修士◆B1E4/CxiTwの物語



【世界最大教育機関】 [4]

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資料館での説明が終わり、僕らは各地区を見て回ることになる。
最初はここ、魔術地区だ。
総合舎に戻り・・・・・一階の、外に面した場所で、動物に乗ることになる。

その動物はウィブーといい、カバやサイを大きくしたような大型の二本角の動物。
首の上には従者がおり、背中に、二人横に座れる、天蓋が取り付けられている。
あまり揺れず疾走することが可能で、丁重な客人を運ぶ際に良く使われるらしい。
もっと大きい四人乗りのウィブーもいるそうだ。

セラウェさんは従者に行き先を伝える。僕らは乗り、入口の門を出て・・・・・・
通りを走り・・・・・・林の中を抜け・・・・・・・石垣に囲まれ開け放たれた門の前に降りる。


門の向こうには、目がくらむほどの、とてつもなく高く、でかい塔。

従者を残し、僕らは大きな塔の前まで進む。
まるで、大きな円形の劇場を何十層も上へ積み重ねたような感じだ。
塔の一角に、その大きさには似合わない、小さな入口がある。
小さいといっても、アクデンさんくらいが入れるような大きさだが。

セラウ「この塔は、戦いの訓練のために作られた、『放魔の塔』という施設です。
    100階建てで各階の天井は高く、4階が通常の建物の10階以上に相当します。
    中は迷路のようになっており、通路には学園側が配置した敵が徘徊しています。
    もちろん互いに殺してはいけません。

    挑戦者には階層ごとにペナルティが課せられます。
    例えば、・・・・・1階〜4階までは補助呪文の使用禁止、という具合です。
    他にも、移動速度が半減、逃走の禁止、各階を制限時間以内に突破など、様々です。

    このペナルティは、フロアを覆う特殊な魔法により効果が現れるもので、
    フロアに入ると自動的に課せられます。
    階を重ねてゆくと、複数のペナルティが課せられる階も出てきます。

    敵となるのは、学園の先生はもちろん、卒業生から上級生、同級生、下級生、
    国の現役の戦士や魔術師、あるいは金銭で雇われた傭兵が相手になります。
    上層では、人間より遥かに生命力や力のある、魔物も出現します。
    上層に行くほど強い敵が現れるのです。

    最上階の最奥部までたどり着けばクリアとなります。
    クリアしなくとも卒業に影響はありませんが、これはエリートの証ですね。
    名誉なことですし、卒業後の進路に大きな差が出ます。

    総合武術地区にも同じ趣旨の塔があるんですよ。あちらは『放力の塔』といいます。
    移動速度の減少、アイテム使用禁止など、共通するペナルティもありますが
    あちらでは攻撃力が半減したり、特定の武器が使えなくなったりします」

僕「あの、途中で出たくなったらどうしたらいいんです?」
セラウ「それはですね、まず、入口で兵から六角形状の平板の鍵が渡されます。
    これをフロアの壁にある扉の前で使うと、扉が開き脱出できるのです。

    この鍵は、使うと表面に脱出フロアが表示されます。
    扉の外で待機する人に名前を告げ、鍵を返し、昇降機で降ります。
    一階ごとに止まりますし、建物の中にあるので、落ちる心配もありません」

鍵のシステムがよくわからない。実際見たら、きっとすごい技術なんだろう。

僕「ええと・・・・最上階には何かあるんですか?クリアした証?」
セラウ「はい。奥の祭壇に、番号が記された宝玉があります。
    入口の兵に見せると記録され、後日発表があり、王から表彰があります。

    その後は地区を挙げての祝賀パーティになりますね。滅多にないことなので。
    私は54階が最高でした」

クリアしたら王様から表彰! そんな厳しいのかここは。



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そのあと僕は、学園内の地区を一通り案内してもらった。

『総合武術課程』
魔術地区と大通りを挟む向かい側に、魔術地区と左右対称に配置された地区。
地区内はさらに、修行する分野によって、剣術、槍術などに分かれている。
魔術地区もそうだが、敷地内の広場や森の中で、実戦を意識した訓練をするらしい。

