修士◆B1E4/CxiTwの物語



【お世話になります】 [3]

頭の中の闇を、無数の思考光線が交錯する。
これまでに起こったすべての事実、積み重ねた違和感が、
頭の中で、あるひとつの結論を導き出そうとする!

・・・・・・いやでも・・・・まだわからない!
南アルプス市なんてのが登場する今日この世界だ。

きっと僕も知らない日本のどこかに、そんな町があるのさ。
そうさ、ハバリアなんて名前、珍しくもなんとも・・・・・・・。
でも・・・・・・。


今・・・・・・・・・・・なんて・・・・・・・・名乗った?


言葉は?・・・・・・・日本語は通じている。さっきも考えた。何も心配ない!
そうさ。何も心配なんていらない!そうさ!ここは、僕の知る・・・・・・。

ここは・・・・・・・・・いったい・・・・・・・・・・・。

虚空を漂う僕の思考は膨張するばかり。
ビッグバン前に起こるインフレーションの如く、
普段の生活では考えることすらおかしい疑問が、生み出されてゆく。

ここは・・・・・・・・・・・・・・・ここは・・・・・・。


ジーク「あの・・・・・・・大丈夫ですか?何の反応も無くなって。
    無理やり聞くつもりは無いので・・・・・」
僕「!・・・・あ・・・・・・・・すみません。なんだかまだ頭が混乱してて」
ジーク「あぁ、いえいえ、お気になさらずに。
    やはりこの辺りのお方じゃないのかもしれませんねぇ」

戸惑っているさまを気にされたらしい。
いったい僕は・・・・・。



そして次の言葉が、僕に止めを刺した。



ジーク「もしよろしければ、あなたの不思議な体験、
    この先のキングレオ城でシルバーレオ国王に話してみては?」

!!!

ジーク「あ、ここからだと、キングレオ城はハバリアより近いです。
    ただあそこは、一般の住宅は存在しないはずなので・・・・
    あ! もしかしてあなたは、あそこの・・・・・・」

僕「あ、あの! ぶしつけな質問で恐縮ですが、
  ここは・・・・・・その・・・・・日本・・・・・ですよね?」
  ジーク「? にほん? 何が二本なんです?」
僕「ひ!・・・・いや、ここ・・・・ぅ・・に、に、日本って国ですよね!」

ジーク「??  いいえ。ここはレオ王国ですが」

!!!!!!!!!!!!



・・・・・・・・・・・・・・・ここは、夢の中なのか。それなら一番納得できる。
でも僕の夢はいつも、切り取られた映像を無理やり繋げ、
それでいて映像全体が薄い霧に包まれているような、
おぼろげで現実感の無い感じが、必ずあるじゃないか。

それが今はない。
それにあの丘の上で感じた、激烈なる世界の広がり。
あれが、すべて、僕の想像の範疇だというのか!
ありえない!ありえない!ありえない!

頭が、頭がおかしくなる!
僕は日本で生まれたんだ。 僕は日本人なんだ!
まさか!!僕にいったい、どういう想像をしろってんだ!

ここは ここはいったい! いったいどこなんだ!!
なにがあって どう・・・・・なにが! どうして!

僕の知らない日本のどこか?・・・・違う。
古代の世界へタイムワープ?・・・・・・・・違う!
ただの夢の世界?・・・・・・・・・・違う!!!


周りの・・・・・草・・・道・・・空。 ここは・・・・・!

僕は頭を乱暴に振り回し、周りにただただ頭を向け・・・・・・・

じゃあこのおじさんは! 誰!? 誰なんだ!

目の前を・・・・・見て・・・・・・・・


名前・・・・名前・・・・・―――――――――

僕は手で頭を抱え・・・・・・俯(うつむ)き・・・・
思考が―――――――――とまり――――


僕「ああああああああああああ!」
ジーク「ひ!」

絶望の叫びが聞こえる。
壊れる・・・・頭がこわれる。

ジーク「ちょ、いったい、どうし
僕「ああああああああああああ!!!!!」
ジーク「!」

あああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああ・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

既に理解している。
ここは僕の住む世界じゃない。
家への帰り方はわからない。帰り方すらあるのか。

僕は誰なんだ。 僕は・・・・・機械工学の院生で・・・・
いつか努力が実を結び、あの遠い空の向こうに
素晴らしき人間の文明を築き上げる。
僕の存在がその礎になるのを・・・・・夢見て・・・いるはず・・・
僕はいったい・・・・・・

目の前の人間の影と狂うほどの思考の影が、僕を覆い隠している。
ああ、ここが夢の中なら、どれほど楽しく


名前。

そのとき、嵐が治まり、静まり返った頭の闇に、
再び何かの光線が一条、駆け、ひとつの単語が浮かんでくる。
それは、僕がゲームの主人公に必ず名付ける・・・・・・あの名前。

中学生の頃、カッコいい名前を付けたくて散々悩んで、
ア行・サ行から始まる名前は語感がいいって
どっかのマンガか何かで情報を得て・・・・・・

あの後すぐ、新作ゲームの開発状況をファミ通で見て、
そしたらヒロインの名前が僕の考えた名前にそっくりで、
パクられた!なんて、自分勝手なこと思ってたっけ。

ジーク「あの・・・・・」

僕の肉体と精神が、あの信じがたい超時間・超空間の影を潜り(くぐり)
光の下へ現れたのだとしても、僕があの僕であったとしても、僕は・・・・


・・・・・僕は頭を抱えたまま声を震わせ、呟く。
もう僕の名前は使えない。僕はなぜか、そう感じた。


僕「アーシュ・・・・僕の名前、アーシュです。
  この国の、人間かどうか、わかりません。
  たぶん、違うでしょう。
  そして、僕はこの世界の人間ではありません・・・・きっと」

それが、僕の僕としての、初めての言葉だった。


アーシュ
HP 12/13
MP  0/0
<どうぐ>携帯(F900i) E:パジャマ

ジーク=カナッサ
HP 19/21
MP  0/0
<どうぐ>いろいろ E:布の服 聖なるナイフ