修士◆B1E4/CxiTwの物語



【宿屋と、酒場と、】 [2]

ジーク「ダイアさん! お久しぶりです。やはりこちらでしたか」
ダイア「おぉ、久しぶりだな。そうか家に行ったか。すまなんだ、会えなくて。
    仕事をするため、しばらくこちらに寄っているのさ」

ジーク「あぁ、そうですか。今回も旅費を稼ぐために?」
ダイア「ああ。今回は、バトランドとガーデンブルグにも行こうと思っていてな。
    大航海だ。たくさん稼がないと」

ジーク「ほぉ・・・・今回は随分と北まで向かいますねぇ」
ダイア「それがな、最近またコロシアムに行ったら、・・・・・あ、参加もしたぞ。
    まぁそれより、そこで珍しく、バトランド兵とガーデンブルグ兵の
    かなりの実力者同士の対戦が見れたんだ。
    それはもう、口では言い表せない、とても白熱した戦いでな。

    なんと! めったにない引き分けに持ち越されんだ。
    バトランド兵の落ち着き払った重厚な剣捌きと、
    獣を従え、世界一美しい剣舞と称される、女戦士の飛び回るような魅惑の剣捌き。
    私は今まで、この国の武芸に満足していたのだが、今回の観戦で
    両者の体幹の動きに興味が湧いてな。一度行ってみたくなったのだ」

この人がダイアさん・・・・。髪を短く刈り、
その姿はまさに武闘家ではあるが、他方、修行者にも見える。


ジーク「そうそう、このお方はここで来る途中で知り合いまして」
僕「あ、はじめまして。アーシュといいます」
ダイア「・・・・ほお、なかなかの身なりだ。媚売っておいた方がいいか。ンハハハ・・・」

僕「・・・・・・あの、冬もそんな格好なんですか?」
ダイア「ん?あぁ、基本的にはな。まぁ、死ぬような寒さだったら別だが。
    ・・・・では、これにて。今日はまだ修練が残っているのでな」
ジーク「おや?町の外に行くのですか? 夜も近いですし、入口が閉まってしまいますよ」
ダイア「いいや、壁に沿って一周してくるだけさ」

ジーク「それはそれは、・・・・・・私なら疲れ果てて到底無理ですな。
    鐘が鳴るまでには休んでくださいよ。親からもらったお体、どうぞお大事に」
ダイア「あぁ、わかってる。じゃあな」

・・・・・ダイアさんと別れ、ジークさんはギルドの隣の建物に向かう。
小ぶりな看板には、『Drinking ルセット』、と書かれている。

ジーク「ここが目的の酒場です。夜が近いですし、もうすぐ盛況になると思いますよ」


木戸を引き、僕らは店に入る。
・・・・・中には、何台もの木の丸テーブルと、同じく木の椅子が置かれている。
テーブルの全てが埋まっている訳ではないが、10人以上が楽しげに話している。
部屋の左奥には、左から右に向かって二階へ続く階段があり、
今まさに、客らしき男が一人、上っていくところだ。

正面奥にはカウンターがあり、背後の壁には樽や瓶が並んでいる。
そしてカウンターの向こうに、もじゃもじゃ髭の人が立っている。
・・・・・・この人がマスターで、ルセットさんというそうだ。

僕らはカウンター席に座る。ジークさんから、どんな酒が飲みたいか、と聞かれる。
僕は、ジークさんに任せることにする。

ジーク「わかりました。では私のお勧めを一つ。
    マスター、アルパンを二つお願いします」
ルセ「・・・・・・・・・・・」

後ろの棚から酒瓶を取り出し、木のグラスに注(つ)ぎ・・・・・カウンターに出す。
グラスの茶色でわかりにくいが、どうやら無色透明だ。

僕は飲んでみる・・・・・・・お、うまい。舌が痺れるように感じたが、
味は爽やかで、・・・・・ジントニックに近い。

僕はお酒の感想をジークさんと話す。
・・・・と、ジークさんの後ろに、グラスを持ち、ターバンを巻いた誰かが近づき

?「よぉ!ジィさんじゃねぇか!今日着いたのかい?」
ジーク「!・・・・あぁ!これはこれはヌアショさん。どちらからお見えで?」
ヌアシ「アッテムト、チザレック、ニューオーンと行商してきたとこさ。
    ここを離れたらアクロ=バラの街を通って、ハバリアに行く」
ジーク「あぁ、そのルートでこちらにいらしたのですか」