『文学課程』
魔術地区の南東側、見取り図では同地区の上に位置し、王宮施設の左側にある。
各地の歴史ある物語、随筆などを研究し、国語的な才能を養う。
静かな執筆環境を求める学生のため、個室を完備した施設が多数あるとか。

各国の、歴史ある偉大な著作を保管する保管庫がいくつかあるが、
その歴史的価値から、この課程の学生にしか閲覧できない本もあるらしい。

『自然科学・心理課程』
魔術地区から見て、文学地区のある方と反対側、城壁に面する方にある地区。
魔術地区の半分くらいの大きさ。自然科学と心理の課程が一緒になっている。
どちらの分野もまだ発展しきれておらず、この扱いなんだとか。

自然科学課程は近年、この世界の様々な法則を理論的に解明しようとする一派が
さまざまな報告を挙げ、必要性を訴えたため誕生したとか。

心理課程は、由緒ある政治・哲学・帝王学課程から、
人間の心を研究する分野が独立して誕生したらしい。

実験棟という、三階建ての建物がいくつかあり、
棟によって、科学の実験棟、心理学の実験棟とに分かれていた。

『商業・経済課程』
自然科学・心理学地区の北西と南西、見取り図でいえば、同地区の下側と右側、
二つに分断されている地区。下側の区域は、城壁の入口側の壁と接しており、
右側の区域は大通りの少し手前まで広がり、地区の下は商工地区に面している。

元々商業は、生活に特に密着した分野だったが、この国が他民族国家になり、
他国との貿易・経済の発展が重要視されるようになり、誕生したとか。
特徴的な建物は特になかったが、学内では、現代世界の流通の仕組みや
消費者心理についての講義があり、課外授業では実際に物を売って歩くそうだ。

『史学課程』
大通りの手前まである商業・経済地区から大通りまでの細長い区画と、
大通りを挟んだ向かい側の一帯、総合武術地区の下側の左半分を占める課程。
史学地区の下側は商工地区に面している。

この国や他国の歴史、及び原始の生命の研究を行い、また発掘も行っている。
人間と魔物の有史以前の世界がどのようなものか、不明なことばかりで
注目されているらしい。

この地区には史学図書館という施設があるが、専門的な文献が多く
一般人が閲覧しても意味の判らないものが多いんだとか。
また、文学地区の保管庫同様、一般人が閲覧できない文献もあるらしい。

『工芸術課程』
史学地区の右、すなわち南西にある地区。
見取り図では縦長の地区で、右側の壁と、入口側の壁に面しており、
左下は商工地区に面している。

絵画、彫刻はもちろん、声楽、楽器、演劇、陶芸・工芸作品から、
武器、防具、その他様々な道具についての研究・開発を行っている。

どの分野も年二回展覧会があり、特に演劇は、
自分たちで脚本・演出を手がけた公演を行うんだとか。
卒業生の作品は保管され、優秀賞作品は各施設に一般公開されている。
演劇の場合は脚本や台本が保管される。

僕も一部見たが、・・・・・・・・やばい。やばすぎる。本当に学生作品か。
あの彫刻の鬼気迫る感じ、日本刀のような刀身の光り具合、絶対真似できない。

演奏や演劇が行われる屋内ホールの一つも見せてもらった。
幕もちゃんとあり、収容人数は500人程度だとか。
もっと大きなホールや、屋外の舞台もあるらしい。

『政治・哲学・帝王学課程』
この学園で最も古く、最も由緒あり、最も貴族的な雰囲気の漂う地区。
王宮施設の右側に位置し、文学地区とは、王宮施設を挟んだ反対側にある。

王となるために必要な心構えの教育のため、
高名な学者たちの言葉や書物を用い、倫理、道徳などを学ぶ。
また、現職及び元大臣や元国王の講演・講義もあるらしい。

卒業後、優秀な者は国王以外にも、大臣、議会の議員など、
国政の重要なポストに就くことがあり、文字通り、国を動かす者を輩出している。