4の人◆gYINaOL2aEの物語
天空城
伝説の顕現。
神話の具現。
空に在り、雲に建つ巨城――。
余りの荘厳さに圧倒され、威圧され、声も無く。
雲の上に立つというあやふやな感覚の中、俺たちは…ただ、ただ、見上げていた。
この世界には不思議な事が沢山あった。
だが、空に浮くこの城程の物は…無かったのではないか。
「…行きましょう」
静寂の帳を破ったのはソフィアだった。
それに、天空の装備を纏ったソロが続く。
アリーナが、クリフトが、ブライが歩み、マーニャとミネアがふわりと雲を踏みしめ並んで行く。
殿はライアンが勤める。俺は、トルネコの後にともすれば震えだしそうになる足を叱咤し、進んでいった。
擦れ違う天空人は珍しげに俺達を見てきたが、こちらもあまり向こうのことをとやかく言えないだろう。
彼ら、彼女らには一様にルーシアと同じように翼があったから、こちらも結構まじまじと見てしまっていたかもしれない。
――ちなみに、ルーシアは城につくや否やいつものアホっぽい話し方ではなく、きちっとした言葉で礼を言い城の中へと入っていった。
どちらが素の彼女だったのだろうか…この城ではあのくらいぴしっとする必要があるのかなあ。
マスタードラゴンへの謁見までの少しの間に、俺たちは天空城を散策してみることにする。
その途中、俺たちは…一人の天空人の女性に出会う。
彼女は、ソロと…そしてソフィアを見つけると、はっと眼を見開いて…何処か、寂しそうに笑った。
そうして、彼女は眼にうっすらと涙を浮かべながら…悲しい昔の物語を教えてくれた。
その昔、地上に落ちて、きこりの若者と恋をした天空人の娘がいたこと。
しかし、天空人と人間は結ばれぬが定め。
きこりの若者は…雷に撃たれ、娘は悲しみに打ちひしがれたまま…空へと連れ戻された。
娘はどんなときも地上に残してきた子供のことを忘れずにいる…。
悲しい、物語。
彼女と別れた後、マーニャがそっと俺に耳打ちしてきた。
「ねぇ、今の話だけど…もしかして、さ」
「もしかして?」
「もう!鈍いわね。ちょっと、ミネア!こっちおいで」
手招きをされてミネアがこちらに近づく。
マーニャが言うには――さきほどの話しに出てきた地上に残された子供、というのは…ソフィアと、ソロのことではないかと。
「ありえないよ。だって、二人には育った村に親が――」
「だけどその親は産みの親じゃなかったのよ?」
「あ――そうか」
そうだ、二人の親は育ての親で、産みの親ではなかったと聞いた。
勇者とて、木の股から産まれてくるわけはない筈で…産みの親は居る筈なのだ。
だけど考えてみると、二人の産みの親を探そうという話には…ならなかった。
何故だろう?今までそうだと思っていた二人が実は産みの親ではないと解ったら――少なからず、探してみたいと思うものではないのだろうか。
「そうとも限りません。お二人が、今まで育ててくれたお父様とお母様を尊敬し、大好きでいたのなら…わざわざ産みの親を探す必要も無いでしょう」
「そうねえ。産みの親ってなるとなんだか本当の親とかって感じになるし…じゃあ育ててくれた人達は偽者の親なのかって言ったらそんなこともないしね」
そういうものだろうか。
…確かにそうかもしれないが…。
「思い返してみれば、かのご婦人と勇者どのたちには、どこか面影がありましたな」
にゅっと顔を突き出してきたから俺たちはびっくりしてしまう。
ライアンが珍しいこともあるものだ。あまり、この手の話には入ってこないのだが。
「いえ、私も疑問の思いましたので。…かのご婦人が…勇者どのたちの、産みの親なのではないかと」
彼女が?
…だけど、その割には何もなかった。
ただ物語を教えてくれただけで――そう、なんだろう。その、感動の再会?
ちょっと俗な言い方だと思うが、お互い名乗りもせず普通に別れてしまっていて、親子の再会という雰囲気ではなかった。
ソフィアたちは顔も覚えていないようだから仕方が無いとして――子供のことを忘れずにいる彼女がどうして名乗らないのだろう?
