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4の人◆gYINaOL2aEの物語

???[1]
目が覚めるとそこは海の中だった。
がぼごぼがぼぼぼぼぼあれ?息できる?
おー…なんだろうこの不思議空間…。
もう大抵の事じゃ驚かないと思ってたけど、これはまた…驚いたなあ…。
と、言いつつさほどでも無さそうなのはやっぱり慣れちゃったんじゃないだろうか。悲しいことだが…人は慣れるものだよ…。

しかし、困ったな。
マーニャ達に何も言わずに出てきてしまった。あの女は…碌な挨拶もなしにいいいいって怒り狂ってる気がする…。
なんとも不義理なマネをしてしまった。どうしたものかな。
それに…。
ソフィアは…どうしてる、かな。

いずれにしても、ここでボーっとしている訳にもいかない。
兎に角、歩くか。歩いていれば…恐らく元の世界に戻れるのだろう。
海…水の中を歩くというのも斬新な経験のように思う。
そうでもないかな?ダイバーの人とかなら結構歩いているのか。
尤も、俺にそんなイケメンな趣味は無いが。

暫く歩くと、前方にうっすらと影のようなものが見えてきた。
なんだろう…目をこらしてじっくりと見てみる…ってなんか近づいてきた!
音が聞こえていたかどうかは覚えていない。
だが、恐るべき速度で恐るべき質量が迫り、俺を弾き飛ばしたのは解る。
水中をぐるぐると回転しながら上昇するが、制動もかけられず勢いが弱まるのを待つしかない。
やっととまったときには既に吐いていた。

き、きもちわるい…なんだ、一体。
かなり吹き飛ばされたのに水面が見えないのは不気味だが、それ以上に真下でぐるぐると蠢いている巨大な影のが数倍不気味だ。
なんだあれ…ってまたくる!?

ばちぃっと吹き飛ばされ最早俺の三半規管はぐだぐだになってしまった。
目が回る…奴はそれが狙いだったのか。
動きが完全に止まった俺めがけてその巨大な顎を広げ、一直線に迫り来る!

もう駄目なのか、と。
そうやって死を認識する事すらできなかった。そもそも、死、というものはそういうものなのかもしれないが。
ようやく思考が回り始めたときには、もう決着がついていた。
視界が霞んでいたがうっすらと覚えている。
俺の前に、情けないことに見慣れてしまった小さな背中が、割り込んできたのを。

海底(なんだろうか?)を揺らし巨大な影が血煙を挙げながら崩れる。
暫く残心のまま、やがて小さく息を吐きこちらを振り返るのは――。

「ソフィア!どうして…」

「飛び込んだから」

そう。
あの瞬間、扉を押し開き飛び込んできた影は、そのまま青い渦に飛び込んでいたのだ。

「だって、デスピサロは…もう時間だって…」

「五月蝿い」

ぴしゃりと言葉を遮られ、俺はどきりとした。
怒っている…?
いや、それは…そうだろう。基本的に鈍い俺でもそれくらいは…解る。

「ごめん。色々はっきりしてから…話そうと思ってたんだけど、いきなりで…」

「……いこう」

少女はそっぽを向いたまま歩き出す。
此処に留まっていてもしょうがない。
最初から方角も何も解らないのだから、目的地を定める必要も無い。
俺たちは当ても無く、不思議空間を彷徨い始めた…。

海に生えていた階段を登ると、洞窟へとたどり着いた。
洞窟を抜けると、今度は山の中。山の中を抜けると今度は塔。
明らかに…繋がりがおかしい。
一瞬、目を離すとソフィアの姿が見えなくなって、慌てて手を前に伸ばすと柔らかい肩を掴む感触。
数歩足を前に出すと、そこには不機嫌そうな顔をしたソフィアがいたりして。
試しに右手を横に突き出してみる。
俺の右腕の先が消失する。そして、その消失した腕から先は、天井から生えているといった具合に。
要するに、この空間は酷く歪んでいるのだ。
そのくせ魔物はうじゃうじゃとしている。
それもかなり強力な、だ。今迄で会ってきた魔物たちよりも…強い。
常にほぼ全力を出さなければならず、俺たちの疲労はかなりのスピードで上がって行った。
もっとも、その分大きな経験も得られているのだろうが。
修練の場としてはもってこいなのかもしれない。

傷ついたソフィアに完全治癒(ベホマ)をかける。
少女は憮然としながらも、俺の呪文を受けてくれた。良かった。これで駄々こねられたらどうしようかと思った。
いや、駄々をこねるというのとも違うか…俺が悪いんだからな。

考えてみると、こうやって二人だけで歩くのは…久しぶりかもしれない。
あの頃は…俺は、今以上に何もできなくて、この少女の後ろに隠れてばかりいて。
少女が傷ついても、何もできなくて…苦い、思い出。

