修士◆B1E4/CxiTwの物語



【お世話になります】 [1]

「おーーーーーーーーーい!」

息を切らせ大声を張り上げ、僕は斜面を駆け降りる。
しばらくしてその人は・・・・・・・・・・・・・・立ち止まった。
気付いてくれた!!

「すみませーーーん! 待ってくださーーーーい!!」

僕は声を上げながら近づいてゆく!
その人は、近づいてくる僕を認めると・・・・・・・・・・なぜ逃げる!

「ちょ・・・・おま・・・・・待ってぇぇぇ・・・・・・・・・・・」


その人は、後ろも振り向かず一目散に逃げて・・・・
岩山の左側の、川と平原が広がる空間に向かっていくぞ。
でもなぜか律儀に剥げ道の上を走って・・・・結構速い・・・・・
・・・・あ!コケた! よし、一気に詰めるぞ!・・・・・・・・・・・・えい!

僕はようやく追いつき、肩をつか
?「ひいぃ! 見逃して・・・・・・くださいぃ」

???
その人は、僕から逃げるように前に倒れこみ、頭を抱え・・・・・
動かなくなってしまった。


僕「はぁ・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・あ、あの・・・・・・・・」

謎の人は震えている。僕が怖いのか?
こっちはやっと人を見つけて、飛び上がりたいくらい嬉しいのに。

?「私は、あの、ただの、しがない、えぇ、旅の商人ですからして・・・・・
  今は、ろくなものはないですし、今日のところは、見逃していただきたく」
僕「いや・・・・ちょ」

やっと聞いた言葉がこれかよ。僕はしゃがみこみ、再び肩に手
?「ひぃぃいい! お、お願いです。どうか・・・・」

・・・・・・・・・・・・・。

僕「・・・・・あの、もうどうでもいいんで・・・・・・・・・・・・助けて・・・・・」
?「・・・・・・・・・・・・・・・え」
僕「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



?「森の中ですと?」
僕「えぇ!そうなんです! 起きるとなぜか、あの辺鄙(へんぴ)な森の中で!
  昨日はちゃんと、自分の布団で寝たはずなのに!」
?「なんと!・・・・・・・・・むむむ。あの森に・・・・。
  いやはや! 考えただけでも恐ろしいですな。」

僕「いやホント、そのとおりで。こういうの、神隠しって言うんですかね。
  そうとしか思えなくて・・・・・まだ怖さが残っています」
?「かみかくし・・・・・・・・・・・・・・神・・・・・・あぁなるほど。
  確かに、そう感じるのも無理ないですなぁ」

僕「起きてからここまで、独りぼっちで・・・・・どれだけ歩いたか。
  彷徨っていたのは一日もないでしょうが、もうほんとに淋しくて。
  おじさんが見つかって、ホント助かりました!」


オレンジ色を帯び始めた日光の下、剥げた道の上で二人、
胡坐(あぐら)を掻き座っている。
待望の人! やっと・・・・・会えたんだ!


このおじさんは、鼻の下にひげを蓄えており、見たところ40歳くらい。
ふさふさの黒髪を、オールバックのように後ろに流している。
少しぽっちゃりした体型で、身長は僕とそんな変わらず、170cmくらい。
肌は僕と同じで色白だが、顔は彫りが深く瞳は黒い。
鼻は高めで筋が通っていて、眉毛が・・・・・こち亀の両さんのごとくへの字だ。

屈託のない笑顔を振りまきながら話をしてくれる。
体型のせいもあるだろうが、どこか憎めないぽわぽわ感が漂う人だ。

ただ、どうしても気になるのは、この人の服装。
体全体が、半袖の肩から膝上まである緑色の一枚服で覆われていて、
腰の少し上の辺りに、茶色いベルトが巻かれている。

そして、靴が皮靴だ・・・・・いや、それは文字通り、
ただ皮をなめして作ったような、茶色でいかにも原始的な靴。

男物って普通、シャツとズボンだよな。いや、それ以外ももちろん認めるが。
女物のワンピースならともかく、男は・・・・いや、まず見ない。靴だって・・・・。
さっきこの人が背負っていた皮製のバッグなら、まぁ見ないこともないが。


?「そんな状態から帰還したのであれば、どうです?
  乾き物でよければ食べ物がありますが」
僕「え! いや、そんな。人様の食事を頂く訳には・・・・」
?「いえいえ、別にいいんですよ。まともなのは干し肉くらいですし」

え!!

僕「にく!」
?「え!」
僕「・・・・・あ、いえ・・・・すみません。肉はちょっと欲しいかなーーって」
?「あ、あぁ・・・・・・・ははは」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

僕「・・・・んぐ・・・んぐ・・・・・・・・・・・・ほ。
  ・・・・・いやホント、おいしいかったです!木の実しか食べてなくて、
  それと比べたらもう全然! ありがとうございました」

人の手が加えられた食べ物にありつき、僕の心はまた安心感で満たされる。

?「そうですか。いやよかった。 あ、お水もどうぞ」
僕「あ、ありが・・・・・・・・・!・・・・・・・・・・あ、あの、これは」

体を衝撃が走る。

?「え?・・・・・ああ、はいはい。これはそう、ヨトの胃袋から作った水袋です。
  ほら、袋が真っ黒でしょう?羊や牛と違って、ヨトは元から胃袋が黒く、
  ほかの色に染まらないんです。
  最近出回り始めたばかりでヨトの数も少ないですからね。
  知らないのも無理ありません」


さも自慢げで嬉しそうに説明する。
・・・・・いや、そういうことじゃなく・・・・・よと?
僕が聞きたいのは、この皮?の入れ物は何?ってことなんだが。
おじさんは、僕がこの皮の材料を珍しいと思ったと感じているようだ。
まぁそれも間違っちゃいないが。それより『水袋』って・・・・・水筒のこと?

古代、西洋では水入れを動物の内臓で作り、これを水袋と呼んだらしいが、
・・・・・これが!? なんで現代のこの世界で、そんなのが登場するんだ!?