修士◆B1E4/CxiTwの物語



【レオ王国国王 シルバーレオ】 [2]

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入り口から、一番奥にある建物――――あれがお城だろう――――までは、
1本の大通りによって結ばれている。
数々の建物が目に入るが、慣れない馬上のためろくに見れない。
結局、落ち着いて見れたのは、馬を降りてから。
しかしそれも、小隊長さんに急ぐよう促され、すぐ終わる。

馬を降りた場所は、半円形に近い大きな扉の前。縦横はどちらも3mくらい。
扉の上では、大きな獅子の顔が僕らの方を向き、扉の両端には二人の兵士がいる。
モーズさんは小隊長さんから、馬とここで待つように言われている。

城は、外から見るに三階建てで、三段ピラミッドのような概観だ。
三階の天頂部は広い三角屋根になっている。
城の奥の両端には、天頂部と同じくらいの高さに、天井を持つ見張り台が見える。
小隊長さんいわく、謁見の間は三階にあるらしい。

小隊長さんに促され、門の前まで歩く。扉の兵士は小隊長さんを見ると、
決められていたかのように、重そうな扉を開ける・・・・・・・。


・・・・・中に入ると、正面に、廊下の壁で囲まれた、植物が生い茂る大きな部屋がある。
ジークさんいわく、ここは庭園らしい。その中央奥に、上への階段が見える。
扉と庭園の間は廊下で区切られており、何人かの往来がある。
小隊長さんが先頭で、ジークさんが僕の隣に並び、階段を上る。

・・・・着いた先は二階。しかしその近くに、三階への階段は見当たらない。

オキュ「進入者対策だ。少し複雑な構造になっている」

小隊長さんはそう言い、階段のある廊下に面する扉の一つに入ってゆく。
扉に入ると中にはさらに扉が、二つ。正面と左隣にある。
正面の扉の上にプレートがあり、そこには何かの文字が

『階段室』

!!・・・・・・・・・・・・・・・・・な、何だ!?

目の前の文字を見た瞬間、突然頭に言葉が浮かんでくる。
まるでその言葉を、はじめから理解しているかのように!
僕は立ち止まる。もう片方の扉の上を見ると、そこにも文字が書かれており、
・・・・・『待合室』、と読めた。

ジーク「アーシュさん、どうしたんです?」
オキュ「ん?何だ、しっかり付いて来い。階段室に入るぞ」
僕「・・・・・・・・・・・・はい」

扉の中に入ると、きらびやかな装飾が施された大きな階段が、こちらに向いている。
その横には兵士が一人。僕の姿に驚き・・・・軽く一礼する。僕も一礼返す。

オキュ「この上が国王陛下のおわす謁見の間だ。アーシュ、お前の国には
    国王というものが居ないと言ったな。礼節を弁え(わきまえ)るのだぞ」
僕「はい、わかっています」

豪華な階段を昇り・・・・・途中で直角に左に曲がり、すぐに一際明るい光が・・・・・
昇りきると、天井の高い広間に出る。
階段はこの部屋の、少し右側に外れたところに出ているようだ。

左右の壁には、兵士が何人か、奥まで向かい合って立っており、
人間が五人くらい並べる幅の、金縁の赤絨毯が、階段の出口から左に出て、
途中で直角に右に曲がり、後はそのまま奥に伸びている。

絨毯の下から覗く部屋の床は、光沢のある白と灰色の石が組み合わさっている。
そして、赤絨毯を纏(まと)う、数段の、段差の低い階段を昇った一番奥に、
椅子に座りこちらを見る、青い服の一人の人間がいる。

僕たちは赤絨毯の上を進み、階段の前まで歩く。
すると小隊長さんが方膝をつき、頭(こうべ)を垂れる。
見ると、ジークさんも同じように頭を垂れる。僕は慌てて彼らを見習う。