ソフィアもまた思い出していた。
右も左も解らなかった。だけど――独りではなかった、旅。
それは短い期間だったけれど…あの頼りなくて、格好悪かった男が、今は自分の背を守り、傷を癒してくれる。
不思議な感覚…どこか、何かが暖かい。それは、傷を癒してくれる光のせいだけではなく。

「おや?人とは珍しい」

突然上から声が降ってきて少々物思いに耽っていた俺たちはビックリする。
慌てて剣を構えると、傍の階段から降りてきたのは人の良さそうな農夫…だった。
いや、農夫なんだからしょうがない。暢気そうに…できる場所ではないとは思うんだが。

「貴方は?」

「ワシは見ての通りの農夫じゃよ。それより、こちらにおいでなさい。お疲れのようだ、ゆっくり休むが良いじゃろう」

そう言って、登ってきた階段を戻っていく農夫。
俺たちは狐につままれた面持ちでその後ろをついていった…。


そこにはかなりの数の人間が生活しているようだった。
教会が中心にあり、その脇にはいくつかの家と、畑のようなものもある。
農夫に導かれ(微妙な導かれかただ)教会の奥に入ると、そこには神父と王冠を被った人物がいた。

「ほう、新たに迷い込んでいた者らか。此処は安全じゃ。安心するが良い」

「あのう…貴方は一体…」

「わしか?わしはサントハイムという国の王じゃよ」

へー。サントハイムの。

「もっとも、こんなところで王だなどと名乗っても失笑ものじゃがな。
だが兵たちの手前、体裁は整えねばならぬのよ。お主たちは他所から来たようじゃから言ってしまうがの」

わっはっはと笑う王様。
王様って人種にも今迄色々あってきたけどさ。
まさか此処でサントハイムの王様に会うとはね。
わっはっはー。

「こんなとこで何油売ってるんっすか!?アリーナが物凄い心配して探し回ってるってのに!!!」

思わず詰め寄る俺。
アリーナと聞いた王の顔は一変した。
詳しい話を求められた俺は、なるべく簡潔に事の経緯を果たした。

「そうか…そのような事に…。
だがわしらとて此処で遊んでいた訳ではないのだ。外を出れば強力な魔物が根を張っている。
それでもこの建物の周りには何故か魔物は現れないので此処を拠点にしてな。
多大な犠牲を経て外へ出てもみたが、得られたのは奥にいる奇妙な男たちが言い争っている風景だけ。
なんとも情けない話だがな…」

本当に悔しそうにそう言われると、俺たちとしては何も言えない。
その奇妙な男たち…とりあえず、彼らに会ってみるべきだろうか。
ゆっくりと休養を取ってから、俺たちは出発する事にした。


ノックをすると、小さな応えが返ってきた。
ソフィアは、こちらに背を向けてベッドに寝転がっている。
俺は手近な椅子を持って傍により、なるべく音を立てないよう腰掛けた。

「……」

ううむ…気まずい。
だが、黙っている訳にもいかない。

「ごめん。本当は…もっと早く言うべきだった。
だけど、俺の世界に戻れるのか…確証がもてなくて。
戻れないなら、いずれにしてもこちらで生きていかなければならないのだから、わざわざ言う事も無いと思った」

「……それで、戻るの?」

「……」

「戻りたいの?」

「……解らない」

解らない。
戻りたいのか、と言われたら…そう答えるしかない。
俺はこの世界に長く居過ぎた。そして、この世界で沢山のものを得すぎた。
今更…元の世界へ戻ったとしても、何があるのか…無くすモノの方が多過ぎる。
きっと…戻りたくないのだ。
だが、それを認められない。
だからこそ、中途半端な事をし続けて――結果的にこうなった。
マスタードラゴンが何をしたかったのかは…よく、解らない。
どうも俺にとって味方…では、無いようではあったが。

「私は戻る。皆の力になりたいから」

煮え切らない俺に向かって、ソフィアははっきりとそう言った。

「それに…ピサロも…」

「…?ピサロも…?」

「長く眠っている間、夢を見たの。
長い夢…ピサロと、ロザリーの夢。
私は…ピサロも救いたい」

「それは…無理だ。
ロザリーは死んでしまった。それに、もう時間も無い…ソロ達は既にデスピサロ討伐に向かっている筈だ」

「こんな所で油を売る羽目になったのは誰の所為だと思っているのかしら?」

グサリ。
きょ、今日のソフィアさんは…なんか怖いよう…うぐぅ。

「お、俺も協力するよ」

いや、別にビビッてそう言った訳じゃないが。

「……貴方は貴方の世界に戻るんじゃないの?
この空間は捻じ曲がっているようだし、あながち戻れないとも言い切れないわ」

「……………………」

考える。考え抜く。
なんとなく、戻らなければならない気がするから。
戻るものだと思うから。
そういう…曖昧な気持ちを抜いて、考え尽くす。
そうして――決めた。
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