修士◆B1E4/CxiTwの物語



【古えの賢者トートの功績とその事実】 [1]

かつてこの世を地獄に貶(おとし)めた魔物の長、エスターク。

『大魔王』『地獄の帝王』『天を堕とす破壊の神』。
彼が、己が力を以って建立したエスターク帝国。
それは、今は海原が広がるばかりのテララテパの地にて、
霞に隠れた大山脈の中腹に存在した。

最古の人間の歴史は、その帝国の中に。
忌むべき繁栄は、千年の永きに亘ったという。

人間、ドワーフ、エルフ、その他の種族。
奴隷集めの魔物に怯える彼らが暮らすのは、
地の底より日々滾々(こんこん)と吹き出す魔業に覆われた、退廃の世。

ごつごつと黄色がかった岩肌の影。がさがさと音が立つ丈の長い草の群れ。
暗い露が滴(したた)り羽虫が飛び交う、深き森の道。
海や川の波間に垣間見える、毒々しい不定の何か。

留まるも同じ、逃げるも同じ。
親は己が子の誕生に喜ぶことなく、
いずれ失望の眼差しをその身に宿すであろう、哀れな赤子に涙を流す。

その世界に現れた、四人の英雄。

極大の魔術。愕亜の剣戟。
共に戦う者たちが次々と倒れるも、
その死を乗り越え、幾千、幾万の同志たちが、さらに激しい戦いを繰り広げる。

戦乱の果て。ついに大魔王は封印された。
方々へ散る魔物、解放される奴隷。
何者も去った帝国は、広大な大地諸共、海へ没したという。

エスターク大戦。
それは、あらゆる種族の中に息づく物語となる。


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クリフ「伝説と神話の狭間の戦い。この際、詳しい解説を省きましょう.
    君が見たあの書物は、大戦で唯一生き残った英雄、
    賢者トートの著書とされる未解明の書なのです」

ここは、剣と魔法の研究院の応接室。
クリフトさんと、『ペトロ』と呼んでください、と自己紹介された、
ぺトランセルさんという女性のお弟子さん。
僕は二人と、机を挟み互いにソファに座っている。

ペトロ「我が師のレオ王国での呼び名、覚えておられますこと?」

・・・・ええと、謁見の間では確か・・・・『偉大なる賢者の称号を冠する』って

クリフ「そうです。私は『賢者の証』を持っているのです」

クリフトさんは、首に掛けていたお守りらしき物体を机に置く。
それは、手に握り込むことのできるくらいの、白い小さな塊。
歪んだ丸みと突起を持つ武骨な形状だが、特に意匠は施されていないようで、
銀色の鎖らしきものが、塊に開いた穴を貫通し、輪となっている。

クリフ「この物体が何なのか、見当は付きますか?」


これは・・・・・・・石?
どこにでも転がっていそうな・・・・・・・・何か特別なもの?
石・・・・・・鎖・・・・・記念・・・お守り?
うーーーん。

僕はふと目線をあげる。
そこには・・・・壁に飾られた、角のある動物の頭骨。

・・・・もしかして・・・・・・骨?

僕の言葉を聞き、二人の顔に驚きが満ちる。

クリフ「ご賢察のとおりです。これは骨。
    大魔王エスタークの骨と言われています」


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それは、エスターク封印の際、傷ついたその肉体から崩れ落ちたとされるもの。
トートが持ち帰り、以後、歴代の認められた賢者にだけ、
国を越え継承されてきたという。

クリフ「朧げな伝承、古書の幻想的な記述の中にしか見えない、失われた世界。
    それは、魔導師、神官、歴史学者、
    そして、彼らへと連なる代々の師を惹きつけてきました」

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