も多いが、
なんだかんだで抜けた先も日本に違いないんだ!行くぞ!

森に入り三度蘇えった不気味な影を、僕は無理やり吹き飛ばし歩き出した。



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ハッハッ・・・余裕!余裕!・・。
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なんのなんの・・体が暖かいぜ・・・・・。
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ハッ・・ハァ・・・思ったより・・広い・・ここ・・。
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み・・・・みず・・・・・・・・・・水・・・・・・・・・・・・を・・・・・・・。
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・・・・・・・・・・・・・・・俺・・この旅が終わったら・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・あの子に・・告白・・・するんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
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