修士◆B1E4/CxiTwの物語



【剣と魔法の研究院】 [3]

――――――――――アーシュの日記――――――――――

蜃気楼のように朧気(おぼろげ)な遠い山の稜線が見え始めた。
湿気の篭(こも)る海の生活も、あと少しで終わる。

今日の昼から夕方にかけて、海鳥の群れが、
船を先導するように周りを飛び回っていた。
彼らの目に、暇を持て余す僕の姿はどう映っていたのだろうか。

知れば知るほど、魔法というものは摩訶不思議なものだ。
夜、甲板の火種が枯れたときに見た、魔導師の人の指先に灯された小火球。
メラという、炎の魔法の一種だという。

その炎を初めて見たときの驚きといったら、まるで生きた赤い人魂が、
この世界の理を理解しきれない僕の頭の中を、夜の帳の力を用いて煌々と照らし、
さらに強く圧迫してきたかのようだった。

夜は、どこでも同じ思いを僕に抱かせる。
野営の人たちの押しころした声。灯りに群がる羽虫の音。
その周りは、月光の下に清澄の波間が支配する世界。

さらに寝床に就けば、日中僕を包む、世界に麻痺した感覚は失われてゆき、
僕は自分を、さながら孤独の城の主のように感じてしまう。

体をスッポリと包み込むふかふかの掛け布団。
滑らか、堅固な木で組まれた、軋(きし)むことのない床や天井。
それらは、客人として扱われる身分を痛く感じさせる。

噴出す様々な思いが自分の内部に戻って交じり合い、
枕元の携帯に視線を合わせなくなる頃には、
周りはゆっくりと温まってゆき、僕の意識は途切れてゆくのだ。
あの世界と同じ暗闇へと。


――――――――――数日後―――――――――――

南からの季節風が潮を吹きつけるカルカ海港。

目の前には、賢者一行を人目見ようと裏路地や屋根の上にまで溢れた老若男女と、
彼らを押し戻すように適所に置かれた警備兵、そして、その中に隠れてしまった、
港の主役であるはずの海の男の三者が作り出す、人垣の大通りが広がっている。

やがてクリフトさんが船から姿を現すと、歓声は一際大きくなり・・・・・・
巨躯の動物の背に乗る彼が人垣を進むに従い、歓声の渦は移りゆく。

兵士「アーシュ殿、我らが責任を持って宿までお送り致しますぞ」

僕は一行から離れ、サランという城下町へ向かうことになった。