修士◆B1E4/CxiTwの物語



【宿屋と、酒場と、】 [1]

僕らは城の扉を出る。宿屋に行くため。僕は今、新しい服を着ている。
城勤めの人は生活服が支給されるそうで、僕は、城の衣服保管庫の余りを貰った。
愛着あるパジャマは、着替えと共に、城で貰った皮の袋の中だ。

この服は市場にも流通しており、「エリモスの服」というそうだ。
なんでもその昔、エリモスという職人が作り出した服で、
その製法は今も、弟子たちに脈々と受け継がれているとか。
ジークさんの布の服と同じく、ワンピースのようだが、布の服より高価で、
かつ、布の服より少し生地が丈夫とのこと。

旅で着る服というより、お洒落な生活服として認識されているらしい。
色は現在、青、緑、黄色、白が流通しているそうだが、
お城の支給品は、男は青、女は黄と決まっているそうだ。
さらに規定で、支給された服に自分の名前を縫い付けるらしいが、
僕の貰った青い服には、まだ何も縫い付けられていない。

襟や袖には白の二重線が縁取られ、胸元にはボタンが付いている。
また布の服と同様、胸と下半身前部の二箇所、計三箇所にポケットがある。
そして腰の少し上に、白のベルトが巻かれている。

服の採寸に際し、自分の世界との共通項を見つけた。一つはサイズの指標。
S・M・L・LL・XLがあった。もっと上のサイズもあるらしいが、特注だとか。

もう一つは長さの単位。自分の身長を申告する際、メートルとセンチが通用した。
僕の世界と同じ長さか不明だったが、確認のため測定した身長は、
結果的に同じ数値が出た。そして僕は、Lサイズを貰った。
元の世界と共通することは、他にもあるかもしれない。


宿屋は、壁の外との出入口近くにあるそうで、大通りを戻ることになる。
・・・・・・・・と、扉の前の兵士のところに別の兵士がやってくる。

オキュ「兵の交代時間だ。あそこが詰め所になっている。小さいところだがな」

指の差し示す方向を見ると、城の前面部の隅に、出っ張った部分がある。
小隊長さんは正面から向かって左を示したが、右にも同じ部分がある。
中で繋がっているのか、城と同じく、石造りで白い。来たときは目に付かなかった。

改めて城の周りを見渡す。整地区画が広がっており、建物の大きさ、高さは様々。
遠くには、壁の中だというのに、木々の密集する場所・・・・森?が見える。
そしてその景色の中には、大きく太い塔が複数本・・・・・・!

遠くで何かが光った。いや、何かの、塊?・・・・・消えた。
・・・・・近い場所同士で断続的に発光?している。

見学はそこで中断される。僕らはモーズさんと合流し、再び馬に乗・・・・・?
今度は城の中から、職員らしき服を着た男性が出てくる。

?「アーシュさんとオキュロ小隊長殿の御一行ですか?」
オキュ「そうだ。何か?」

?「あぁよかった。皆さん見つけるのに手間取りまして。国王陛下の伝言です。ええと、

  『明日、ここの案内も兼ねてアーシュ殿に会わせたい人がいる。
  その一件が終わるまでは、無用な混乱を避ける為、今日の話は周りに伏せてほしい』

  とのことです」

僕「会わせたい人、って・・・・・誰なんです?」
?「さぁ?・・・・・詳しい話は伺っていませんので」
オキュ「・・・・・そうか。承知した。ご苦労であった」
?「いえいえ。では失礼致します」

その人はまた、お城に戻る。
・・・・・・・・・僕が空を見上げると、そこには、黒に飲み込まれそうな朱の空。


馬に乗り大通りを駆ける。一瞬の風景を見る限り、人の往来は結構あるようだ。
城へ向かう際は意識しなかったが、道は結構長く・・・・・10分くらい乗っている。
・・・・・・・・・・・・・・やがて、僕らの目に入口が近づいてくる。
その何本か手前の横道を、速度を落として左に入り・・・・・・何かの建物の前に着く。

