修士◆B1E4/CxiTwの物語



【青海幻夢】 [1]

教授「申請が通ったよ。今月からお前が正式に実験と機械実習のTAだ」
?「あ、はい」
教授「お前も忙しいし、実験中は傍で自分ことしてていいよ。下級生にはいい刺激さ。
  えー・・・・・ってことでよろしく! お前からは何か報告あるか?」
?「えーっと・・・実習で発注した品物の納品日なんですけど・・・――――」

・・・・・・その他二三の連絡事項を取り交わし、僕は教授の部屋を後にする。

あいつが消えて3週間。僕らの環境は、
彼はいないというその外堀から、確実に埋まってゆく。
シンポジウムの発表は卒研生が担当し、その原稿は先生が作成中。
担当していた講義の助手は僕が引き継いだ。

・・・・・・あいつの背中を、みんなが見ていた。

そういえば、あいつと親しかった河口研の三森から、妙な話を聞いた。
事件後にあいつの部屋――最後の痕跡が残る場所――を訪れた三森によれば、
部屋の床に、由来の知れない楕円状の線痕が焼き付いていたという。
無論警察も承知のこととか。

それにしても・・・・渡辺はいつになったら来るんだ!
中谷研の高木が言うには、うちの研究室に来なくなった癖に
学部の講義には出てるそうじゃないか!


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クリフトさんがガーデンブルグという国から帰還して四日。
ルーラという移動魔法を使い小人数で赴いたため、予定はすぐ消化できたらしい。

この世界に来てから、4か月目に差し掛かろうとしている。
今は日本の残暑に当る時期らしいが、日本とは異なる乾いた暑さだ。

町の大通りや路地を、水を湛(たた)えた桶を肩に背負う水売りがねり歩く。
街の水路から水を引いている石組みの水浴び場は、顔に水を浴びせかける若者や、
はしゃぎ回る子供、石段に腰掛け談笑する婦人たちなどで賑わう姿が見受けられ、
中には、そこに流れ込む冷水を水桶でくみ上げ去っていく人もいる。
植樹の下は動物の集会所となり、虫々の声が、そこが生命の宿木であることを語る。

しかしこの日常の中でも、街と学校を結ぶ禿げ道には人の列が長く連なり、
学校の校舎や、町の高台の上から見えるその様は、見飽きることはない。


バル「僕はまだここに来て日が浅いからね・・・・」

・・・・・・・そう。最近僕らの周りが、心なしか慌しくなったように思える。
バル君の兄姉弟子3人とクリフトさんは、よく夜に会合を開いているようだ。

互いの短い黒髪が窓からの日の光に照らされる中、
彼の部屋で魔術の手ほどきを受けている僕。
あっという間の一日が、今日も過ぎてゆくだろう。

――――――レオ王国 キングレオ城 王の部屋――――――

兵士「はっ!間違いございません。パッチとディークは実の兄弟。
  若き日に同じ船で働き、後に名を変えたとのこと。
  罪に覆われた世界の者には、よくある過去です。
  二人は袂を分かち、パッチは南へ。ディークは北のスタンシアラに渡ったのです。
シルバ「・・・・・故郷の町と海を離れ、そして再びという訳か」

ダシュ「近年、この海の貿易を狙う海賊らを考え、ハバリア等の拠点の強化が進んでいます。
   ディークは、この近海を根城にしてからも多数の海賊を落とし、勢力は増す一方。
   彼らの合流は世相を反映したものでは?」
ダーラ「彼らの世界では特に、心置ける者が一人増えるだけで、数を超えた力が生まれます。
   新たな仲間はさらに増えましょう。悪の芽は、か弱いうちに潰しておきませんと」

シルバ「テララテパ・・・・・我が国の『ハバリア港』、エンンドールの『グルノ港』、
   サントハイム砂漠の南のオアシス『デザートアウト』に『海辺の村』。
   その他の多くの拠点を結ぶこの海の貿易は、まだ発展するのだ・・・・・」

―――――――レオ王国北方の海 テララテパ海――――――

雲間の光を受け船体の朱色が映える、海賊ディークの船。
今その主甲板に、先刻落とした船から得た戦果――宝箱をこじ開け得た金貨の山、
乗客の身を彩っていた貴金属の類――が、取り分ごとにきっちり山分けされている。

パッチ「今回の首尾も上々だったなぁ兄貴。こっちの海も相変わらずだ」
ディー「なァに、人の言葉もわからねェバカがいねぇ分、俺の性に合うってもんよ。
   あの海軍のじじいと戦えねぇのはちぃと物足りねぇが・・・・。
   “不沈”の二つ名を一度へし折ってやりたかった。

パッチ「こっちの海だって化け物がうようよいやがる。特に南のレオ王国の辺りはな。
   “青大将”サイップ、“首長竜”のロロノスに、“悪魔将軍”ベリアルン」
ディー「なァに。人の世に縮こまった奴らの怖さなんざ、たかが知れてる。
   それでも俺たちの進路を塞ぐようなら、容赦はしねェ」

海賊1「お頭ぁ! 西北西の方角に軍艦が見えます!」
ディー「なんだぁ?忙しい日だなぁおい。
   まぁいい。今日はもう面倒だ。適当にあしらうとするか」