修士◆B1E4/CxiTwの物語
【世界最大教育機関】 [3]
セラウ「前置きが長くなりましたが、話は我がレオ王国に移ります。
ピサロが地上に侵攻していた頃、当時の我が国の国王キングナックの息子、
キングレオ王子の政治的野心に魔物の一派が付け込みました。
彼の心は操られ、父を捕らえ獄死させ、国王となり民を強圧的に支配しました。
幸い、勇者一行が国王を打ち破り正気に戻したので、悪夢の時代は終わります。
地上が平和になった後、国王は父の死を痛く後悔し、
このような事件は二度と起こしてはならない、と強く思ったといいます。
そして、王族である自分が、王に相応しき強き心を持たなかったこと、
王族による世襲体制、この二つが悪因であると結論付けました。
そこで国王は、国に大号令を発令します。
自分は国王の任を退位し親族にも譲らない。
今後の国王は、民衆から真に心強く王に相応しい者を、選挙で選ぶのだ、と。
この号令に民は驚きましたが、やがて支持が広まり、選挙が開催されます。
その結果、初めての非王族、8代目のエドガー国王が就任しました。
キングレオ国王は、これで民にとって理想の国ができると考えました。
しかし代を重ねるうちに、問題が一つ浮上したのです。
それは、候補者及び選ばれた国王の高齢化です。
年を重ねた者ばかりで治世は短く、どの王も数年で逝去してしまうのです。
民衆から次第に、世襲による安定した治世を求める声が高まり始めました。
そこで、11代目オトロニー国王の時代、まだ存命であったキングレオ元国王は、
病気により伏せったオトロニー国王、及び大臣などの王宮関係者と協議し、
再び号令を発令します。
それは、国の子供を王に相応しい人間を育成する、国営学校を設立し、
この学校の卒業生から代々国王を選出する、というものでした。
そして自らは、卒業生から国王が誕生する日まで、暫定的に王位に就く、と。
既に40歳を超えていた元国王の年齢を不安視する声も出ましたが、提案より14年、
学園設立より12年後、遂に学園出身の13代目、アークレオ国王が誕生します。
アークレオという名は本名ではなく、本名はユースビーといいました。
彼は、キングレオ国王のこれまでの尽力に多大な感謝を示すため、
自ら、アークレオと改名したのです。
以後、国王は就任の際に改名し、『レオ』を語尾に付ける慣例が生まれました。
現国王のシルバーレオも、父は鍛冶屋、母は主婦という一般的な家庭出身です。
セラウ「国王を輩出する我が学園ですが、王としての帝王学を学ぶ専門機関から、
次第に、幅広い分野を学ぶ総合教育機関へと発展してゆきます。
最初は、アークレオ国王が文才であったことで人気が高まった結果、
詩や散文、小説についての素養を深める、『文学課程』が、
次に、勇者様の仲間で我が国出身の魔術師、マーニャ様・ミネア様を教員に迎えた、
ここ魔術課程が、順次設立されました。
やがて本学園は、海外からも優れた教育機関と認知され始めます。
国外からの入学希望者も現れ始め、彼らの入学が許可されるようになり、
その後は種族の壁も越え、ホビット、ドワーフ、エルフ、ダークエルフなど、
遂には魔物までも入学できるようになりました。
先ほどアーシュ様がお会いした総合担任のアクデンですが、彼がかつて、
時の国王に入学を直訴し、勇者の仲間である、サントハイムのクリフト様と
マーニャ様・ミネア様の後押しもあり、魔物の入学が許可されたのです。
現在では国内外から、一般の子供はもちろん、王族や貴族の子息、
果ては魔物の子供に至るまで、多種多様な生徒たちが、
様々な分野で机を並べ、学んでいます。
さぁ、こちらが我が国代々の国王系譜です」
説明を聞きながら行き着いた先。そこの壁には多くの名前と、
それらを繋ぐ線が書き込まれた、大きな木版が掛けられている。
『レオ王国 歴代国王系譜
・王族支配時代
(1)アミル→(2)グレスフォード→(3)フェリゴール→(4)モナス→
(5)ドモリア→(6)キングナック→(7)キングレオ→
・市民選出国王時代
(8)エドガー→(9)ハース→(10)ゼム→
(11)オトロニー→(12)キングレオ→
・学園出身国王時代
(13)アークレオ→(14)ブレイブレオ→(15)クラウンレオ→
(16)アークレオ2世→(17)ディスティレオ→(18)ブレイブレオ2世→
(19)ブレイブレオ3世→(20)アシュトレオ→(21)アークレオ3世→
(22)シルバーレオ』
セラウ「国王の任期は20年と規定されています。在任中に王が逝去された場合、
その時点で新たな国王を選出します。過去に一度だけ、この規定は行使されました。
・・・・・・・あら、ちょうどいいですわね。アーシュ様、よろしければ、
この窓から広場をご覧になられては? 今、魔術の実践授業が始まるところです」
僕「えっ!」
僕は窓から、離れたところにある大きな広場を見下ろす。
坂を少し下った先にあるので、門から見えなかったようだ。
そこには、青のローブを羽織る人たちと黒のローブを羽織る人が一人。
説明では、青のローブは学生、黒のローブは先生だとか。
生徒たちと先生は適当にばらけ、生徒が一人が前に出て・・・・・・・・・!
その生徒の手から突然、氷塊らしものが発露する。・・・・・・・あ!
昨日城を出たときに見た発光! あれはもしかして、これ!?
僕「あ、あの! あれは、あの氷みたいなもの・・・・・」
セラウ「魔法をご覧になるのは初めてですか?」
僕「・・・魔法!?」
セラウ「魔法。魔術、呪文とも呼びます」
僕「・・・あれが、魔術・・・・」
魔術なんて、てっきり、変な儀式やおかしな呪いの類だと思っていた。
セラウ「あの大きさはヒャドでしょうか。氷の呪文です」
僕「氷の呪文。・・・・・あの、こんなのがもっとたくさんあるんですか?」
セラウ「そうですね。・・・・炎の呪文、閃熱の呪文、爆発の呪文などもあります。
攻撃するだけでなく、傷を癒す呪文もありますよ」
僕「癒すって・・・・例えば薬草みたいなものですか?」
セラウ「ええ。でも、あれより回復力の強い魔法がほとんどです。
また、扱える人間は限られますが、死者を生き返らせる魔法もあります」
僕「死者を・・・・・・生き返らせる!? 死に掛けている、じゃなくてですか!?」
セラウ「はい。ただ、死後長時間が経過している、頭部の損傷が激しいなど、
いつくか不可能な場合や制限もあります。
蘇生に関しては数学のような公式がある訳ではなく、あくまでも経験則ですが」
・・・・・・・・本当にファンタジーの世界なんだ、ここは。