4の人◆gYINaOL2aEの物語
ガーデンブルグ
俺は今、
*ろうやのなかにいる*
ああ…。石壁が冷たいのよぉ…。
なんかもう俺の人生設計は完全に瓦解したな…。
常に限りなく白に近いグレーを歩み、決して犯罪はしないで細々と欲求を満たしつつ、平々凡々とした一生を送りたかったのに…。
獄に繋がれるっていよいよもうダメじゃん…。気持ち的にダメになる…。
ソフィアちゃんが隣に寝てた時以上に悪い状況やよね…。
そもそも、何で箪笥を開けたら怒られるんだ。
ずっとそうしてきた!それでも何も言われなかった!!
下着を被って遊んでいたんだ何が悪い!!
……。
悪い事だね。
バトランドから更に東へ進む途中、巨大な岩が道を塞いでいた。
だが、サントハイムの宝物庫にあったマグマの杖をブライが設置すると、岩はたちまちどろどろに溶けてしまった。
武器や鎧には特殊な力を持つものがあるという。俺の持っている破邪の剣もそうらしい。詳しくは後の講義でブライが教えてくれる事となった。
ガーデンブルクは女性の国。
と、言っても女しか居ないという訳でもないようだ。ま、当たり前と言えば当たり前だが。
ジェンダーとかあんまり好きくないし、俺は女に対して極端な被害妄想が発症するものだから最初は気が乗らなかったのだが、女性陣がこぞってピンクのレオタードを購入し、装備し始めた当たりから色んな所のテンションが妙に上がってしまった。
それが失態である。
此処までの旅の道中で、ソフィア達が結構好き勝手に壷を割ったりしていたのを見ていた俺は、調子に乗ってしまいある部屋の箪笥を開けてしまった。
そして、つい、下着を発見してしまったのだ。
考えてみると此処は異世界である。現実の法など適用される事も無いのではないかと今更ながらに思ったから。
網タイツを履いて準備完了。
クロス・アウッ!!!(脱衣!!)
…もう、語るのすら辛くなってきた…。
今、思えばどうして脱いだのか全く持って自分でも解らない…いくらソフィア達より先行していたとは言え…俺が俺じゃないような…俺って誰だ…。
テンションが上がるのって怖いな…これが俺のスーパーハイテンション?それとも更に高みがあるのか。
そのままの姿で連行された俺は周りから大分冷たい眼で見られたが、何故か興奮してる自分が居たりして余計に涅槃に赴きたくなる。
女王の前まで引き立てられた俺達に、主な罪状はロザリオの強奪だと言い渡される。(下着は別に盗もうとした訳では無い、というのが認められた。何故?)
無くなったらしいロザリオについて、こっちは知らんから濡れ衣である。
その旨を訴えると女王は、信用するから犯人を捕まえて見せろとか言い出した。
これだからヒステリックな女は嫌いなんですよー。
濡れ衣だと言うなら自分達の無罪を証明してみせろってその理屈なんかおかしくねー?その前に証拠がねーだろう証拠が!
そんな真っ当な反論も、この姿では形を成す訳が無い。変態って辛いね…。というか俺自身が証拠になりかねんよな…。
現在の俺は、人質というわけである。全員で捕まえに行ったら、そのまま逃げちゃうしね。
人質を選択する時に、微妙な牽制の仕合があったのだが、俺に決まった時のトルネコの顔が忘れられない。
諦観から意外、そして歓喜へと変わる一連の変化…。
俺の悲しい慟哭が地下に響く。
なんだか虚しくなってきたので、この機会に本でも読む事にしよう。
十分な灯りがあるとは言えないが仕方があるまい。
ソフィア達が冤罪を晴らしてくれるまでの我慢だ。
この本は、例のエドガン秘密研究所にあったものを拝借した手記のようなものである。
とりあえず、最も気になっていた『進化の秘法』について、何か解らないかとぱらぱらめくっていく。
あったあった…。
『進化の秘法が及ぼす変質についての考察。
勿論、ここでは具体的な内容などは言及しない。
あれは封印すべき邪悪なる法であるからだ。
見つけてしまった私の責任において破棄するとして、此処では、何故進化の秘法が邪悪なそれかという簡単なメモを残しておく。
いずれまとめて後の世の警鐘としたい…が、それすらも残さない方が良いのかもしれない。
そういった存在があるという事を知ってしまえば、好奇心を強くもつ人と言う種族にとって不幸な知識になってしまうかもしれないからだ。
結局私自身の手で燃やす事になり、徒労となるかもしれないが、それはそれで良いだろう。
だがこの手記が存在している間は、記しておかなければならない事がある。
この法は、唯、単純に力が手に入ると言った類のものでは無いという事を。
進化の秘法の使用に際し、起こる現象として最も注目されるのが肉体的変質である。
見た目にも解りやすく、外部への影響も大きい。
これは別の項でまとめるとして、此処では私が最も懸念する現象を記述したい。
それは、精神的変質である。
