修士◆B1E4/CxiTwの物語



【ワークギルド】 [1]

こっちの世界に、まさかお米のご飯があるとは思わなかった。
宿屋では、形のいびつな茶色のパンと、山菜のスープがメインだったから。
僕は、山の動物の肉と、お米を使った定食を食べ・・・・・・・・

宿屋に戻ってくる。
・・・・・・・・この乗り物は、周りの人に注目されるようだ。
と、帰還する御者とウィブーを見送る僕に、声が掛かる。

ジーク「アーシュさん!」
僕「あ!」


僕らは部屋で、今日の出来事を話し合う。

ジークさんは昨日の話通り、兵の貸与の手続きと、図書館へ行ってきたらしい。
今回、王様の計らいで兵の貸与は無料だったとか。
図書館だが、『もし目が覚めたら〜』の物語の更新はなかったらしい。
それでも、何か新しい情報はないか、いろいろ回ってきたという。

僕はジークさんに、アクデンさんに会ったことを話す。

ジーク「アクデン先生に!!? 最高待遇に近いじゃないですか!」

どうやら、アクデンさんはすごい人らしい。
戦闘に関して、他国にも名の轟く実力者で、一般的にもかなり有名な人だとか。


と、そのとき、部屋に兵士さんが訪ねてくる。
兵士さんは、国王からの伝令があります、と僕らに言い、

兵士5「アーシュさんの帰還のための国を挙げてのサポートを、国王陛下が了承しました。
    明日、謁見の間までお越しください。こちらから遣いを送ります」
ジーク「いや、よかったですねぇ!アクデンさんの後ろ盾があれば大丈夫でしょう。
    これで私も、明日の朝は快く出発できそうです」

あ、そうか。ジークさんは明日出発だっけ。


その夜、僕らはルセットさんの酒場へ行き、・・・・・・・飲んだ。
昨日と打って変わって、多くのジークさんの仲間と出会えた。
僕の境遇にみんな驚く。僕はわずかに、心の荷が下りた気がした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

朝の陽光に草原が照らされている。

ジークさんが遠くで手を振っている。道中を警護する兵士3名も一緒だ。
僕は、城壁の出入口付近の草原に立っている。
周りでは子供たちが、かけっこや、草を足で均(なら)しながら遊んでいる。

僕は、一行が森の向こうに消えるまで、見送っていた。


・・・・・・・・・少しして、宿屋に兵士が来る。
僕は兵の操る馬に乗り、キングレオ城へ。
城の中、以前歩いた道を思い返しつつ、謁見の間へ。

シルバ「よく来た、アーシュ。
    既に聞いているとおり、そなたの帰還を国でサポートすることにした。
    アクデン先生の発案により、様々な調査を行うつもりだ」

僕「・・・・・ありがとう、ございます・・・・・」

今頃になって、僕は目が潤んでしまう。
もう僕は、・・・・・・

シルバ「それでな、アーシュ。実は、朝、横の大臣から進言があってな。
    急な話ではあったが、私もそれを支持することにした。

    アーシュよ、今一度、そなたの目が覚めた森に行ってみないか?」
僕「え?・・・・・・・・それは・・・・・」

それって・・・・・・・調べるのか?あそこを。

ダシュ「アーシュ。問題の解決には多角的な目が必要だ。
    特に未知の事象の検証には、客観的な結論を推し量る、多くの目が必要だ」

客観的、という言葉が、懐かしく頭に響く。どんな分野でも、大切なことだ。
そしてもう一つの、未知、という言葉が、僕の心を惹きつける。

僕は提案を承諾する。

シルバ「では議会での承認の後、兵を集め、出発しよう」


僕はその後、この近くあるという、迎賓用の宿泊施設に移らないか聞かれた。
僕は少し考え、丁重に断る。

高級な生活にも誘惑されたが、貧乏性だろうか、日本人の気質だろうか、
あるいは、あの宿屋周辺の雑多な雰囲気を、僕は気に入ったのかもしれない。
すると王様は、では宿代くらい今後も肩代わりしよう、と言ってくれる。

そこで僕は言う。

僕「実は、ワークギルドで仕事を探して、働いてみたいんです」


『ワークギルド』
ずっと気になっていた。
ギルドという言葉に、冒険のロマンを感じたのかもしれない。

ギルドについては昨夜、大層手間の掛かる力仕事から
日常のお手伝い程度まで、幅広い仕事を扱っている、と聞いた。

早く元の世界に戻りたいが、今は、ここでしかできないことをしてみたいし、
生活資金くらい自分で稼ぎたい。
そう、王様に伝える。

ならば・・・・・・・、と、王様も話し出す。
どうやら王様は、僕の世界の学問や研究に興味があるらしく、
話を聞きたいらしい。できれば他の人間にも聞かせたいとか。

・・・・・・・面白そうだ。

そんな大層な教えはできませんが、と断りを入れつつ、
僕と王様は、互いに自分の提案を承諾する。

シルバ「こうなると、いつか訪れるそなたの帰還が惜しくなるな。
    ・・・・・まぁ、それは言うまい。
    ところでアーシュ、今日の予定はもう決めたか?」

僕「とりあえず、ワークギルドに行ってみます。
  それと、この近くにあるっていう中央図書館にも行きたいです。
  どんな本があるのか、すごく興味あるので。
  どっちから行くか、まだ決めてませんが」

ダシュ「ならばギルドから行きなさい」
僕「え? ええと、それは・・・・・・・」

ダシュ「大したことではない。ギルドの仕事に、図書館の書庫掃除というのが
    いつも・・・・いや、いつもは言いすぎか。たいていあるのじゃ。

    初心者向きの仕事だが、慢性的に人材不足でな。
    ここだけの話、監視もないので、仕事をうまくやれば本は読み放題じゃ。
    まぁ、どの書庫の担当になるかは、行くまで分からんがな。んっふっふっふ」
シルバ「ふふふ・・・・・」

僕「・・・・・わかりました。やってみます」

ダシュ「ではアーシュ、これを持って行け。
    一晩二晩では、そなたのことは伝わらぬ。それを見せ、
    私と国王のお墨付きであると話せば、不利益にはならぬはず。
    それは明日、返しにくればよい」

大臣さんから、学生証のようなものを受け取る。

ダシュ「私の身分証だ。本人の持つ一枚しか、この世に存在しない。
    それとギルドの仕事は、一般仕事と技術系仕事に分類されている。
    図書館の掃除は一般じゃ。間違えるでないぞ」