ジーク「(アーシュさん、膝が逆です)」
僕「え?・・・・あ! はい」

膝を替える。小さい声でありがとうございます。

オキュ「国王陛下、先刻お耳に入れた若者をお連れ致しました」
?「うむ。案内ご苦労であった。・・・・・三人とも立つがよい」

声には人の格が宿るらしい。
その、高くも低くもなく、ゆったりした、諭すような声を受け、二人は立ち上がる。
僕も少し遅れ、立ち上がる。

・・・・・国王と言うからお爺さんを想像していたが、目の前の人はかなり若い。
30歳くらいだろうか。髪の毛はブラウンで、・・・・・オールバックだ。髭は無い。
青い靴を履いているが、服の下に白いシャツらしきものが見える。
また、両腕は椅子の肘掛けに置いている。

?「ジークの横の者がそうであるな。
  そなたよ。私はここ、レオ王国の国王、シルバーレオである。
  今一度、そなたの名前を述べてみよ」
僕「は、はい。アーシュと、・・・・・申します」

シルバ「ふむ・・・・・なるほど。ではアーシュよ。既にオキュロから聞いておるな。
    私はそなたから直(じか)に話を聞きたい。着いて早々であるが、話してみよ」
僕「はい。ええと、・・・・・・・・あの日、家に帰って・・・・・・・」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

シルバ「・・・・・・・・・なるほど。そなたの世界は、こことは異なる世界か。
    それがそなたの国のパジャマか。・・・・・なかなか良いものではないか。
僕「どうも、ありがとうございます」

シルバ「確かに私は、日本という国は知らぬ。・・・・にしても、目覚めたのがあの森とは。
    この近代化された現代に、未だ地方に巣くう伝承が囁かれているのも、
    まだ我が王国の威光が完全でないことの証であろうか。

・・・・・・・・・・・かく言う私も、幼い頃に聞いたことがあったな。
入学して最初に悔しかったことは、この話を信じてもらえなかったことだ。ふふふ」

?「陛下、仕方ありますまい。言い伝えは先人たちの知恵でもあります」

最初から王様の近くに立っていた、王様同様に威厳ある人が声を掛ける。
こちらは結構なお爺さんだ。髪は多いが、白髪ばかり。還暦は越えてるだろう。

シルバ「・・・・・・・そうだったな、そなたの言うとおりだ。
    して、アーシュよ。実はそなたに頼みたいことがあるのだが・・・・・
    さっき触らせてもらった、その、けーたい、なるもの、・・・・私にくれぬか?
    ほれ、色も私の名にあるようにシルバーであろう?・・・・どうだ」

僕「え!?・・・・っと・・・・申し訳ないのですが、もし万が一、元の世界と
  連絡が取れたときのことを考えると・・・・手元に置いておきたいので・・・・・」

シルバ「・・・・・そうか、・・・・・そうであるな。家族に会えぬ時分、仕方あるまい。

    ・・・・・・・・相(あい)わかった! して、肝心のそなたの助けになる者だがな、
    いや、国にいるとは思うが、如何(いかん)せん未知のことで、適任がわからぬ。
    それに今日は、もうすぐ夜だ。その者に会わせるのは明日以降だろう。

    今晩は宿に泊まるがよい。宿代は我らが持つ。宿までオキュロも同行する。
    何かあれば宿に連絡する。当てが見つからぬうちは、こちらに滞在するがよかろう。

    そしてジークよ、ここまでアーシュの道案内、大義であった。
    今日はそなたも泊まってゆけ。出発の際には護衛の兵も貸し与えよう。
    そしてアーシュ、そなたには新しい服を与える。その格好では何かと誤解を招く。
    大臣、手配を」

大臣「はい。畏(かしこ)まりました」

先程王様に話しかけた人が応える。大臣だったようだ。
そこで小隊長さんが、顔をこちらに向ける。

オキュ「では早速宿屋に案内しよう。私に付いてくるのだ」
僕「あ、はい。ええと、王様、ありがとうございます」
ジーク「陛下、護衛の件、誠にありがとうございます。
    それではまた、今後ともどうぞご贔屓に」

そこで小隊長さんが再び前を向き、・・・・・左腕を心臓のある右胸に置いたようだ。

オキュ「それでは国王陛下、これにて失礼仕(つかまつ)ります」
シルバ「うむ、よろしく頼むぞ。下がれ」
オキュ「はっ」

小隊長さんは腕を置いたまま、敬礼らしき一礼をする。ジークさんは礼だけ。
僕もやる。

そして僕らは、謁見の間を出た。