修士◆B1E4/CxiTwの物語



【剣と魔法の研究院】 [1]

―――――――――――忘れ去られし賢人の書――――――――――

ときに、近し数千年の私の心象たるや穏やかになったと感じるものがある。
燃えゆる魂の決意をしたあの日から、私は世のあらゆる常識を凌駕せんとし、
ただただ静かな恐れと怒りの壁を越え、歩み続けてきたのではなかったか。

我らの周囲に広がるもの。
群れる木の中を小さく横切る、木の実を咥(くわ)えた四足の動物。
木の枝に留まりそれを見下ろす、小刻みに頭を回し小さな眼を輝かせる小鳥。

足に触れる緑の草と茶色の土に、我々以外の足跡が刻まれることは久しくなく、
小さき風のみが、一片普遍の俗世界から時折流れ込む。
夜には、人格なき大自然の有象無象の音が私に、誰も知るはずのない、
形も定かならぬ太古からの自然の言語を紡(つむ)がせる。

その幻景はまさに、人々の最後の願い、心地穏やかにするものであり、
数千年の古来より円環のように巡り続けている。

日々の変化が無と変わり果てたのはいつからか。
私のささやかな同居人たる彼は、もはやあのような魔物の姿であるので、
ほんの2、300年ほどでも誰もこの地に迷い込まないと、
私は、自分がこの惑星に生き残った最後の人間のような思いを抱くのである。