修士◆B1E4/CxiTwの物語



【古えの賢者トートの功績とその事実】 [3]

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領主「おお 青の蠍の魔導師 プトマ よ。
   そなたに 北の山の野盗 コルトバ一味の 討伐を命ずる。
   我らが民に 平穏の日々を!」

プトマ「はっ! お任せください。
    クレック ハルサ アン ゆくぞ」
「「「はい! お師匠様!」」」

緑のローブの中の顔に刻まれた、深い皺。
樫の杖を携えた白髪の魔導師、プトマと三名の弟子が、
天窓からの陽光の映える謁見の間を後にする。

ガーデンブルグ北東、森と山の領地。領主プリスケルの土地にて名を馳せる、
今は亡きガーデンブルグの大魔導師、スヴァトの弟子、プトマ。
そのスヴァトをも凌ぐ実力と云われた者こそ、
過去数十年、ガーデンブルグ最強の魔術師と称されてきた、魔老イレイノン。

魔導師としての名声を得た彼らは、この国の男の憧れ。

この国の女の夢は、力強い戦士になること。
男の夢は、徳高い魔導師になること。
この異風な価値観の誕生は、導かれし者クリフトの存在無しには語れない。


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大臣「此度の民からの献上品は以上でございます。」
国王「うむ」
大臣「・・・・・皆の者。此度も素晴らしき一品ばかりであったこと、感謝する。
   下がってよいぞ」

謁見の間で平伏していた民の一団は、今一度頭を床に付ける。
やがて、兵士の合図に合わせて皆が立ち上がり、謁見の間を後にする。

扉が閉まるのを見とどける国王と大臣。
すぐに大臣が、国王に話しかける。

大臣「本日の謁見は以上でございます。
   既に夜の帳も下り始めております。お部屋に戻られますか?」
国王「そうだな・・・・・・王子を、アレクスを我が部屋へ呼べ。話があると」
大臣「はい。畏まりました」

世界の娯楽の中心にして東西の分け目であるコロシアムを有するのは、
もはや世界の中心ではくなった大国、エンドール王国。

現存する王家の中で最古に興った旧エンドール王家と、
今は亡き北の王国、ボンモール王家の流れを汲む、現在のエンドール王家。
その血筋には野心溢れる者が多いが・・・・・
現王フレアネス十世に、それはまず当てはまらない。

しかしこの世には存在するのだ。先祖返りというものも。


―――――――――サントハイム王国―――――――――

?「生きた火だよ。揺れる様を心に思い浮かべてみて」

先ほどから静かに心を落ち着かせ、目を瞑っている僕。
その正面で僕を見守るのは、クリフトさんの末弟、バル君。

魔法、呪文、魔術。
様々な呼称を持つこの世界の不思議な技法。

それを習得できる才能が備わっているかどうかは、本来、
その人から感じ取れるオーラのようなもので判別できるそうだ。
しかしクリフトさんいわく、僕のオーラは、
これまで全く見たことのない、意味不明、異質なものらしい。

ならば、と紹介された呪文の訓練。
僕が勧められたのは、イメージと実物をリンクさせることから始める、
『転写法』という教育手法。

静かな部屋で時間をかけて小さな炎を頭に浮かべ、
次にそれを、スケッチとして繰り返し絵におこす。
自分の中の肖像と完全一致するまで、何度も、何度も。

炎のイメージを用いるのは、誰でも一度は見たことがあるから。
絵の優劣に関係なく、イメージと絵の一致が本人の中で起これば、
そのイメージには、本人にしか判らない独特の変化、
たとえば発光のようなものが起きるらしい。


時間・・・・・・。
あの日からどれくらいだろう。僕がここの世界に来てから。
すぐに戻れそうにはないと、僕は感じ始めている。

夜、静かに襲いかかる衝動。
日中、ふと頭をよぎり延々と巡る、思考の光線。
僕は、静かに狂える自分を抑えているのかもしれない。

あの、悪夢のような思考が巡った日。
初めてこの世界の住人、ジークさんに会った日。
その思考の行く先の代替として、僕は今、
この呪文訓練に精を出しているのだろうか。

・・・・・・・・・・うーん。ただの絵にしかみえないけどなあ。


―――――とある街 ファン・モール学園 魔術課程分校―――――

街の郊外に建つ赤レンガの建物。
その内、一つの部屋に集っている、クリフトと三名の弟子。

応接間にて、レオ王国の二人の著名人と顔を合わせた彼ら。
首を反らし天井を見上げ、腕を組むクリフト。
クリフトの斜め向かいに座り、頭を抱えて俯いているゾク。
窓辺から階下の庭園を見下ろすダグファ。
足元のサンダルに視線を落とし、当てもなくゆっくり歩き回るペトロ。

クリフ「・・・・・・・・・・・」
ペトロ「ちょっと・・・・・・・お手洗い、行ってきます」

ふらふらとした足取りで、ペトロが扉に向かう。

ゾク「では私も」

二人が扉から出ると、クリフトは俯きながら片手を額に当て考え込む。
先ほどから風に押されカタカタと鳴っている窓。
ふいに一段と強い風が当たってガタッっと鳴り、
後にはその音が、途切れることなく続いてゆく。

ダグフ「風が強くなってきました。雨も降りそうです」
クリフ「そうか。・・・・・・・・・皆には、もう少し休んでもらおうか」
ダグフ「・・・・・・・」

ダグファが部屋を出ると、扉の両脇に控えるのは二人の衛兵。

ダグフ「・・・・・・もう暫く部屋に残ることになった。
    従者たちを中へ。できれば食事の手配も頼みたい」
兵士「はっ! 直ちに!」

二人は互いに頷き合い、そして、
面長の精悍な顔つきの兵が一人、足早に去っていった。

クリフ「天は・・・・・天に座すあの方は、このことを知っていたのだろうか」

彼の独り言は、知る者だけが知る困惑を語っていた。