修士◆B1E4/CxiTwの物語



【古えの賢者トートの功績とその事実】 [2]

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サントハイムの港から北西に航路を取り見えてくるのは、
乱れる風と波が造成した、入り組んだ海岸線。
その中の比較的大きな湾内に、海の流れを受け止めるよう置かれた港。

ドックから街道へ進み、町のレンガの壁を越える。
海から吹きつける風にそよぐ、鮮やかな緑の平原の向こう。
尾根に茶色の木々、頂には雪の積もる、尖った灰色の山々。

行く手を幾度も阻む緩やかな河川。ところどころ足の沈み込む、色褪せた湿地帯。
古き時代にこの地で栄えた小さな文明の記憶は、
今はもう、葦の垂れる水面の奥深く、崩れ淀む堆積物の中にしかない。

やがて湿地の中に見え始める、茶土と小石の群れ。
湿地帯を抜け、川沿いに十日ほど進めば、そこには、
背後の山からの巨大な滝が作り出す鮮やかな虹の下、
大地へ流れ出る水路と、水路を塞ぐ大きな鉄柵をいくつも備えた、
円を囲む、青レンガの分厚い壁が見えてくる。

鉄柵の中へ進むと、そこにあるのは、
水路が網の目のように交差し、ボートや船の行き交う、水上都市。
そして、中心部の一際太い水路、くさりかたびらの騎士が守る
鉄柵の先にあるのは、吹き抜けの大きな船着場。

敷設された階段を上り、赤、青、緑の色鮮やかなビロードを纏う
貴族風の面々が闊歩する広間や廊下をいくつも通り抜け、
銀の甲冑に身を包む兵士に守られた金縁の赤い扉を開ければ、
そこはこの国の長、フェリコ国王の居室。

今まさにそこは、修羅場と化していた・・・・・。


フェリ「断じて容認できぬ! わが国を侮辱する気なのか、『あれ』は!!」

若き日の海戦でいかなる敵も唸らせた、太く響く国王の怒号。
その逸話を伝え聞く臣下の一人が、慌ててなだめすかす。

フェリ「海は我らの宝。その支配こそ、わが国が先頭に立ってこそのもの。
    それを・・・・あのとき余があの女王の説得に折れてしまったばかりに・・・・・

    海賊共など、今にして思えば、我らだけでどうにでもなっていたこと。
    南の国にこれほどまでに海の支配を握られてしまっては、どうにもならぬわ!」

?「では先方への返答はやはり・・・・・」
フェリ「認めぬぞこんなもの!
    世界最大の海洋にまで進出を許せば、海洋国家たる我が国の沽券に係わる!!
    ・・・・・・ええい、この手紙も捨てよ!
    こんなもの、近くにあるだけで・・・・・・・ぬうぅぅ・・・・・・」

縮こまりつつ手紙を受け取り、部屋を後にする者たち。
後には、赤ら顔で鼻息荒くする国王が一人、残る。


ここは、王の居城フォーンティーユ有する、王都アクアロッズ。
そしてこの国こそ、世の海賊共の最大の脅威、
勇猛果敢な海軍有する、海洋国家スタンシアラ王国である。


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大陸北部を東西に走る、未だ未踏破の大山脈。
麓の空では、巨大な翼を持つ竜などの空の魔物が飛び回る。

荒野の旅人が進む、薄茶色に変色した土の道。
それは、何百年も前から先人たちが歩き続けてきた証。
その上空を横切るのもまた、太古からの竜たち。
彼らが目指す先は、大陸東方の小さな山の麓、三方を森に囲まれた巨大都市。

突き出た塔の最上階の踊り場に、翼をたたみ降り立つ竜たち。
吹き上がる塵が落ち着く頃、竜の体躯は塔の中へと消えてゆく。

その光景を望む部屋のひとつに、その場所はあった。
金縁の刺繍が施された絨毯と、天蓋付きの大きなベッド。
その部屋に立つ、四人。


かの大賢者クリフトの動向を伝えている、赤毛の魔女、ラジィ。
右隣には、青マント、四角く整った髭と鋭い目を備えた長躯の男、ガシェ外交大臣。
さらにその右隣には、禿げ上がった頭頂部の下に柔和な顔を持つ、イコル商工大臣。
そして三人と対峙する、部屋の主、シルバーレオ国王。

魔女との話が終わると、王は視線を残りの二人に移す。

シルバ「さて、ガシェ、イコル。
    先刻の件、覚悟はしているつもりだ。初手は如何であったか?」
ガシェ「陛下や我々の推察どおりでございます。
    国王陛下からは、妥協の余地無しと、つき返されました」

シルバ「・・・・・・・・・・・では、あちらの国で王と交渉可能な者は?」
イコル「側近の一人と接触できました。
    王の信頼もあり、耳を貸すやもしれません。

    ただ、こちらも条件は厳しいです。
    中間利得額は当方と2倍近く開きがあり、交渉の余地は無し。
    巡航路、及び取扱商品の件は――――・・・・・・・・」


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?「銀の王の仲介の意義は大きいはず・・・・・・」
?「近年の海の様相からして、この結果も予見できた。
  スタンシアラの戦士殿は猪突猛進のお人柄。こうなると一筋縄ではゆかぬぞ」
?「パデキアの生産技術研究が、ようやく実を結ぶときが来たのだ。
  未来は新たな航路の中にある。この巡航船事業、なんとしても・・・・」

地平線の彼方にぼんやりと山が見えるだけの、草原の牧草地。
浅い窪地であるこの地にあるのは、背の低い小屋と
大小のテントの群れが形作る、巨大な集落。

その集落の中心にて、周囲の建物を見下ろすように建つ、灰色の建物。
その一室で今、この大国各地の酋長やその代行者が、一同に介している。

世界最大の版図を誇る大国。
その首都、ルルソでの会合は、常に重大な意味を持つもの。

そう、ここは、農業大国にして秘薬パデキアの唯一の里、ソレッタ国である。