肉体的な変質は進化の秘法の進行具合や資質にも依るのだが、元に戻れるケースがある。
だが、精神的変質が元に戻る事は――奇跡などが起こらぬ限りありえ無い。
まず、欲、そして強い感情などが増幅される。
肥大化した欲を満たす為、肉体の変質が始まるが、元の身体を維持する事は当然ながらできない。
優先順位が変わるのだ。…こんなものに手を出すとするなら、その程度の事は覚悟の上で望むものかもしれないが…。
力は強くなり、炎や吹雪を操る化け物となる。だが、それでも欲は決して満たされない。
満たされた時こそ、進化の終るときだからだ。
延々と無間地獄のように続く進化の中で、止められない欲を満たす為あらゆる倫理観が崩壊し、己の法でのみ活動するようになる事が、この進化の秘法の邪悪さの根源と言えるだろう。
錬金術において進化とは――』
あれ?ここで切れてる…うーん、まあ、なんだろう。
あんまり解ったことってないな。
それも仕方が無いか。エドガン自身の為のメモのようだし、バリバリ解るものが残っていたらそれはそれで問題だろうしな。
進化の秘法の困るところっていうのが、倫理観の崩壊であるって事なんだろうけど…。
欲、欲か。
食欲、性欲、睡眠欲…。それ以外にも、何かしらの欲というものを人…いや、意思、意識あるものは持っている。
同時に大なり小なり我慢して生きていく。そうしなければ、社会は成り立たないだろう。
…進化の秘法を使うと、その欲が我慢できない位に増幅されてしまう。『手段』による『目的』の変質…。
『目的』に達するための『手段』なのに、永遠に『目的』が達成される事が無くなる『手段』でもある…。
それは殆どの目的にとって、相応しい手段足りえない。
肉体的な力も強くなってるから、周りにとっては傍迷惑な事この上なくなってしまう、と。
「何を読んでるんですか?」
っぷぉあ!?
耳元に響いた声に、俺は驚いて跳ね上がる。
疚しい事は何も無いのだが、寝床の下に本を隠す。まるでエロ本を隠すかのように。
声の主はミネアだった。な、なんでこんなとこに居るんだ。確かガーデンブルク南の洞窟に盗賊を追いかけてるんじゃ…。
「ええ、少し思うところがありまして。人質になる事にしました。
普通に兵士の方に鍵を開けてもらって、入ってきたんですけど…何か集中して読んでいたようですね」
全く気付かなかった。
っつか、ミネアが人質やるなら俺はいなくても良いんじゃ…。
「そうでしょうけど、まあ良いじゃないですか」
…良いのか?いや、どうなんだろう…。
ちらりと羽織った外套の裾から太ももが覗く。
あ、あぁーーっ!?ミネアもレオタードじゃん!?
£ヽレ)£ヽレ)£ヽレ)£ヽレ)!!!!!!!!!!ギャル文字使っちゃう位無理だよ!!
――こんな狭くて薄暗い所で、レオタード着た美人と二人きり――。
俺は慌てて煩悩を退散させる為の呪文を唱え始める。
(落ちつくんだ…『素数』を数えて落ちつくんだ…『素数』は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字…俺に勇気を与えてくれる。
2…3…5…7…11…13…17…19…)
「それにしても、私たちも長い付き合いになりましたね。
あのエンドールで出会ったのは、もうどの位昔になるでしょう」
少し不自然な話の振り方に少々戸惑いながらも、俺もまたあの頃へと思いを馳せる。
そう――どの位になるのだろう。
一年?二年か?それ以上かもしれない。
「貴方は――少し、逞しくなりましたね」
そうだろうか?――そうかもしれない。
腕も足も大分太くなってしまっているし、肌も少し日焼けしている。
大地を歩き続けることで体力もついた。元々、体格はそこそこだったのでそれなりに見れるかもしれない。
顔以外は('A`)
「以前の貴方は、とても弱々しかったけれど。
そういえば、出会う前の貴方は何をしていたんですっけ」
……。
それは、その。まあ、旅とか。旅人だった訳で。
「ええ、そう仰られてましたね。
あの細腕で、この物騒な時に一人旅を」
……。
「私…。貴方を責めているのではありません。
ですが、少々納得できないのも事実なんです。疑念という程のものではありませんが、すっきりしたい。
覚えてますか?サントハイム城で、バルザックによって貴方が斃された時…」
ああ、と小さく頷いた。
頷きながらも、どうしたものかと頭を回転させていたが、妙案は浮かばない。
「擬似蘇生(ザオラル)という呪文は、体組織の再生の後、意志――魂とは少し違うのですがそれに近い――を引き戻す必要があります。
完全蘇生(ザオリク)との違いはそこにあるのですが…あちらはより、洗練された知識と現界力が必要になり、高度なんです。
…意志を引き戻すという行為の途中、術者は対象の精神に直接触れます。それで――まあ、その……色々と、視えるんです」
なんで顔を赤らめてるんだろう?
