修士◆B1E4/CxiTwの物語
【世界最大教育機関】 [1]
?「私は本学園の魔術課程総合担任、アクデンだ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アクデ「・・・・・・・・・どうした。そなたの紹介がまだだが」
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・なんだこやつ。動かない。大きな戸惑いと焦りの気配があるな。
ならばお前の頭の中、勝手に見極めさせてもらおうか。
この者の七日以上前の記憶・・・・・・ジーク、草原、森・・・・・? 空き地?
さらに以前は・・・・・・・・起き上がり・・・・・・・・・!!
この群像は・・・・・・一体!!?
・・・・・・・・・・詳しく見る必要がありそうだ。
・・・・・・・・・・・目の前の、悪魔の容姿を持つ生物の腕が動き出す。
僕「!! な、なに! ひぃ!!」
アクデ「案ずるな」
腕が・・・・上から振り下ろされ・・・・つ、潰される!! 目を閉じ・・・・・・
・・・・・・・・・とさっ・・・・と、頭に何かが乗る。
恐る恐る見上げると、頭の上から何かが伸び・・・・・腕だ。
悪魔の腕が、僕の頭の上に乗っかっている。
・・・・・・・・・・重い。手自体の重さだろうか。悪魔は目を瞑り、何もしてこない。
アクデ「心配せずともよい。身に刻まれた記憶を詳しく見たいだけだ」
記憶を・・・・・・・・・見ている? この姿は、一体・・・・・・・・。
・・・・・・・・不意に頭から腕が取り払われる。
アクデ「・・・・・・・・・・人間以外を見るのは初めてか」
僕「・・・・・・はい。やっぱり・・・・あなたは人間では・・・・・・」
アクデ「アーシュ、そなたの世界の一端を覗かせてもらった。レオ王国も、
サントハイムも、クリフト殿も存在しない。一切がこの世界と異なる世界。
名を変たことは賢明な選択だった。そなたの本名はかくも奇妙で、
およそこの世界のものとは考えられぬ。
そなたは誠に、異世界の旅人だ。
この容姿にさぞ驚かれただろう、アーシュ。
私は、かつてこの地上に無数に存在した、『魔物』という人外の者、
アークデーモンという種族の一人、名をアクデンという」
僕「アークデーモン・・・・アク、デン・・・・・さん?」
デーモン・・・・・悪魔か。
アクデ「少しは落ち着いたようだな。
この世界はかつて、魔物が地上や海にはびこり、人々を無差別に襲っていた。
太古の昔より続く、最早逆らうべくもない自然の摂理であったのだが、
200年ほど前、魔族の王ピサロ殿が、勇者への義理と感謝から、
魔物を引きつれ、魔界に帰られたのだ。
現在この世界の魔物の多くは、人と共存できる魔物だ。数は希少だがな。
遠方の海には、魔界の掟に逆らい、未だ人間を襲う輩もいるが、
全体的には、地上世界から消えたといってよいだろう。
この国においても、魔物はやはり珍しい存在ではあるが、
我が学園があらゆる種族を受け入れているため、
他国より認知もされ、人間と共存する魔物も多いのだ」
緊張と興奮が、一気に高まる!
この世界には、数は少ないが、それこそファンタジー世界のような
人外の存在がいるというのだ。目の前にいるのだから信じる他ない。
・・・・ここは本当の異世界。改めてそのことを認識する。
アクデ「まずはそなたに、この学園のことを説明しておこう。何か聞いているか?」
僕「いえ・・・・国が管理する学校、としか」
アクデ「・・・・・・・急いで連れてきたかったようだし、仕方あるまい。
まず、これを見るが良い」
アクデンと名乗ったこの人?は、本と書類に囲まれた部屋の中、僕の右の壁を指す。
そこに、何かの見取り図が貼られている。
促され近づくと、紙の上部に『ファン・モール学園及び周辺見取図』と、
その下に、内側に色分けのある、少し潰れた正四角形の図が描かれている。
アクデ「これは、そなたが今いる、城壁内の全容を書き表した地図だ。
今では城壁とは名ばかりだがな。
唯一の一般出入口が下、その周辺の小さい横長長方形の区域は、
そなたも泊まっているであろう宿屋のある、商工地区と呼ばれる区域だ。
上辺の城壁に面する最奥部中央が、そなたが王への謁見で訪れた王宮関連区域。
どちらも他の区域と違い、色付けがされていない。
そなたが今いるのは、赤く色付けされたここ、魔術課程の敷地内だ」
地図に向かって左上、魔術と書かれ薄い赤に色付けされた一画を指し示す。
・・・・・よく見ると図の外、上と左横に、それぞれ「11.2」「9.4」と数字が振られ、
城壁の角まで、幅を表わす→が付けられている。
この数字、長さを表わす数字かな。・・・・・・・・・ちょっとまて!
今、魔術って言わなかったか!?
僕「あの、魔術って、・・・・・・・一体、どういう・・・・・」
アクデ「やはり見たことはないのだな。
まぁ、説明も終わらぬうちに見せても混乱するだけだろう。
後で説明させよう。
この城壁内は、王宮関連地区、商工地区があり、
それ以外の全区域は、我がファン・モール学園の管轄区域だ。
城壁内の8割以上の面積、9割以上の人口を占めている。
城壁内は縦9.4km、横11.2kmの壁で構成され、総面積は約106万平方km。
総人口は約12万人」
・・・・・・・・・・・え? 今・・・・・・なんて
僕「あの! ちょっといいですか。それだとあの、こちらの学校、
整理すると・・・・・・縦横9kmくらい、人数も10万人くらいで、それってあの」
アクデ「そう、ここは世界最大教育機関。
学生110000名弱、教職員5500名余り、その他事務員は2000名余りを誇る」
僕「な・・・・・え・・・・」
なんだって!
11万なんて数字、聞いた事ないぞ。
アクデ「陛下から聞く限り、そなたも『大学院』という教育機関の学生らしいな。
これほどの人数はやはり、そちらの世界でも珍しいか」
僕「・・・・・・すごく・・・・大きいです」
僕は改めて地図を見直す。色付けされた区画にそれぞれ、
太字で区画の名称が記されている。
『文学(ぶんがく)課程』・・・・『魔術課程』・・・・『自然科学・心理課程』・・・・・『商業・経済課程』
・・・・『史学課程』・・・・・『工芸術課程』・・・・・・『総合武術課程』・・・・・・『政治・哲学・帝王学課程』
魔術と総合武術の区画が一際大きく、大通りで向かい合っている。
アクデ「そもそもは、王の目の届くところ、また学生たちに王宮を近くで体感させ、
向上心を持たせる趣旨で城近くに学校を設立したはずが、
肝心の城は今や学園に飲み込まれてしまったのだ。なんとも皮肉なことよ。
して、アーシュよ。肝心のそなたが元の世界へ変える方法だが」
僕「あ、そうだ! どういうことかわかりますか!」
アクデ「・・・・いや。残念だが、今の私にはわからぬ」
僕「・・・・・・・そうですか・・・・・」
アクデ「・・・・・・・・・」