修士◆B1E4/CxiTwの物語



【かの森から】 [2]

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・・・・・・なんだかくすぐったいな・・・・。風?窓、開けっ放しだったっけ。
あぁ天井は・・・・青・・・緑・・・??あれ?
・・・・・・・・・・・・・空?・・・・!!!

「うぉ!?何で空?壁は?なんだここは!」

仰向けの姿勢から目を開けると青色が見え、
その周りに沿うように、おぼろげに緑色が囲んでいた。
寝ぼけ眼で頭が回らず、その青が空の色であり、
緑は空を囲む木々の葉の色だと気付くのに、短くない時間を要した。

僕は反射的に立ち上がる。


目を明けたら家の中じゃない。一体どういうこと?
そもそも明らかに場所が違う。見たこともない場所なのだ。

ここはどこ??いつこんな所に?
それより今何時だ!?1・2限目のTAには間に合うか!?

完全にパニックだ。何を考えても意識が飛んでしまう。
そんな状態にもかかわらず、僕は昨日の夜のことを思い出す。


昨日は確か・・・学校を夜10時前に出て・・・学校近くのラーメン屋で・・・
それでそれで・・・最寄駅から・・・コンビニでゲッサン創刊号を読んで・・・
リンドバーグが面白くて・・・あとベルセルクとかワンピとか読んで・・・

・・・1時前には家に居たな。母さんはもう寝ていて・・・
風呂入って論文読んで・・・・3時頃には寝たはずだ。
3時間も眠れば大丈夫、と思ったんだし。
いつものように携帯に充電コードを挿して枕元・・・・あ!

体がピクン!と応え足元を2,3度と見回すと、すぐ近くに携帯が見つかる。
どうやら、僕が昨日部屋に置いた場所と、位置関係は同じようだ。
しかし充電コードは、その途中でぷっつりと切れている。

電源は・・・・
「お!よっし!」
入った!

家と連絡が取れる!・・・とあえず家に電話して・・・
今何時だ?・・・あー!時計が初期設定に戻ってる。
まぁ、僕の携帯にはよくあることだ。
それより、もう母さん仕事に出てるんじゃ・・・そしたら110番だ!
警察にこの状況を知らせて・・・・・って、圏外じゃん。


状況を打開できると感じた希望を削がれ、目を瞑りへなへなと座り込む。
でもこれをきっかけに、他にも何か傍にあるのではと思った。
再び膝を立たせ、寝ていた場所の辺りを探し回ってみる。
・・・・結局、昨日まで僕を囲んでいたものは、携帯以外見つからない。

僕は立ったまま途方に暮れてしまう。

携帯が圏外ってことは、ここは山の中・・・・奥多摩辺りか?
家まで・・・遠すぎる。何でそんな場所に僕が?
一人で夜歩きして勝手に来た?夢遊病?そんなばかな。
母親曰く僕のいびきは凄いらしいが、そんな病気とは聞いてないぞ。

もしや昨日は帰りに酔いつぶれてここに来て、あの記憶は違う日のもの?
・・・・って僕は今パジャマ姿じゃないか。昨日は確実に自宅で寝ている。
そもそも酒なんかほとんど飲まないし。



じゃあ僕はいったいどうやってここに?・・・・・!
・・・・・誰かに・・・連れ出された!?

誰が?父さんは元から居ないし、友達は・・・・大学の奴は家の場所を知らない。
母さん・・・論外。家の中なら引っ張り回された経験があるけど。
いったい誰なんだ。意味が分からねぇ。
・・・・・・・えっ?

一つ一つ可能性が潰され、その瞬間僕の体に戦慄が走る。
僕は家から連れ去られた・・・・・・・何に?

なんて見当違いのことを考えていたんだ。もっと早く気付くべきだった。
そもそも人間の知覚に悟られずここまで運ぶなんて、人間にできる訳がない!


・・・・・・・・・・神隠し。
人間が消されるとか遠くの地に飛ばされるなんて、
巷に溢れる怖い話の類で、自分は話の外の傍観者と思っていた。
今もそうだと思いつつも、僕は確かにここに立っている。・・・・・・!

途中で切れた充電コード・・・・・
僕の周りの空間ごと、部屋から切り取られた?
じゃあ被っていた布団は?

途端に周りの空気を不気味に感じる・・・後ろを振り返れない・・・・。
ここは何か霊的な場所なのか。あの木々の向こうには何が潜んでいるのか。

・・・・気が付くと足が動かなくなっている・・・心が揺れ落ちそうだ。

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戦慄の瞬間から少し経ち、僕は徐々に周囲を見回せるようになる。
相変わらず得体の知れない怖さはあれど、緊張が解れてゆく。

誰も・・・・何も・・・無いのか。
ここからは遠くが見えないし、何も分からない。
そういえばここ、空き地みたいだな。結構広いぞ。

この場所を動き探索したいという思いが次第に強くなる。
そして少し後、ここの全貌を知るため、
僕は取り巻く不気味さを押し殺し、意を決し動き始めた。