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4の人◆gYINaOL2aEの物語

イムル〜バトランド[2]




翌日、俺たちは皆が同じ夢を見た事を確認したが、夢の内容については積極的に検討しなかった。
ピサロの恋人のような娘。彼女の願いは、ピサロを止めてくれる者が現れる事。
だが――止める、とはなんだ。
つまり、ピサロを殺せと言っているのか――そうではあるまいな。
そしてそうでない以上、例えただの夢では無かったとしても、一行の中心であるソフィアが納得する筈が無い。
故に、不思議な夢の話はこの時それ以上膨らむ事は無かった。



バトランドで、勇者と呼ばれる少女は王との謁見をはたした。
ライアンの良き理解者であり、質実剛健を地で行くかのような王は、戦士が見事目的を達成した事を喜び、一同を歓待してくれた。

まあ、肝心の天空の盾は無かった訳だが。
何でも昔、隣国のガーデンブルクの女王にあげてしまったらしい。
あげるってなんだ。献上?それとも贈呈?あー、いや、女王に、か。
ガーデンブルクという国の性質も考えるとこれはちょっと色々事情があるのかもしれない。

夜には小さな宴が開かれた。
ライアンが目的を達成したお祝いと、更に続く旅への壮行会のようなものも兼ねている。
そして、主賓にもう一人。勇者その人である。
事件を解決し、自国の村を救った英雄の帰還と、噂に名高い勇者の存命且つ、来訪は明るいニュースだったのだろう。
大々的にしないのは、配慮であるとも取れるし、相応のレベルかなとも思う。
今迄の城でこんな待遇を受けた事は無いし。サントハイムが正常な状態なら、違っただろうが…。
まあ、勇者と言っても山師的なのもいるだろうし、やはりライアンの存在なんだろうな。

俺たちはそれぞれ、正装をさせられた。タキシードだか燕尾服だかそういうの。
襟元が苦しい…しかし、トルネコのサイズもちゃんとあるんだから、王宮ってのは準備の良いものだなあ。
女たちはそれぞれにドレスを着ていた。
マーニャは相変わらず露出のでかい上にきらきらとした派手な衣装だし、ミネアはそれとは対照的に落ち着いた色の、控え目な装いだ。
ま、どっちも似合っているのだが。
アリーナは髪を結い上げて、スカートの大きなまさにプリンセスと言った感じのドレスを着ている。
彼女自身は動き難いと嫌がったそうだが、ブライの泣きが入ったらしい。
ソフィアの方は青緑を基調としたドレスが髪とマッチして可愛らしかった。
頭にはティアラではなく天空の兜をそのままつけていたが、あれは兜って感じでも無い為それほど違和感は無い。
とりあえず、うちの女性陣は美人揃いで非常に見目麗しいのだが、男どもはダメだなあと思った。(主に俺とトルネコとブライ)

アリーナとクリフトが危なげないダンスを披露している。
こう見ると、やっぱりお姫様だよなあ。クリフトの作法も実に堂に入ったものだ。
ライアンがソフィアを伴い、フロアの中央に進む。
…ソフィアは確か、田舎者の筈だが…大丈夫だろうか…。
俺の心配通りに、少女のステップは滅茶苦茶で、少し場の空気が変わる。
だが、それを無難にまとめ見事なリードをしてみせたのが王宮戦士であった。
鎧姿を見慣れてしまった俺たちにしてみれば、彼の正装はちょっとおかしかったのだが、こういう場に立ってみると馴染んでいるなと思わせられる。

「へー。中々やるじゃない。だけど、まだまだねー。私のレベルについてこれるいい男はいないみたい」

マーニャさんが酷評なさる。
…誰にも聴こえてないだろうな?何で俺がびくびくしないとダメなんだろう。

「…ふん。宮廷のきの字も知らない小娘が…宮廷ダンスの奥深さも知らぬと見える…」

ヒイ!?
なんでこう、マーニャとブライは衝突するんだ!?
二人は俺を挟んで火花を散らしている。何で俺は挟まれてるんだろう。今度からはもっと立ち位置をチェックしないと…。

「あーら。お爺ちゃんが私のステップについてこれるかしら?」

「やめておけやめておけ。おぬしの足がもつれてすっ転ぶだけじゃ」

「……私が足をもつれさせるですって?上等じゃない……年寄りだからって容赦しないわよ!?」

睨み合う二人はそのままずんずんとフロアに降り立ち踊り始める。
その、竜虎相打つと言った――主に表情に出ている鬼気迫る雰囲気に、周りからもどよめきが起こる。
パフォーマーがするようなその大袈裟な表情が怖いと言うか、面白いと言うか。笑いが我慢できないというか。

俺とミネアとトルネコは壁の花だ。
ミネアの方は、何度か誘われているようだが全て断っていた。
「私は、こういうのはちょっと…」

苦手らしい。ま、それっぽいっすね。
俺とトルネコにはそういう浮いた噂は無い。
ああ、この恰幅の良い親父の隣という位置。実に落ち着く。もしかしたら、此処こそが、俺の真のポジションなんじゃないか?

