修士◆B1E4/CxiTwの物語



【あいつ】 [2]

・・・・・・・・・・・・しばらくは興奮から、眠気が訪れなかった。
それでも、力が抜け・・・・僕は、次第に・・・・目に映る世界が、小さく・・・・・。

記憶の中、母さん・・・・・・・買ったばかりの家・・・・・大学の実験室。
実験工場の一角。研究棟・・・・・僕らの部屋・・・・・その隣、卒研生の部屋。
今、先生は・・・・そして、あいつは・・・・・・。


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?「あいつですか?・・・・・ええと、・・・・・今日はまだ見てません」
教授「あ、そう・・・・。困ったな。朝一でミーティングやりたいって、
   昨日あいつからお願いがあったんだぜ。まったく」
?「あぁ・・・・・そうなんですか。すみません。今日のことはちょっと聞いてないですね」

教授「ふ〜ん・・・・・ところでお前のほう。どうだ?設計図はまだ?」
?「あ、はい。・・・・・・すみません」
教授「いや謝る必要はないって。お前のことなんだから。
   でもスケジュール考えろよなぁ。国際会議に間に合うのかよ」
?「はい・・・・」


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朝、目が覚める。
昨日は、興奮して眠れないだろうと思っていたのに。
屋根の見えない外の空間。深く、青く、晴れ晴れとした空。
いつもの部屋という期待など、していなかった。
体に付着したものを取り払う。・・・・うぉぉ、何だこの虫は。

朝食を取る。ただ、昨日とは異なり、少し落ち着きを取り戻している。
・・・・・・・・・ジークさんが僕に話し掛けてくる。

ジーク「アーシュさん。昨日も話しましたが、お城で王に謁見しませんか?
    私も一緒です。
    そこには、日本やあなたの体験について、何かを知る人がいるかもしれません。
    我が国は世界中から人が集まります。きっと何か情報があるでしょう」

僕「城、ですか」
ジーク「ええ、この先のキングレオ城です。今日を含めてまだ6、7日程歩きますが、
    途中には水場も休憩所も、昨日話したようにちらほらと人家もあります。
    大丈夫! もう森の中のような孤独感はありません」

キングレオ城。日本語的な響きが皆無な名前。
キング、レオ・・・・獅子をモチーフにしているのだろうか。
そして・・・・・この先には、どんな人が待っているのだろうか。

ジーク「それと・・・・・・申し上げにくいことですが、もうひとつ提案があります。
    あなたが体験したこと、道中で会う人には・・・・・伏せておきませんか?
    大変心苦しいとは思いますが、あなたの気分を害される恐れもありますし、
    国王の後ろ盾を得てからの方が、信用されやすいはずです。
    私の知る限り、あなたを理解できそうな人もいます。その人には話してみましょう」

ジークさんは、僕を諭すように提案してくる。
確かに、僕は今、一刻も早く皆に僕の境遇を理解してほしい。
ただ、ジークさんの言うことも一理ある。

僕は提案を受け入れる。服は、途中で調達できれば着替え、
できなければ、説明でうまく誤魔化すことにした。


食後、ジークさんから借りたナイフで髭を剃る。慣れない手が苦々しい。
終わって一休みしていると・・・・・・・・・・。

ジーク「アーシュさん、昨日から気になっていたんですが、足の調子が悪いのですか?
    庇うような歩き方だったので」

僕は事情を話し、足の怪我を見せる。するとジークさんは、鞄から何かの草を・・・・。


ジーク「これは薬草といい、怪我をたちどころに治すものです。
    ものは試し。ささ、どうぞ。葉に乗っている小さな粒々を葉ですり潰して、
    粉末と葉を傷口に押し付けこする感じですよ」

半信半疑で、言われたまま、まだ治りきらない傷口にこすりつける・・・・・・・!!
傷口が、塞がり・・・・・・・跡形もなくなった!
・・・・・・あれ? 草の色が、徐々に・・・・紫色に変わったぞ?

ジーク「原理は不明ですが、葉と粉末のセットが傷を癒すのです。
    しかし、傷口の血に触れると色が変色し、薬草も粉末も使えなくなります。
    ただの血では反応しません。あ、飲み込んでも効果はあるんですよ。
    体が勝手に、あっという間に治してくれます。ただこの場合、
    体にいくつも傷があると、治す傷を選ぶことができません」

僕「・・・・・ほぇー」

まさに奇跡! この世界は何でもありなのか。


・・・・・・・・・・・・・・・・・

僕らは今、歩いている。僕の心は幾分余裕が持て、周りの景色に目を配る。
昨日は暗くて気づかなかったが、自分は今、左手遠くに海と水平線が見える、
岩山の横の道を歩いている。近くには、丘の彼方から流れてきたであろう、あの川。

僕「そういえばジークさん、この先に人家があるっておっしゃってましたよね?
  どうして僕と出会ったとき、僕がその家の人間なのか聞かなかったんです?」

ジーク「え?・・・あぁ、歩き慣れた道ですからね。皆さん商売相手で顔見知りでして。
    そのため、家族のことも大方知っているのですよ。
    人里離れて暮らす方々ですから、気難しい方もいらっしゃいますけどね」
僕「あぁ・・・・・そうなんですか」


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今は夕方頃。周辺の草原には小ぶりな木と、野生の馬らしき動物もいる。
僕は道沿いの小ぶりな木の下に、これまた木で作られた、
色の白い、社(やしろ)のようなものを見つける。

・・・・上部の形状は百葉箱に似ているが、全体の形と幅は、大きいタンスみたい。
収納場所は縦に3つ。上は観音開きの扉で、下のは籠(かご)型の引き出しだ。
上下の収納場所は縦に深さを持つが、真ん中の引き出しは底が浅く
まさしくタンスの引き出しのよう。また、下の引き出しが一番容量が多い。

薄いL字型の鉄棒が四隅に接着されており、下に伸びて箱の足となっている。
足は、箱の下に置かれた灰色の平石に空いた穴にすっぽり収まり、箱を固定している。
揺らしてみたがびくともしない。足が穴の底で固定されているようだ。
高さは台座を含めて、自分の頭より少し高い・・・・180pくらい。

また、近くには、テントと思われるものが設営されている。
それは2つ張られており、どちらも2、3人入れる大きさ。
辺り地面には、火を焚いたと思われる焼け跡が残っている。

・・・・・僕はどれくらい調べていただろう。ジークさんはテントの中を確認してる。

ジーク「誰もいませんねぇ・・・・・では改めまして。この場所が休憩所です。
    あのテントは休むためのもの。これは、食材・道具を保管する、保管箱です」

・・・・・休憩所。僕はてっきり、小さい小屋を想像していた。