修士◆B1E4/CxiTwの物語



【クリフトの話】 [1]

―――――――――――ある兵士の手記―――――――――――

今日、城内に勤める仲間から妙な話を聞かされた。
なんでも最近、異界から来たとかいう人間が一人、王様にお目通りしたとか。
しかもどうやら、結構信用できる人物として扱われているという。

笑わせるぜまったく!
去年だったか、未来を占うとかいうあこぎな占い師が来たことがあった。
あの男は結局王様に会えず、そのままどこか行っちまった。

かつてクリフト様が体験したという、異世界の冒険。
あれくらいのもんだ。信じるに足る話は。
今回の奴もどうせ、あの話を利用したうざったい山師なんじゃないか。



―――――――――自然科学課程総合担任 バーズの日記――――――――

あぁ!今こそまさに、科学史上に残る時代なのだろう!
アーシュ君のいくつかの論文が示すもの。なんと驚くべきことか。
異界の住人。私は納得だ。未だに誰も、これらの理論を理解できない。
その先見性と合理性は、彼の世界の成熟度を示している。

私は、いや我々は、自らの身の程を知るべきだ。
彼の世界には魔法が無いという。おそらくその結果、
この種の知識が大きな進歩を遂げたのだろう。
天文学の雄(ゆう)、我が盟友ラパも、私と同じ感想を述べている。
皆の意見が整い次第、彼の理論の検証実験を進めるべきだ。

検証といえば、彼は面白いことを話していた。
「科学理論とは反証可能性を持つのです」、と。

「理論の基礎となる科学的前提の検証は、どこまで進めても完全にはなり得ません。
 どの時点で前提を認めるかは、“まずこの前提は正しい”という、
 検証者の主観的な意思によるしかないのです」
これが彼の言い分だ。

一連の定義は、我々が求める『完全無欠な理論』の存在の否定を意味する。
彼は、「これはあくまで自分の世界での考え方」とフォローしてくれたが、
この話は少なくとも私の価値観に、影響を与えるだろう。

先に述べたが、彼の理論には魔法関連の理論が一切組み込まれていない。
そこは彼も私たちも、おおいに気にしている。
だが、もし彼が説明したモノ、例えば「ヒコウキ」や「デンチ」、
「熱機関」、「冷凍機関」なるものが実現できるのなら、
それこそは、異世界の魔法ではないだろうか。