修士◆B1E4/CxiTwの物語



【お世話になります】 [2]

僕「・・・・それ、水筒じゃないんですか?」
?「え? すい・・・とう? これは『水袋』ですが・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・沈黙。
別に重苦しい雰囲気ではない。ただ言葉が出ない。

どうも僕の生活感覚と、うまくかみ合わないぞ。
ここが異国ならともかく、日本語は普通に通じているし、
目の前の人も・・・・・は、改めて見ると、少し異国の人の顔立ちに
見えないこともないが・・・・・・あーわからん!頭が混乱してくる!

さっきの服のことといい、ちょっと頭の中を整

?「あの〜、こちらもちょっと分からないことがあるんですが、
  その服装は・・・・・・・寝巻きですかな? よくわかりませんが・・・・」
僕「え?・・・・・・えぇ。あ、やっぱり変ですよね。この姿で歩き回るのは」

?「いや・・・・・むむむ・・・・決してそういう意味では・・・・・・・・!
  その胸のふくらみは何です?」
僕「あぁ、これですか。いや、パジャマのズボンに
  ポケットがなくて、ここに携帯を入れたんですよ。ほら」

携帯を取りだし、見せ

?「な! なんですか! それ!?」
僕「ふぇ? 何って・・・・・・携帯ですが。かなり古いやつですよ。
  もはや化石かと・・・・・持ってないんですか?」

?「け、けいたい?知りませんよ! なんですそれ!?
  シルバーで・・・・白い斑点も見えるし、まるで宝石だ!
  ・・・・・ちょ、ちょっと触らせてくれませんか!」
僕「あ・・・・あぁ、どうぞ、はい」

食いつきに圧倒され携帯を渡す。白い斑点って、ただの塗装の剥がれだが。

?「おぉ、軽い!鉱石から削りだされたものではないのですかな?
  化石なんてとんでもない!これは見たことない石です。
  こんなつるつるで滑らかな曲面、なかなか見られませんよ。
  家の守り石ですかな? さぞ高級な石だとお見受けしますが」


・・・・・なんだかよくわからない。徐々に違和感が心を支配して行く。
服装や水筒のことといい、携帯のことといい、このむずかゆい感覚。
生活環境の隔たり? 本当にそれだけ?

アーミッシュだっけ。宗教上の理由から、テレビはもちろん、
電話や自動車、文明の利器を限りなく捨て去り、
自給自足の生活を送っている人々がアメリカにいるって聞いたけど。
日本にもそんなところが? 

それとも、ずっと農村で生活しているのか?そっちのほうが現実的だし、
田舎はまだこんな生活をしてる人が居るって・・・・・いやまてよ。
最初、自分のことを旅の商人って言ってたよな。うーーん・・・・・・う?


そのとき、募(つの)る違和感と旅の商人という言葉から飛躍し、
あの、最初に経験した、奇妙なことへの疑問が生まれる。
よく考えたら、『旅の商人』という言葉もおかしい。
でも今は、こっちのほうが我慢できない!


僕「あの、今更なんですが、どうして最初、僕から逃げたんです?」
?「え!? あぁ・・・・。 いやぁ・・・・忘れてほしいんですがねぇ・・・・」
僕「どうやら、僕のことをものすごく怖がっていたみたいですが・・・・」

?「まぁ・・・・・お恥ずかしい。もっとちゃんと見ておくべきでした。
  あなたももしかしたらご存知では? 実はですねぇ・・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



この辺りは少し前まで、2、30人規模の盗賊団が出現したらしい。
ただ最近、その盗賊団が根城を変え、
背後にある岩山から居なくなったという噂が流れ出した。
事実、ぱったりと被害が無くなったらしい。

しかし同時に、居なくなったのは仲間割れの結果という噂もあり、
いずれ残党が新たな仲間を連れて戻ってくる、との意見も根強く、
傭兵を護衛として雇い行商などの旅を続ける人も、まだ多いんだとか。
盗賊に関する詳しいことは国が調査中で、公式発表は未だないらしい。

この人は旅の商人なのだが、商人仲間や旅仲間のうち
積極的な旅人や行商が、盗賊が消えたという噂に反応して
確証も無いまま、今までより活動を活発化させたんだとか。

この人は昔、盗賊に、それはひどい被害を被った経験があり、
この状況でも必ず護衛を雇い活動していたらしい。

しかし最近、仕入れ活動がなかなかうまくゆかず、
薬草など、手元の商品が少なくなり、お金の余裕もなくなったため、
少々危険でも旅を続け、今ある商品で儲けが出てから
改めて護衛を探そうと、この近くに歩を進めていたらしい。
そして最終的には、港町で新たに商品を仕入れるつもりだとか。

盗賊はよく、囮が何かしら前方に注意を引きつけ、
本隊が背後から奇襲する戦法をとっていたそうで、
このおじさんは、道外れの丘の向こうから奇声を上げ迫る僕を見て、
盗賊の罠に嵌まった過去を思い出し、思わず逃げようとしたんだとか。



・・・・・・・・・・・・・・聞きたいことは山ほどあった。
おかしいと思った。何度か聞こうと思った。でも、盗賊・・・傭兵・・・・・
息つく間もなく次々とおかしな話が飛び出し、違和感が積み重なって・・・・・

いつの間にか僕は、恐ろしさとも、もどかしさもいえない、
何とも形容し難い、心核を侵食しようとする影に飲み込まれ、
ただただ彼の話を聞き流し始めていて・・・・・・・・・


そしてここまできて、ひとつの想像が頭を掠め(かすめ)はじめる。
影の産物なのか、あるいは心の底深くに元々存在したものなのか、
それは徐々に思考を支配し始め・・・・・
でもあまりにも突拍子過ぎて、考えるのが馬鹿馬鹿しく・・・・・・

何もできない僕は、いよいよ彼の話に、ただ調子を合わせ始め・・・・・


?「この辺りは見てのとおり、見渡す限りの大平原で人家も無く、
  そしてこちらには、盗賊の根城のあるこの岩山が聳えている。
  ところどころ見える丘は、隠れるにはうってつけの地形です。

  さらにこの道の向こう、岩山の右側は、ほら、
  傾斜のある山脈の麓と岩山に挟まれ、
  あそこで挟み撃ちにされたら逃げ場はありません。
  だからこそ、盗賊にとって格好の餌場になる訳です。

  それにしても、あのミルウッドの森の奥地で不思議な体験をするとは、
  やはりあの森には何かあるんでしょうかねぇ・・・・・」


・・・・・・・・・・・・え?
ミルウッド? カタカナ!?

今一度、頭をあの馬鹿馬鹿しい想像が、生き生きと掠め・・・・・・

?「そういえばあなた、家はどこの町にあるのでしょう?
  ここからだと・・・・北東の港町ハバリアが近いですねぇ」

僕「・・・・ぅ・・・・ぇ・・・・」
  ・・・・・・・・・・・・・・・ハバリア?

頭の中に・・・・・

?「あぁそうそう、そういえば」
僕「な、なんでしょう?・・・」

頭が・・・・・混乱して・・・・・そんな・・・・・・限界

?「いやいや、自己紹介がまだでしたね。まずは私から。
  私はジーク。ジーク=カナッサといいます。
  さっきもお話したとおり、旅の商人をやっております。こんな風体でも、
  三代前からカナッサの名を持つ、由緒ある家柄なのですよ。
  よろしければ、あなたのお名前もお聞かせいただけませんか?」


僕「・・・・・・・・・・・・・・・・ぇ?」