……おま、バカ、何視たんだ!?
「いいんです!何も視てません!いえ、視えたんですけどそういうのは見て無いんです!!
ですから、私が言いたいのは――貴方には、背景が何も視えなかったんです。勿論、全て視えしまうなどと言う事は無いのですが…。
貴方はまるで、ソフィアさんと出会った瞬間に、産まれたかのように……ソフィアさんや私たちと居る時が全てのようで……。
いえ、それも事実ではありません。…視えた事を信じ、伝えてきた私がこんな言い難い事は初めてです。
私自身が、信じ難い――あまりに荒唐無稽な。
笑わないでください。貴方に、私は――まるで、異世界を視たんです」
――――。
……そう、か。あの時の、あの視線は……そういう意味の……。
「貴方にとってはきっと荒唐無稽なんかじゃない、真実なのだと思います。
だけどあまりに突飛だから――誰にも話さなかったとしても、不思議ではない。
……今迄一緒に旅をしてきて、今更貴方を疑う事などありません。
ですから、貴方から聞きたいのです」
……それを聞いて、どうするんだ。
「どうもしません。望まれないのであれば他の人に話しもしません。
だけど、私は視てしまったから――。視てみぬ振りをしたくなかった。
…私では貴方と同じ世界を共有することは出来ないかもしれない。それでも、少しは耐性があるつもりです。
ずっと、お独りで居らしたのではないですか?心の内では」
ああ、そう、かも、しれ、ない。
ずっと、ずぅっと独りぼっちだったのだろうか。
思い出を共有する相手も、常識を共有する相手もいない。
知識を共有できる相手もいないし、目的を共有する相手もいなかった。
遥かな異世界で唯ひたすら日々の忙しさに眼を向けて、まるで現実を見なかった。
幸いなことに言葉は通じた。食うに困るという事も余り無かった。出会いが良かったと言えるだろう。
それを良い事に――考えてこなかった。考えずに済まさなければ、足が止まってしまいそうだったから。
ふとした瞬間に脳裏を掠める度に、それっぽい理屈をつけて隅へ、奥へと押し込めて。
それを――他人に指摘されただけで、こうも簡単に揺らいでしまうものなのか。
「私は、貴方の力になりたい。
貴方は、私達を助けてくれたから」
だが――それでも。やはり、遥かに遠いのだ。この地で眼が覚めたあの瞬間は。
「……大丈夫だよ、ミネア」
かりかりと鼻の頭を掻きながら、そう答えた。
俺は彼女から少し視線を外す。
「俺は…確かに、見た事も聞いた事も無い世界に突然放り出されてしまったけど…。
だけどやっぱり独りじゃなかった。ソフィアが居てくれたし、すぐにあんた達にも出会えた。
それに、今はほら、竜の神さまとやらに会えれば何とかなるかもって気もしてるし。
……けど、もし戻れないって言われた時は……」
その時は、また、泣いてしまうかもしれないとそう思う。
だから、続く彼女の言葉は、俺にとって本当にありがたく、最も聞きたい言葉だったかもしれない。
「……そうですか。解りました。その時は、思い詰めずどうかお話してください。
――ええ、これでいよいよ私達は空の城へと赴かなければなりませんね。
導かれし者達だけではなく、貴方も一緒に」
細い指を折り畳み、くっと拳を握る。
そうして、ふんわりとした笑みをこちらに向けるのだった。
その慈愛に満ちた表情を見ていると、鼻の奥がつんとしてくるのを感じて、俺は必死に堪えた。
数日して、ソフィアたちが戻って来る前に一足速く、彼女達が無事、盗賊を捕えたと言う報告が入った。
それまでは牢屋で治療呪文について集中講義を受けていたのだが、掌を返したかのように賓客として遇される事となり戸惑う。
玉座の前で再会した俺たちは、お互いの無事を喜び合った。
その時に気付いたのだが、俺は牢屋に居る間ソフィア達が戻って来ないのでは無いかとまるで考えなかった。
ミネアが居たのも理由の一つなのだろうが――。バカだな、と自嘲する。だが、それは悪い気分では無い。
女王からは天空の盾がソフィアへと授けられる。
トルネコがしきりに感心しているのを見る限り、良い武具なのだろう。
これで、二つ目。天空の名を冠する武具が揃った事になる。
そして、女王は最後にこう告げた。
「此処から南、ロザリーヒルにはかつて魔族が住んでいたそうです。
何か解るかもしれません。行ってみると良いでしょう」
HP:78/78
MP:36/36
Eはじゃの剣 Eみかわしの服 Eパンツ
戦闘:物理障壁,攻勢力向上
通常:
©2006-AQUA SYSTEM-