僕らはそこで降り・・・・・モーズさんが隣の建物の扉を開け、馬と入ってゆく。
二つの建物は上で繋がっており、降り立った建物の入口の上には、
またしてもプレートが置かれている。・・・・・・『警備詰め所 商工 A地区』、と。

オキュ「さあ、宿へ向かうぞ。ジーク、トーヤの宿でいいな。酒場も近い」
ジーク「えぇ、もちろんです。お願いします」

・・・・・・・・・二、三分で目的地に着く。木造建築のようだ。
小さな木戸から中に入る。正面のカウンターには、おばさんが一人座り・・・・
入ってくる僕らを見て、椅子から立ち上がる。

?「あら、兵士さんと・・・ジークさん!久しぶりねぇ」

オキュロさんはおばさんに事情を、・・・・・・本当のことを説明する。
忠告を無視して大丈夫かと心配したが、ジークさんが言うには、
客の秘密を守るのは宿の最低条件なんだとか。
このおばさんはトーヤ主人の奥さんで、モネイロさん。
色黒で黒髪、快活そうな人に見える。

・・・・・・・・・どうやらモネイロさんは、小隊長さんの説明に納得したようだ。
やはりちょっと驚いているが、すぐに元に戻り、

モネイ「はいはい。じゃあ部屋に案内するよ。運がいいよあんたら。
二階の東側が昼前に空いたばかりさ」

そう言い、カウンター奥の階段を上ってゆく。・・・・・と、
小隊長さんはここで別れるらしい。僕らは感謝の挨拶をする。
軽く一礼し、オキュロさんは出てゆく。

僕らは階段を上り、階段右の三部屋のうち、左の部屋に入る。
階段を上った突き当りには、絵画が立て掛けられている。

モネイ「風呂、トイレ、洗濯場は一階だからね。アーシュ君、覚えておくんだよ!」
僕「は、はい!」

おばさんは一階に去っていった。


部屋を見回す。窓は左と正面の二つ。左窓の傍に、互いに間隔を空けベッドが二台。
右側にはテーブルと椅子が置かれ、テーブル上にはメモ紙の束と、ペンらしきもの。
正面の窓は開放され、左右に纏られたカーテンが、外からの無色の風に揺れている。

窓の外にはもうほとんど、日の光はない。
ランプや蝋燭だろうか、外の所々から、ちいさな光が煌いている。
ただ、光一つ一つの間隔は大きい。

母さんが言っていたっけ、
私の子供の頃は街灯なんて、今みたいにたくさんはなかった、って。

ジーク「私は酒場に顔を出してきますが、アーシュさんはどうされます?
    お城の方から釘を刺されましたし、まだ自由な会話はできないと思いますが」
アーシュ「酒場・・・・・そうですね。・・・・・いや、僕も行ってみます」
ジーク「わかりました。では、行きましょう」


僕とジークさんは、軽食を食べてくる、とおばさんに断り、宿を出る。
・・・・・周囲には、大小様々な木造、レンガまたは石造りの建物が立ち並び、
通りに面する側には、こちらも大小、多種多様な看板が掛けられている。

『メシュンナ骨董店』・・・・『たらふく料理 メイト・カヌ』・・・・・
『安心防具のオルフェウス』・・・・『パパーヌのオモシロ道具』・・・・
『ビートの実践武器屋』・・・・・『レオ王国交通案内所』・・・・
『ロンゴお土産店』・・・・『公家御用達 料理の園 ルセニック・ボン』・・・・

犇(ひし)めき合う建物を、僕は覚えきれず・・・・と、前のジークさんが立ち止まる。
正面には、他の店と比べて少し大きな建物がある。大きな看板には、
『働く者に栄光を ワークギルド ファン・モール学園店』
とある。

ジーク「あれはワークギルドといい、稼ぎのある仕事を紹介する施設です。
    仕事は・・・・・ここでは、王宮や学校からの依頼が多いですねぇ。
    ・・・・・おや!」

たった今入口から出てきた人に、ジークさんは目を向ける。
・・・・・・・・・上半身裸の、筋骨隆々の人だ。