修士◆B1E4/CxiTwの物語



【剣と魔法の研究院】 [2]

――――――――――サントハイム船団 第二号艇―――――――――

商人1「本当に・・・ありがとうございました。
    護衛の方がどんどん倒されて・・・・・・怖くて怖くて」


・・・・・・・・・目の前で見たことを何と言えばいいのか、
太陽が南の天頂に届く頃、見張りの一人が遠くに船を二隻発見し・・・・・
やがてそれらは、民間船とそれに襲い掛かる海賊船と判明する!

船員1「三つ目の髑髏の旗! 見覚えのないものです!」
船長「記憶に残らん程度なら問題ない・・・・。
   現場に最も近い本艇で撃退任務に当たる! 全艇に通達!
   先生、『うみどりの目』を使ってもらってよろしいですか?」

ゾク「ええ、もちろん。
   我らもゆくぞ!」
「「「はい!!」」」

ゾクさんに従っている何人かの、魔導師という人たちが応える。
僕は、うみどりの目、という初めて聞く言葉を頭で反芻(はんすう)するが、
すぐに他の人と共に、船内に通じる扉の方へ避難誘導させられる。

船員2「ご婦人方にはあまり見せるもんじゃあありませんので。
    呼ぶまで下の船室に居てくださいな。まぁ、すぐに終わります。
    部屋で待つ時間より歩いている時間のほうが長いかもしれませんよ」

バンダナを巻いた精悍(せいかん)な海の男の不器用な言葉を受け、
僕らの間にはクスクスとした笑いが漏れる。

僕は、さっきから気になっていたあの言葉の意味を知るため、
近くの壁に寄りかかっている、剣を腰に差し薄い鎧を着た兵士さんに聞いてみる。

僕「あの、すみません。『うみどりの目』って何のことかわかります?」
近衛兵「ん? ああ。あれは海の男の職人技だよ。
    まるで空高く飛ぶ海鳥の目のように、遠くの情景を見極める技だとか。
    実際どんな風に見えるのか、僕には見当も付かないけど。

    今回も大方、海賊共の陣容を確認するために使ったんだろうさ。
    ・・・・・・さ、君も早く降りるんだ」


その説明に小さな驚きの声を上げながら、僕は皆に続き扉の中に入る。
そして最後に振り返ったとき、僕は確かに見た。

ゾク「バギマを!」
魔導師「はっ!」

ゴゥ、という音と共に突如発生した竜巻。すぐさまその旋風に飛び乗り、
潮の香りが辺りに舞う中、商船の方へ大空高く舞い上がるゾクさんを。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

海賊たちへの追撃は行われなかった。
残った二隻の船は、商船の修繕とけが人の治療のため、一時停泊することになる。
さらに船長同士の話し合いで、目的港が同じ方角であることが判明し、
この第二号艇が途中まで同行することが決まる。

商人2「そいつはうちの人気商品。頭痛腰痛をばーんと治すパデキアの軟膏さ。
    ここはひとつ、今回のお礼にどーんと半額にしとくよ。
    ささ、買った買った!」

商人3「如何ですか、そこの御方。
    今は亡き魔法使いエゼボの著書、『魔道詩篇』の写本。
    その弟子イェノックの著書の写本もありますぞ。
    双方、ここいらではなかなかお目にかかれない品ですじゃ。
    今なら・・・・・・・・どうじゃろ。揃ってこれくらいのお値段では」

商人4「おやおやお嬢さん。お首元が寂しいようですねぇ。
    どうです?こちらの蒼く煌(きらめ)くパニア石の首飾り。
    この波のような紋様と輝き。メロワの町原産ならではのモノですよ。
    今なら特別価格、おひとつたったの980G! ぜひこの機会に!」

商売チャンスを逃さない彼らに敬服すべきだろうか。
両船の側面に架けられた平板の足場を介して、皆が行き来し、
ガヤガヤとした二つの主甲板は、ちょっとした見世物市となっている。

第二号艇の主甲板の上、上甲板の一角では、
両船の船長さんとゾクさんが全体を見ながら、何か話しているようだ。

ゾク「・・・・・・・・・・・・・・・・。
   近年の貿易発展は、人々の暮らしに様々なものを与えています。
   その想いは決して―――――・・・・・・・・・・・・・」


出航の知らせが巡ると、皆は各々の船に戻ってゆき・・・・・
やがて、蝶の翅(はね)ように整然と並ぶ櫂が動き出し、
船は、先を往く船団に向け走り出した。