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◆u9VgpDS6fgの物語

サンタローズ[8]
『正直、ぼうやを見くびっていた。ぼうやは勇敢な子だ。
でもな、勇敢なのと、無茶をするのは少し違う。わかるな?』
俺がはい、と頷くと、男は満足げに俺の頭を撫で
『さて仕事に戻るか』と踵を返した。

俺はもう一度頭を下げると
夕暮れ色に染まっていく空気の中
帰るべき我が家へと歩き出した。


リセットしてえええ
と思ったが無理な話だった。

大体にして、この世界で
セーブなんてどうしたら良いのか解らない。
教会で『セーブひとつ』『リロードひとつ』と言ったら
聞き入れてもらえるんだろうか。
念のため明日試してみようかな。
首をかしげながら、俺はその日の床についた。

家での動きは昨日と殆ど変わらなかった。
サンチョの腕に抱かれると心地好い睡魔が押し寄せ
目を覚ますとパパスが
『仕事が片付かん』と言いながら出て行く。
見送るサンチョとともに食事をし、俺は
「今日も探検」と言って家を出た。

朝の日差しは眩しかった。
まだ上りかけている太陽が
色鮮やかに緑の木々を染め上げている。

今日の俺は昨日とは違う。
呟きながら俺は迷わず武器屋の方へ向かった。
袋の中の小銭と相談しながら、品揃えを眺める。

武器屋の店主は簡単に
それぞれの武器の使い方を教えてくれた。
中から、動物の骨を削っただけと言う
長めのナイフのようなものを選ぶ。

なけなしの小銭をはたくと
奥からおかみさんが顔を出してこちらに笑顔を向けた。

『随分小さいお客様ねえ』
ころころと笑うとちょっと待って、と部屋の中に取って返し、
『ずっとタンスにしまってあったんだけど
うちじゃ使わないから。おまけね』
そう言って俺に薬草をひとつくれた。
礼を言って武器屋を出る。

新しい武器を何度か素振りすると
なんとなく自分の手に馴染んだような気がした。

洞窟に入る前に教会に寄る。
シスターに改めて昨日の礼を言い
神父の下へ向かった。
「お祈りをしたいんですけど」
俺が言うと神父は穏やかに目を細めて
祈りの言葉を口にする。

セーブ音を期待した。
だが、何も起こらなかった。

洞窟の入り口まで行くと
赤い鎧の男が『また来たのか』と笑った。
買ったばかりの武器を見せ
無茶をしないこと、とだけ約束をして、
俺は二度目の冒険に出た。

昨日よりも明らかに体が軽かった。
受ける衝撃も随分弱く感じる。

寄り道はせず、真っ直ぐに地下へ降り
更に階段を下りようとしたところで、
また三匹のおおきづちに出くわした。

体力は問題ない。先制して新たな武器を振り下ろす。
その衝撃に、芯を捉えた事が自分でも解った。
おおきく体を仰け反らせて、一匹目が動かなくなる。

残りの二匹に動揺が走るのが解った。
足を止めず、攻撃をかわす。
攻撃。回避。防御。

一発痛恨を食らったが、それだけだった。
二匹目、三匹目が倒れ、俺はほっと息をついた。

その時。

不意に頭の中に何語ともつかない声が浮いた。
辺りを見回す。誰も居ない。
話しかけられたような感じもない。

俺の頭に浮いたそれは、すぐに形を失い
今はもう静寂が辺りを包んでいる。

あ、と思って俺はもう一度意識を集中してみた。
回復、回復、ホイミ。

また、何語ともつかない声が脳を支配し、
俺は自分の意思ではなく喉からそれを発していた。
丁度今、おおきづちにやられたばかりの傷みが
空気に溶けるように消えていく。

レベルが上がった。
それは初めての実感だった。

三匹の亡骸を背に、俺は階段を下った。

右にそれる道を無視して、真っ直ぐ奥へ進む。
開けた空間の中ほど、大きく散らばった幾つかの岩の傍ら
地面に寝そべるいかつい老人の姿が見えた。親方だ。

物凄く長い道のりだった気がした。
傍によると、親方はぐふう、と息を吐いて寝返りを打つ。

つか本当に寝てんのかよ。緊張感ねーな。
呆れ返りながら俺は、親方の肩を揺さぶった。
うん?と口の中をもごもごさせながら親方が体を起こす。

『おや、ぼうや。こんなところで何をしているんだい』
本格的に緊張感のないのんびりした口調で、親方が言う。
俺はがっくりと肩を落としながら
「助けに来ました」と言った。
おやまあと目を細めて、親方が続ける。

『そうかい、ありがとうよ。
じゃあちょっとこの、岩を押してくれんか。
動きそうで動かんのだよ』

そういって目をやる岩の下に
親方の片足が痛々しく押し潰されていた。
濃い色のズボンを破って
肌から赤黒く乾きかけた血が滲んでいる。

『隙間に引っかかっているようでな。傷は大したことないんだよ』
不安そうな目の色を察してか、親方がゆっくりと言う。
『ただ押しても引いても抜けんもんでな。いや参った』

わかりましたと頷いて
俺は岩を押しやるのを手伝った。
しかし岩は大きく重く、
子供一人の力が加わったところで動きそうもない。
なんでやねん。また約束が違う。
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