「何ぼーっとしてるの?踊ろー!」

突然にゅっとアリーナが顔を出してきた。
驚いてのけぞる俺。TU−KA庶民の俺が踊れる訳ねーだろーが。アホか。っかー、これだから王族とか貴族ってやつぁー困るぜぇ。
俺のやさぐれをアリーナは全く気にせず、フロアの中央へとずるずる引き摺っていく。
クリフトが姫君を止められないのを謝るかのように両手を合わせているのが見えた。

「大丈夫よ。皆最初から踊れる訳ないんだから。基本ステップだけ覚えて、後は曲に合わせて動けばそれでいいの。
別に難しい技とかしてかっこつける必要なんて無いし」

そうは言っても。
人前で下手を晒して恥をかきたくないし、周りの視線が気になるのは最早病気の域だ。
――笑われている気がする。これだけでもう、身体が動かない。

「此処にいる人達は別に貴方の粗を探して喜ぶ為に来てる訳じゃないでしょー?
中には性根の腐ったのもいるかもしれないけど、そういうのは極少数!基本的に皆味方だから!
それに相手が典型的な貴族の娘とかならアレかもしれないけど私なら別に足踏んでも大丈夫よ」

アリーナらしい強引な理屈だなと半ば感嘆しながら、結局流される意志薄弱な俺。
基本ステップ…を覚えるのですら大分手間取った。それから先は、主にアリーナがくるくる回るのに合わせて、身体の位置をずらすといった程度である。
それでも踊っているように見えるんだろうか?よくわかんね。それより、この身体の密着具合が鬱で死にたくなる。

「ね?大丈夫でしょ?ダンスはね、踊っている人が楽しいと感じる事が一番大事なのよ」
満面の笑みを浮かべて少女がそう言った。
彼女も元気になったものである。やはり、父の残した言葉というのが偉大だったのだろう。
ようやく解放され、アリーナ姫も気が済んだのかなと思いきや、今度はトルネコにレクチャーするようである。
全くもって元気の塊のようだ。
俺が再び壁際に戻ると、ミネアに声をかけられた。

「見てましたよ。お上手じゃないですか」

彼女の世辞に素直に礼を言う。

「折角ですし、ソフィアさんを誘ってみたらどうですか?」

お前な。
何が折角なんだと。
その折角の遣い方は絶対におかしい。コンバット越前の『せっかくだから俺はこの赤の扉を選ぶぜ』並におかしい。
あのな。折角だからってのは割といい加減な表現なんだよ。
ソフィアを誘うって。女の子をダンスに誘うってのはそんないい加減にできるもんじゃねーだろ。
どこぞのホストでも池面でもない俺になんでそんなハードルの高い要求してくれてるのか小一時間問い詰めたい。

「……何だか凄い必死ですね……ですが、アリーナさんと踊ってソフィアさんとは踊れないんですか?」

は……あ、そうか。これは所謂、社交辞令……礼儀的な一面って事か?
あーなんかそんなのありそうね。貴族社会の通例なんてしらんけど、誰か一人をやたらちやほやするのってジョンブルっぽくない。
別にアリーナをちやほやした覚えも無いんだが…引き摺られただけだし…うーむ。
なんかやだな。何かの罰ゲームで隣にいる女の子グループをナンパする位に嫌だ。
けどまあ、相手がソフィアなだけ気が楽かもしれないが。

「うだうだしてないで行け!」

マーニャにぼかんと尻を蹴っ飛ばされる。
なんか汗だくではーはー荒い息を吐いてるぞ…ブライは倒れてるし。魂出てないだろうな?
どうやらかなり白熱した好勝負だったらしい。種類の違うダンスとは言え、踊り子と渡り合えるのだからこれはブライを褒めるべきだろう。
ソフィアはライアンと踊り終えた後は、フロアを見ているだけで誰とも踊っていないようだった。
誘われはするものの、丁重に断っている。
断ってくれると逆に、恥をかかずに済むかもしれない…あれ?断られるのはいいの?まあ、ある意味当然の結果だと思えるし…。
ネガティブな思考で逃げ道を作りつつ、ソフィアに手を差し伸べる。
少女は少し驚いた顔をした。

あああああああああああああああああああああああああああああ死にたい。いや、死のう。

驚かれるってどうしたらいいかわかんないけど微妙だよね!!
腰が砕けにそうになる俺。そんな俺を哀れんでくれたのか、少女はそっと小さな手を添えた。

手袋をしていても、解る。少女の手はその容姿や年齢に似合わず、酷く荒れていた。

毎日行われる鍛錬により豆ができ、潰れ、治りきらぬ上から鍛錬を重ねる毎日の証。
少女と同じ手をしている女性は、この場では恐らくアリーナだけであろう。
今度は少女がしまったという顔をして、手を引っ込めようとした。
それを咄嗟に掴み止める。
これは、哀れみでは無い。少女の荒れた手が嫌だなんて、俺は思っていないのだから。
では少女が俺に手を添えたのは哀れみだったのだろうか?
俺はそんな事はどうでも良いと思った。そんなのは、どちらでも良い事だ。

つたない足取りでステップを踏む。
勇者と、その従者のような者のダンスは、とても見れたものでは無かった。
だが、二人は楽しそうであり、それをハラハラと見守る周囲の人々にもまた、暖かい笑顔が浮かんでいた。

HP:78/78
MP:36/36
Eはじゃの剣 Eみかわしの服 Eパンツ
戦闘:物理障壁,攻勢力向上
通常:
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