修士◆B1E4/CxiTwの物語



【剣と魔法の研究院】 [4]

―――――三日後 魔法学校本校 研究院地区 学長執務室―――――

・・・・・・・・・・――――それは、暖かな朝に始まった。


職員「学長、書簡が届いております」

部屋を訪れた男は、机の書類から目を離しこちらを見るクリフトに、
両手に携えた茶色い書簡を見せる。

クリフ「ああ・・・・誰からです?」
職員「ラジィ=モモドーラ様とハロシュ様の連名でして、
   急報の印が刻印されておりますが・・・・・」

クリフトは差し出された書簡を受け取り、先方の印を確認する。

クリフ「・・・・確かに。どうもありがとう」
職員「では、これにて失礼致します」

クリフトは机の引出しからナイフを取り出し、丁寧な手つきで書簡の封を切る。
扉が閉められた頃には、彼の手には紐で束にされた数枚の紙が握られていた。
紐は解かれ、魔導師と歴史学者のサインが記された文言が読み進められてゆく。

彼の目が動きを止めるまで、そう長い時間はかからなかった。


――――――――――同日 学長執務室―――――――――

クリフ「ああ、呼び出して悪いね」

一日の講義も大方終わりを迎え、太陽の残光が注ぐ中、
ようやく研究機関としての姿を見せ始めた魔法学校。
畏(かしこ)まった調度品揃う学長室に、彼の一番弟子ダグファが入る。

年齢の割に皺(しわ)の少ないその顔には、
見当の付かない戸惑いの色が浮き出ている。

ダグフ「こんな時間になりすみません。お話があるとか」

クリフトが応え、執務机から近くのソファに座りなおすと、
それに合わせてダグファも、失礼します、と言い対面に座る。

クリフ「二人にも後で伝えるけど、今は時間が合わなくてね。
    僕が話す前に簡単に伝えてくれると助かるんだが。

    ・・・・・実は今朝、ラジィ先生とハロシュ先生から、ある重要な知らせが届いた。
    あの王国の無名叙事詩・・・・・・その一冊が完全に解読された、と」
ダグフ「!!」


無名叙事詩の解読。それが意味することは、あまりにも、重い。
無名叙事詩といえば、無名書、無名稀覯(きこう)本とも称され、
ある共通の特徴を持ち世界中に散在する、謎多き希少書の通称。

その特徴とは即ち、未だ解読の進まない古代アルテリア語で書かれており、
書名や著者名すらほとんど明らかでないということ。
そしてこれこそ、無名と冠される由来なのである。

辛うじて意味の推測できる書中の挿絵より、
それらは歴史書や魔道書の類とされている。
このため、今に至るまで多くの魔法使い、あるいは歴史学者が、
秘められた古の知識を明らかにすべく努力してきたのだ。

クリフ「驚くのはそれだけじゃない。さらに――――・・・・・・・」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

部屋の中にぼそぼそと響く二人の会話。
一方はただただ淡々と話し、一方は耳を傾けながら、ときに二、三の言葉を返す。
やがてその顔にまた、驚きの様が見受けられ・・・・・

ダグフ「・・・・・・・・」
クリフ「さっき見せたとおり、具体的なことは手紙では伏せられています。
    ただ、その差し迫った文言から鑑(かんが)みるに、
    先方の提案どおり早急に彼らと会い、かつ適切な時期まで、
    これは内密にして然るべきでしょう」

ダグフ「・・・・・・・・・」
クリフ「すぐに予定を調整します。
    できれば君たちも再び来てほしい。
    彼らの待つ、レオ王国へ」