「それは――私にも理由は解りかねます」
「ほら、掟とかあるみたいだし、その辺りじゃない?」
…なんでそんな掟があるんだろう。
理由は…俺には解らない何かがあるのかもしれない。
だけど、なんだかすっきりしなかった。
図書館で進化の秘法や戦いの歴史についての本を読んでいる最中に、兵士に呼ばれた。
俺たちは再び集い、一緒に玉座の間の扉をくぐる。
そこには、神がいた。
俺の眼の前に、竜神がいた。
大きく喉が鳴る音が聞こえる。
神――神か。これが、神なのか――!
黄金に輝く、巨大な龍――こんな存在が、本当に居て良いのか――。
「…私はこの城を治めるマスタードラゴン。竜の、神と呼ばれているものだ」
竜神は、こちらが思っているほどに絶対的なものではないのだと歯痒そうに述べ、
ときとして思わぬ力を発揮する種族、人間である導かれし者たちに賭けると言った。
「この城の真下が闇の世界への入り口…。
ソロ、そしてソフィアよ!いくがよい!」
ソロの持っていた天空の剣が輝く。
マスタードラゴンの力を得、剣はまさに神剣と化した。
トルネコの眼が剣と同じ位に光り輝いている。
一同、特にミネアとクリフトが感激に打ち震えながらも、めいめい勇ましく退出していく。
そんな中、俺は一人その場に残った。
最後に出て行ったミネアが、心配そうにこちらを振り返ったが、扉が音を立てて閉められる。
場に残された俺を、竜神の眼光が射抜く。
俺はその…冷たい…いや、冷たいのでは、ない…眼光に、思わず目を伏せてしまった。
「…どうしたのだ?」
「あ…そ、その…」
落ち着け!落ち着け、俺。俺だって、ここまで旅を続けてきたんだ。
竜だって見てきた!勿論、ここまででかい竜ではなかったが。
「俺、あの…じ、実は!この世界の人間じゃなくて!だから!
ああ、くそ、上手く説明できねえ…だからさ…」
――訥々と、自分の境遇、今迄の事、多くを語った。
余計な事も多分に話した気がするが、神はそれを止めなかった。
何故だろうか。ただ、そこだけは神らしい――らしい、というのもおかしな話だが――慈悲深さであったかもしれない。
即ち。
「なるほど。お前は元の世界に戻りたい、というのだな」
「ああ、そうだよ!」
「だが、本当に良いのか?この世界に未練はないのか」
「未練……」
未練は…ある。
そうだ…とりあえず、戻れるのなら、戻る前にやらなきゃならない事は沢山あるのだが。未練…というのは、戻ることそのものについて、だろうか?
ならば…本当に、良いのか?戻れる…なら、戻るのか?
だって…それが、正しい事だと思ってた。それが自然な事だと思ってた!
だから…正しい、んだ…。
沈黙を肯定と受け取り、竜神は鷹揚に頷いて見せる。
「では――開こう。扉を」
空気が変わった。
俺は背後の気配に振り返る。
空間が――収縮する――それはどこか、見た光で――。
青い…渦、のようなものが…。
ず…ずずず…!!
「な…!?」
引き摺りこまれる!?
堪えようとするが、これは――もたない――。
「ま、待ってくれ!まだ――まだ、やる事が――」
だが。
そう言って振り返り、仰ぎ見る俺を神は――見下ろし。いや、見下し。
嗤って――いたのだ。
――ばぁぁぁぁぁぁぁん!!
扉の前に控えていた兵士を薙ぎ倒し、巨大な扉が押し開かれる。
そのときには、俺は袖に身体の半ばを渦の中に引き摺りこまれており。
そうして、そのまま。
何事もなかったかのように人を飲み込んだ青い渦は、その姿を消失させた。
残ったのは竜神のみ。
低く嗤っていた神は、小さく呟いた。
「そうだな。戻るのも良かろう。今まで…よく、楽しませてくれた。
もっとも…何処に戻れるのかは保証せんが…な」
くっと、口の端を締める。
そのすぐ後に、導かれし者達がドヤドヤとやってきた。
マスタードラゴンは事情を説明し、ミネアがそれを聞き捕捉をいれた。
異世界の存在――皆、それにそれぞれのリアクションを取っていたが。
デスピサロの件が火急である事を理由に、マスタードラゴンは半ば無理矢理彼らを雲に開いた穴へと導いた。
HP:110/125
MP:20/61
Eドラゴンキラー Eみかわしの服 Eパンツ
戦闘:物理障壁,攻勢力向上,治癒,上位治癒
通常:治癒,上位治癒
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