修士◆B1E4/CxiTwの物語



【青海幻夢】 [2]

――――――――エンドール王国 王宮――――――――

エ兵1「今日はピリピリしてるらしいよ」
エ兵2「うぅ。そういうときの王子は触らないに限る」

王宮で一際華美な装飾の施されたその扉の警備は、
当番が回ってくる衛兵たちに、青色吐息をつかせるという。

女中1「何のお話ですのー」

その扉の前を、少女の面影を色濃く残す女中が一人、通りかかる。

エ兵2「ん?ああ・・・・そろそろお前が来るんじゃないかって話してたのさ」
女中1「あー、ウソだー。冷たいじゃないー」
エ兵2「ふふん。いつものことさ。お前、今暇なのか?
   確かお前のところに今日、遠くから客人が来てるって聞いたぞ」
女中1「ええ、今お給仕してきたところよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

扉の向こうに広がる私室では今、野心多き愛国者、国王の長子アレクスと、
彼と懇意にしている臣下が一人、ソファで向かい合い座っている。

アレク「親父もたまには何か言わんのか!」
臣下「まぁまぁ、そういきり立ちませぬよう王子。気持ちはわかります。
  こちらではなく、サントハイムの式典の方に主だった要人が軒並み赴くとは。
  日程が一部重なるとはいえ、今回のは少々ご再考いただきたかった」

アレク「わが国の伝統はどこよりも勝る。娯楽とギャンブルが本質ではない。
   それを親父は、素知らぬ顔で・・・・・。酒だ、酒に限る!お前も飲んで行くか?」
臣下「はは。私でよければ・・・・・」


―――――エンドール王国 コロシアム―――――

審判「それまで! 勝者、ゴークなり!!」

「「「 ウオォォォォォ!! 」」」

白石の四角い舞台をすり鉢状に囲う、白石の観覧席。熱戦ともなれば、
立ちあがり声を張る者、口笛を吹く者、金貨銀貨を投げ込む者が続出する。
その行為に対する運営側の注意は形式的なもので、
投下された様々なモノは、勝者の受け取る懸賞の一部となっているのが実情である。

そんな雰囲気にあっても、南向きの特等席のさらに上段、
悠久からの知的さをまとう意匠に彩られた貴賓席に座す、貴族の面々は、
その身に相応しい立居振る舞いをこなす。
たとえその胸中に、眼下の群衆と同じ心が宿ろうとも。

笑顔と拍手と、気に入った選手に後に褒美を与えることが、彼らの最大の心遣い。
もっとも彼らの中には、つい気持ちが身の外に溢れてしまう者もいる。
その様が客たちに、親しみを覚えさせることもあるだろう。

今日の試合も熱かった。
渦巻く聴衆の上、貴賓席は舞台を見下ろす。
そこにいたのは、先日のエンドール王室の式典に出席した
ガーデンブルグとバトランドの要人たちと、傍で佇む彼らの従者。

『BG連合』・・・・それは、バトランドとガーデンブルグの頭文字から生まれた名称。
山脈に阻まれながらも、北方の海と細長い川を介して両国は長き絆を育み・・・・・
それは現在、両国の教育分野にも波及している。

貴族1「いやー、相変わらずそちらの戦士ゴークの強いこと! バトランドの誇りですな」
貴族2「ほっほっほっ。しかし明日の相手、貴国の魔導師レレンドには勝てるかのう。
   二人の対戦成績は今、そちらの二連勝中ですじゃ」
貴族1「きっとまた名試合になりましょう。・・・・・おお! 次は魔法使い対決ですか。
   ぜひ熱い呪文の撃ち合いを・・・・ドラの音が待ちきれませんなぁ。はっはっは!」

貴族3「もう、あなた。 少々はしたないですわよ。家の外では静かにと言ってるでしょうに。
   そうそう、魔法使いといえば。 お二方のお耳にはもう入っていますかしら?
   最近我が国に、クリフト猊下がお越しになられたようですわよ」

貴族4「ほう? それは初耳ですね」
貴族2「ほっほっほっ。わしはご主人殿から少々聞き及んでおりますぞ。
   公にはされてないそうですな」

貴族1「どうやらプトマ先生をお尋ねになったようです。
   先生方は最近、野盗コルトバ一味を討伐しましてねぇ」
貴族3「山に囲まれた我が国に、ああいう輩はホント困りますわ」
貴族2「わが国でも悩みの種ですじゃ。・・・・ただ、最近は世界の海もいろいろありましてな」
貴族1「ほう? スタンシアラのことですかな?」

貴族2「そこもそうじゃが、レオ王国の方もいろいろあるようでしてな。
   そのスタンシアラからの流れ海賊がいよいよ増えてきておると。
   まぁあそこは、テララテパ巡航船事業の中心地ですからの。
   事業を興したレオ王国の先王、女王様も予想してらしたことですが」
貴族4「他には、策定中の新たな海洋事業に関しても、互いに思惑があるようです」

貴族1「しかし、海洋国家スタンシアラも相変わらず、大変ですねえ」
貴族2「同情を禁じ得んのう。大昔から巣食う魔物が、勇者様の旅の後も残っておる。
   そんな場所はあの海だけ。まぁ、きゃつらと渡り合う海兵もさすがじゃが」
貴族4「ピサロ殿が亡くなり、いよいよどうなるのかと思いました。
   息子の方が変わらぬ魔界の統治を約束してくれて、一安心です」

貴族3「でも・・・・・・わたくしやっぱり怖いですわ。マモノ」
貴族1「ははは。慣れてしまえばどうってことないさ」
貴族2「今の奇跡の時代なのかもしれんのう・・・・・・。
   皆さん、今の我々の幸せに乾杯とゆきませぬか」
貴族1「ええ、もちろん」

彼らは手元のグラスを掲げ、互いに目配せする。

「「「「 乾杯 」」」」

やがて、勇者の故郷と名高いブランカの酒が、紳士淑女の口を潤した。