修士◆B1E4/CxiTwの物語



【導かれし者】

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二百余年前。
かけがえのない仲間たちとの旅にて。


ピサロ「・・・・・・・・――――、――――よ。
   私は仮にも、魔族を束ねる者だ。天空の城に入ることはできない」

雲上に座す天空城の入り口。
私たちは、一番後ろを歩いていた彼の台詞に振り返る。
風になびく銀の長髪。美麗な顔立ちを持つ彼が発したその台詞は、
あるいは、私たちが心の奥底で予想していたものかもしれない。

ピサロ「我々は互いの目的を果たした。
   短い間だったが、まぁ悪くはあるまい。
   だが忘れるな。今、我々だけが繋ぐ二つの世界のことを」

彼は、その細く逞しい右手を前にかざし、人智を超えた言葉を唱える。
その動作に私たちが身構えなかったのは、互いに信頼を得た証。

私たちの前に、赤く半透明の小さな光球が浮かび上がる。
見とれる間もなく、直後に球から細長い光の塊が飛び出し・・・・
全員の右腕の上腕部にぶつかり、染み込み消えてゆく。
慌てて私が袖を捲ると、そこには、何らかの幾何学的な黒い紋様。

皆も己の紋様に見入る中、ピサロは、彼の腕にも刻まれたその紋様を示す。
その頃にはもう、あの光球は消えていた。

ピサロ「これは、互いの世界を守ることを誓う盟約だ。
   いつか肉体と共にこの紋章が朽ちるとき、
   我らの遺志は果たして、世界に根付いているのか。
   人間どもよ、暫(しば)し黙って進め。己が命果てるまで」

ある者はただ眺め、ある者はそっと己の紋様に触れる。
しかしそんな中で我が姫は、紋様を腕の肉ごとぷにぷにと指でつまみ遊んでいる。
その姿を垣間見て、私は少し心が和らいだ。


・・・・・ふと私は、傍に立つ勇者ソフィア見る。
ピサロを見据えたその顔には、張り詰めた決意が宿っているようだった。

ソフィ「・・・・・・わかったわ、ピサロ」

その言葉を受け、皆が改めてピサロに目を向ける。
・・・・・・やがて彼らの顔に、各々の決意が宿っていくのを私は見た。

次代の平和の勇士を育てるとの戦士の誓いを立てる、焔色の鎧の戦士ライアン。
互いの魔術を引き合いに、素直ではないひねた賞賛を贈る、魔導師ブライ先生。
いい男が居なくなると茶化しつつ、旅の感謝の言葉を伝える、踊り子マーニャ。
ピサロとその恋人ロザリーの幸せを優しく願う、神秘の眼差しの占い師ミネア。
魔界をも傘下に収めようというのか。己の店と腕を喧伝する、大商人トルネコ。

元気に体を動かしつつ彼との冒険を回想する、後の我が愛しき妻、アリーナ姫。
そして私は・・・・・実直な神官らしく、己の気持ちを精いっぱいに語る。

・・・・・全てを聞き届けた後、ピサロは我々に背を向ける。

ピサロ「さよならだ。私はここで行く。
   ・・・・・・・勇者よ」

ソフィアは、ただ彼を見る。

ピサロ「お前とは、いずれまた会うだろう。
   そのときは、敵か味方かわからぬがな」

彼の体はふわりと浮いた。
彼の背中の先に、私たちは微かな笑みを見た気がした。
彼は彼方へと飛び去った。
彼の贈り物はまだ、そこに刻まれていた。


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いよいよ私が、最後の導かれし者となってしまった。
ピサロも予想だにしなかったであろう、私の長命。

アッテムトの閉ざされた地の底深くに、古の怪物エスタークは封印されている。
ああどうか、このまま永劫の彼方に忘れ去られてくれれば・・・・・・。
それこそ、魔界の者と共に目指せる唯一の・・・・。

この世界を見届けること。
やがて終わる私の、いや、我々の生・・・・・。
誉れ高き遺志を前へ、前へ・・・・。


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フェリ「・・・・・・・・・それで?」

その絢爛豪華の部屋にいる二人の男は、赤マントを羽織るフェリコ国王と、
サスペンダー付きの灰色の制服を着た、一人の臣下。
王は、壁を彩る若き日の種々の戦利品から一品を手に取り、臣下はそれを見守る。
窓の外には、夕日の映える中で網の目に走る、スタンシアラの街の運河。

臣下「しかし恐ろしき彼の知識は今、いくつかのモノが構想段階にあるのみ。
  機密的な利用は、その気配すらありません。
  今こそ、動く機ではないかと。 陛下!」

・・・・・王は、そのギラリとした眼を戦利品から離し、振り返る。

フェリ「・・・・・ならばその情報とやら。何としてでも持ってこい。話はそれからだ。
   お前に任せる。我が国の繁栄に、余は手段を選ばぬ」


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僕「・・・・・・・・・はぁー・・・・終っっったあああ」

全部手書きはホントに辛い・・・・あー、汗が。タオルタオル。

レオ王国に送る文献の清書を終え、僕の筋肉は一気に弛緩する。
全体量が多いため、締切の日はいつも暑い部屋に一日籠るのだ。
ここは魔法学校の居住区。クリフトさんのお弟子さんが住む建物。
空き部屋が一つあったので、ギルドの仕事もこなしつつ、ここに寝泊りしている。

この学校にも図書館はある。レオ王国の図書館と比べると、
規模の大きさや網羅する分野の範囲ではあちらに敵わないが、
魔法関連の資料は質も量も同等か、それ以上だとか。
科学書も、レオ王国の人たちの著書を何冊も見た。サランの町にも
図書館や本屋があり、今の僕には優れた環境といえるだろう。


『微(かす)かに精神の波動が生まれてきましたね』

クリフトさんの言葉だ。・・・・何週間もかけ、僕にも新たな芽が現れたらしい。
きっかけはある日、いつものように頭に描いた炎の絵を描いていたとき、
その炎が一瞬、何重にもぶれ、ドクンと鼓動を打ったように感じたこと。
・・・・後でバル君に聞かされたが、普通は一週間程度で到達する段階だとか。


・・・・・・・友よ、師よ、家族よ。
望郷の念が失せつつあること。それは、僕の絶望の裏返しなのだろうか。
いや・・・・未知に挑む楽しさ・・・・心が満たされているのだろうか。


アーシュ
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MP  1/1
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