[] [] [INDEX] ▼DOWN

4の人◆gYINaOL2aEの物語

神殺[2]
マーニャは、考えていた。
自分には天賦の才がある。
だが、その才を持ってしても――ピサロの術には適わない。
人間と、魔王。
その器の差は如何ともし難くて。
全く同じ術なのに、彼女の術は魔王のそれに劣る。

ブライには、敵を攻撃する以外にも仲間を補助する術がある。
翻って自分はどうだ。
その魔術の強力さに胡坐をかき、ただひたすら敵を圧倒する術しか学ばなかった。
勿論、それには仇討ちのためという理由もあった。
だが、仇討ちを完遂した後もひたすら敵へと力をぶつける魔術を習得し、補助といえば精々がトラマナぐらい。
その甲斐あって手に入れた極大の爆裂呪文であったのに、それすらもあっさり魔王に奪われ。

自分は間違っていたのだろうか?
なんのことはない。
彼の師だなどと言ったって、自分が道を間違えていて誰を導くことができるというのか。

竜神に立ち向かうアリーナ。
彼女は巨大な存在に怯むことなく、打ちかかっていく。
親友を殺された、純なる怒りが彼女を怯えから守り、その拳閃をいつもよりも輝かせる。

嘗ては、アリーナとマーニャはパーティーの要であった。
マーニャにとってアリーナはもう一人の妹であり、いつも前線に出張り危なっかしくも助け甲斐のある少女であった。
なのに――。

「随分と、離されたもんだわ」

知らずのうちに苦笑が漏れる。
そんな彼女に、俺は声をかけた。

「そんなことはない。師匠(マスター)には、師匠の成してきた道がある」

「私の道?」

「そう。火力を追求してきた道。その道をきたからこそ手に入れられたものがある」

マーニャは少し驚いていた。
彼はいつのまに、こんなに大人びた表情をするようになったろう?
天空の城に来るまでは…まだ違う。
そう、この城で彼とソフィアは一時的にパーティーから離脱し…魔界で合流した、その後から…?

この少年、この青年、この男――今やどれでも形容できる存在は、果たして何を学んだというのか?
何を知れば、このような表情ができるのか――?

「この世界にとって、彼の神の影響は絶大だ。
だが――この世界のものじゃ、なければ。あったじゃないか、マーニャ。君がプライドを捨ててまで手に入れた、小さな灯火が」

瞬間、マーニャの全身に電撃が走る。
マーニャ自身が辿り着いた最後の、危険を伴う賭け。
命が惜しいわけではない。下手をすれば仲間をも巻き込みかねない、最悪の呪であるから。

「マーニャなら、大丈夫さ」

だというのに、あっさりと。

「…むかつくわ。少しはいい男になったじゃない」

「喜んで欲しかったな」

「――いいわ。見せてあげる。これが、私の、天才魔術師マーニャちゃんの、最終、最奥の秘術…!」

――我は請う。
最古の力。最古の魔。
最古の闇が灯す暗い炎。


「この血肉をもって契約を!」

マーニャの背中から闇が噴き出した。
仲間達が驚いたように振り返るが、彼女自身が感じているのは噴き出す霧ではなく肩にかかる手であった。
憎悪…嫉妬…怨嗟…彼女が思い出したのはバルザック。
父を殺した憎むべき仇。
ヤツの、いやらしい笑み――。
だがそれに身を任せることはない。旅の中、その心を成長させた彼女が闇に囚われることはない!

「異界の魔王の召喚…素晴らしい…」

神がぽつりと呟く。
その驚嘆に対して、マーニャと魔王がニヤリと嗤う。

「今だ!!!」

ソロの号令が響く。
息のあった動きで、全員が動き出す!
補助呪文が仲間の背を押し、魔法と剣戟に神が一瞬無防備な姿を晒す。

「さあ…いくわよ!大魔王の炎(メラゾーマ)!!」

魔王の御名を冠する炎。
それはメラに相応しいとてもとても小さな火の玉。
真っ直ぐに、レーザーのように標的の元へと飛来し、着弾。
巻き上がる渦――焔の渦の中、悶える竜の影が見える。
仲間達から喝采の声があがる。
そして勿論、そこで手を緩めはしない。
ソロが、アリーナが、ライアンが。そして俺もまた、畳み掛けるために疾駆する。

じりっ。
うなじの毛が逆立つ感覚。その感覚を理解したときにはとき既に遅く。

巨大な焔渦を吹き散らし、両の腕でソロとアリーナを吹き飛ばし、冷たく輝く息でライアンを迎撃する。
そして最後の俺には。
既に宙に浮かんでいる俺には何が起こったのかは解らない。
その羽ばたきにすら俺の身体は耐えることができなく宙へと浮かび。
避けられるべくもない尾撃。

ぶつりっと、いやな音がした。
その音は全員の耳に響き、そして否がおうにも現実を直視させる。
男の身体が二つに断たれている。
胴と、足と。
足の方が天空城の床に落ち、胴の方は遠くに弾き飛ばされ、大地へと吸い込まれていく。

「はは…ハハハハハ…よくぞ我を玉座より立ち上がらせたものだ…。
良いだろう!久方ぶりに血沸き肉踊るわ!!」

人々に神と崇められる存在の、愉悦の混じる哄笑が響き渡った。






落ちていく。
空の城より、地上へと。まっさかさまに。
腕が動く感覚はある。足の動く感覚は無い。
ごうごうと唸りをあげる大気もやがて気にならなくなり…そして俺は自分が落ちているのかどうかも解らなくなった。

目を覚ます。
いや、気絶していたのかどうかも解らない。
ただ、それまでどうやら目を閉じていて、そして今、その目を開いた、ということだけは解る。
そこはなにやら真っ白な空間で、辺りには何も無かった。

「ここは……」

辺りを見回すために首を巡らせる。
そこで気がついた。
確かに首を回した感じはしたが、視界が変わらないのだ。
いや…そもそも、180度の視界を持っているのかどうかも…。
周りが白一色であり、そこには空も大地も無い、という事実を知覚しているだけに過ぎなかった。

「――ようやく会えたね」

それでも便宜上表現するとしたら、そう、眼前に。
小さな。小さな、ふくろがあった。

「……そうだな。こうやって話すのは初めてか……」

「ずっと一緒にいたのに」

そういって、笑う。
笑った雰囲気を感じる。
口もたぬふくろが喋る声を認識する。

「しかしそうか…俺は肝心なところで…悪かったな。結局、何も…できなかった…」

「いいや。そんなことはない。
ボクだけではそれこそ、荷物を運ぶことしかできなかった。
君がいたからこそ…ここまで来ることができた」

「そうかな。…結局、ソフィアは死んだ。皆は…皆には勝って欲しいが…」

「ふふ…さっきから君は何を言っているんだろうと思っていたんだ。
さあ、起こすんだ。彼女を」

「……?」

「君が気付かなければ本当に終ってしまう」

「…………あ…………そう、か…………これか…………」

「君の肉体はもう、壊れてしまった。
これを治す術は僕には無い…。だけど…。神ならざる僕にも、用意できる器がある。
人の身体は無理だけれど。道具なら――全ての道具を収める僕になら、可能だ。
君は、何を望むだろう?勿論、君が望むなら――このまま、器をもたないこともできる。それは、異界への回帰か、消滅か…正直な話、解らないのだけど」

「……」

俺の望み。
そんなものは。あのときから、決まっていた。
[] [] [INDEX] ▲TOP

©2006-AQUA SYSTEM-