ヌアシ「そっちの売れ行きはどうだ?こっちは上々だったぞ」
ジーク「それが・・・・なぜかさっぱりでして、護衛を雇う余裕もなく」
ヌアシ「はぁ、そんなに・・・ところで隣の奴は? 知り合いかい?」
ジーク「あぁ、こちらのお方は・・・・」
僕「・・・・はじめまして。アーシュといいます」

ヌアシ「へぇ・・・・・どこからきたんだい?」
僕「ええと、・・・・遠くのところなんですが、ご存知かどうか・・・・・」
ヌアシ「なんだ、そんな遠いのか?モンバーバラ辺りかい?」
僕「まぁ・・・・・そうですね。そこから来た訳じゃないですが」

ジーク「そうそうヌアショさん、行商に使える情報、何かありますか?」
ヌアシ「ん?・・・・・そうだな。ええと、チザレックで・・・・・」

・・・・・・・・・二人は専門的な話を始める。
ジークさんが助けてくれた・・・・・・・真剣に聞くジークさんの様子を見ると、
どのみち聞きたいことだったのだろう。・・・・・・

ヌアシ「あんたが護衛を付けずに旅をねぇ。そういや、盗賊はやっぱり跡形もなく?」
ジーク「・・・・・そうですね。何もなかったですよ」
ヌアシ「どこにいったんだろうなぁ・・・・・まぁこっちは、大助かりだがよ」


今日はいつもと比べて人が来ないようで、ヌアショさんと話し
軽食を食べた後、僕らは店を出た。料金は二人で480ゴールド。
ゴールド、Gという単位の価値が僕には不明だったが、
ジークさんが言うには、手ごろなお値段らしい。

ぼくらはそのまま宿屋に戻る。
別々に風呂に入り、部屋で寛(くつろ)いでいると、ジークさんが話し掛けてくる。

ジーク「アーシュさん、私は明日一杯、陛下のお言葉に甘え、ここに滞在します。
    明日は兵をお貸しいただく手続きと、図書館でお気に入りの物語の新作がないか、
    あと、何か面白い商品があるかチェックしてきますね。出発は明後日で。

    アーシュさんはきっと、まだここに残ることになるでしょうが、
    なに、気落ちせずに。私はまたこちらに来ますから。

    ・・・・さて、そろそろ寝る準備でもしましょうか」

僕「ん・・・・そうですね。じゃあ、どのベッドで寝ま・・・・・・ジーク、さん・・・・」
ジーク「ん?・・・・あぁ、そうですね。アーシュさんは窓際をどうぞ。涼しいですよ」
僕「・・・・・いや、・・・・・・なんで、なんで・・・・・」

胸毛がボーボーで、胸から下に、一直線に毛が、毛が、繋がってて・・・・・
・・・・・・・え? えっ? えっっ!? 裸!!?

ジーク「さぁ・・・・・一緒に・・・・・寝ましょうか・・・・」

僕「ちょちょ、ちょっとおおお、近寄ら、ないで、くださいぃぃいぃ・・・・・・・」
ジーク「えっ!ちょっと、えっ?」
僕「ひょ、ひょっとしてこっちでは、そういう趣味、ぃい、一般的なんですかね!
  でも、ぼぼぼくはそんな気、まったく! まったくまったく!」

僕はふにゃふにゃの腰のまま、カクカクと後ずさる。

ジーク「え・・・・・・ああ! いや、そんなつもりじゃないです!
    ええと、どこから説明していいのか、えっとですね」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ジーク「すみません、さっきは。驚かせてしまって。ご理解いただけましたか?」

・・・・・・・この世界では、寝るときは裸が一般的らしい。この国の今の季節は特に。
家では大きなタオルを、宿屋の場合も、備え付けの大きなタオルを腰に巻くそうだ。
もちろん、寒くなれば服を着たまま寝ることもあるようだが。

僕「・・・・・あれ? じゃあなんで、ここに着くまでの夜は服を着ていたんです?
  野宿はともかく、宿屋も借りたじゃないですか?」
ジーク「あぁ、あのあたりはほら、町ではないし施錠も不安なので。
    服を丸ごと盗む人だっているんですから」
僕「丸ごと・・・・」

事情は理解したが、やはり裸は恥かしく、
僕はトランクスはそのままに、パジャマのズボンを穿(は)く。
・・・・そして僕は、眠りに就いた・・・・・・・・。