修士◆B1E4/CxiTwの物語



【だれかいませんか?】 [2]

とりあえず、あの丘まで向かうべきかな。向こうの景色を見渡せるだろうし。
体力は激しく消耗するはず。でも他に、当ての付くものもない。
よし!行くぞ!


今居る丘を目的地側に下り、僕は歩き出す・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!

平原に下りてすぐ何かを踏み、直後にピリッ!とした痛みが足の裏を襲う。
慌てて足の裏を見ると、靴下の繊維が鋭く切れ血が滲み出てくる・・・・
・・・・・痛みが徐々に大きくなる。何かで皮膚を切ったようだ。

辺りの地面を見回す・・・・・足元の地面から、小さく黒い岩肌が露出している。
岩の頂部は・・・自然が作り出した刃?原始的な短い刃を、横に寝かせたようだ。

今まで特に気にならなかったが、森の中からずっと歩いてためだろう、
元から靴下が黒いため分かりにくいが、裏は結構磨り減っているようだ。

夏物の靴下だったら森の中でアウトだったろう。
しまい忘れの厚手のやつが残してあってよかった。


・・・・・・・くそ・・・痛いなぁ。

平原で草ばかりだと油断してた。血を止める道具なんて、もちろんない。
仕方なく、少し右に反れてあの川の畔(ほとり)に向かう。
川の水で血と汚れを洗い落とすために。


・・・・・・・・・・・・・ああ、冷たい
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・ふぅ。

足と靴下を一通り洗い終わる。怪我してない方もついでに洗って。
靴下には意外に小さい1cmくらいの切れ目。ここから先は
足を庇(かば)う歩き方になる訳だが、まぁ履けないこともない。

血と靴下が乾いたのを見て、再び歩き出す。今度は川に沿って。
傍に水場があると安心するし、水で空腹もある程度紛らわせるだろう。
おっと、携帯チェックだ・・・・・・・・・・圏外か。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「すみませーん、誰かいませんかーーー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・誰か・・・・いないの?


歩き方が変わりペースは落ちたが、僕は一人で丘を目指している。
そして右手には、どこまでも続く、あのも・・・・・・・・!

森の中に偶然見つける。高さ・葉の色など外見が一緒だが、ほかの木々と違い、
何か果実のようなものが実っている木が1本、ある!

すぐ近づき、実を確認してみる。

・・・・・・実のサイズはイチゴくらいの小ささだが、色は白掛かった黄色で、
その形は、柿の種に丸みを持たせたような、ゆるい楕円形をしている。

この謎の実は、太い幹から先へ先へと分かれゆく枝の先端に、
一枝に3〜4粒くらい密集してぶら下がっている。
そして実が付いている枝自身も、密集するように
何本も固まって一特定の場所にある

実の生(な)っている枝は、同じ木の枝の中でもちらほらとしか見えず、
その木の他の枝には蕾(つぼみ)もなく、緑の葉しか付いていない。


空腹だったこともあり、思い切って実を食べてみる。


・・・・・・・・・・あ、あまい。めちゃめちゃ甘いぞ、これ!
桃みたいにさくっとしてて、それに表面の皮も苦くないし、そのまま食べれる!

甘さに夢中になり、むしゃむしゃと食べる。実の中も白く、種はない。
・・・・手にした何粒かを食べた後、僕は、他にも実の生る木があるのか、
前後を見て木々を確認してみる。


ええと、見える範囲では・・・・・・・
3〜4mくらい後ろの1本と10mくらい後ろの1本、
前の方には5mくらい先の1本だけ、3本しか見えないな。
もしかしたら、森の中にも実のある木は生えているのか?
生えている頻度は少ないようだし、中では見逃してたかも。


・・・・・少し入ってみようか。・・・ほんの、少しだけ。

誰も見つからない焦り。それは今、僕の心を支配している。
でも好奇心というものは、いつも人を探求の世界へと誘(いざな)う。
焦りと好奇心の中から、今の自分に必要なものを抜き出し考える。
そして・・・・・・

平原との境界線を踏み越え、僕は森に入り込む。


・・・・・暗い世界が、再び僕の視界を包み込み始める。

平原の中で、僕は空間と自身が一体となっていた気がする。
あれはそう、人が夢見る理想郷、人跡未踏の地、世界最後の秘境。

でもここは・・・・・・・いや、
ここもあるいは秘境と呼ぶべきなのだろうか。

地面はむき出しの土が見えはじめ、かつて感じたあの不気味な、
まるで体で覚えているというべきか、黙(しじま)が生きもの如く僕を覗き、
かつ自らの内は決して覗かせない、相容れない疎外感を思い起こさせる。

そんな中、僕が求めるあの実は、闇を照らす明かりのように思える。
外から14、5歩くらいの範囲まで踏み入り、少々ビビリながら探索してみる。



・・・・・・・・・・・・・・
どうやらこの森の木々には、見る限り3種類の木があるようだ。


1番目の木は、実が生っておらず、緑の葉で覆われている。
どうやらこの木は、あの空き地でその周りに見えたもののようだ。

そして2番目の木は、こちらも実はなく緑の葉のみ生えているが、
幹の先端部の枝の中に一部だけ、葉っぱが全く生えていない枝がある。
この枝には、枝に密着するように小指の爪くらいのこぶが付いている。

そして3番目は、先ほど見つけた謎の実の生っている木だ。

3種類の木の生育場所も少し分かれている。1番目の木は
平原側には全く生えておらず、その辺りには2、3番目の木が集中している。
少し奥側、平原から4列目以降になると、2、3番目の木の中に
1番目の木が生えはじめ、そのため奥では2、3番目の木の本数が減っている。

またどの種類の木も、葉や木の色、高さに違いはない。
パッと見ただけでは同じ種類の木に見える。
・・・・・・・・・まぁ、探索はこんなところでいいだろう・・・・怖いし。


森を出て平原に降り立つ。解放された気分になる。
森の中で新たにいくつか見つけた実を、その場で食べる。
唯一のポケットは携帯で塞がり、持ち歩けないし仕方ない。

・・・・・・・
・・・・・・・・・・・よし! 腹ごしらえはこれくらいでいいか。

まぁ何であれ、食べ物が見つかってよかったよかった。
空腹を紛らわせるし、森はまだまだ先に続いているから
また見つかるだろうし、持ち歩かなくても大丈夫だよな。

食べ終わり少し元気が出てくる。丘に着くまでにまた食べてみようか。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・
歩いてもうひとつ気付いたが、平原には景観を損なわない程度の起伏がある。
最初は丘の上からの荘厳な印象が強烈で、一面真っ平らと思い込んでいた。
それでも大平原には違いないが。


あ!忘れてた!
携帯携帯・・・・・・・・・・・・圏外か。




それにしても・・・・・・・・・・・・

「すみませーーーーん」
・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・ねぇ・・・・だれかいませんか?