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◆u9VgpDS6fgの物語

サンタローズ[7[
大きくはない、けれど渡れそうもない洞窟内の湖だった。
上階の水源から染み出してくるのか
壁伝いに幾つか筋が出来て
透明な水が湖に流れ込んでいる。

どこからか同じように水が流れ出しているらしく
湖は一定の深度を保ったまま静かにたゆたっていた。
水面を覗き込むと恐ろしく深い。底は見えない。

奥まったところには中瀬のような陸地が出来て
誰が作ったのか階段が設えてあった。
あの奥にはパパスがいるんだろう。
こっちじゃないな、と俺は思う。

スライムや、昆虫や
どらきち(早く仲間にしたい)とかを叩きながら道を戻る。
反対側の道が開けて
また左右に分かれる道が出来ていた。

ここは繋がってるはずだからととりあえず右へ曲がると
ぐるりと迂回した向こうに
木箱がひとつあるのが見えた。
期待を込めて駆け寄る。中身は――盾だ。

皮をなめして貼り付けただけのような
粗末な盾だったが俺にはありがたかった。
これで随分と楽になるだろう。

意気揚々と進んでいくと、また分かれ道に出た。
盾を手に入れた安心感から
俺は何も考えずに左へ進む。行き止まり。

戻ろうと振り向いた時
今までとは違う低い鳴き声が洞窟に響いた。
反響から一瞬。相手の居所がわからない。

慌てて見回した俺の目の前。
岩陰から不意にそいつは姿を現した。

丸々として、異様な毛を蓄えた外観。
手にした大きなハンマー。

出た。おおきづちだ。
こいつの一撃がやばいのはわかっていた。
慎重に少しずつ後ずさる。
背後に、今後にしたばかりの、壁。

そいつがぐう、と低い鳴き声をあげると
陰からもう二匹のおおきづちが姿を現した。
追い詰められた。やばい。

盾に安心して回復を怠っていたことをはたと思い出す。
左腕の痛みが不安と同じ速度で体を巡っていく。

薬草を取り出そうとした刹那
一匹がハンマーを振り上げた。
つんのめる様に壁沿いに身をかわす。
やつら、やっぱり動きは遅い。これなら避けられる。

もう一匹の攻撃を盾で受け止めると
相手は芯を外したようで跳ね返って転がった。
痛んでいた腕が更にじわりと熱を持つが
まだ致命傷には遠い。

右手の棒で一匹の動きを捉え、叩きつける。
ぐう、と一声鳴いてそいつは後ずさったが
相手にも致命傷を与えることは出来なかった。
敵の目に、怒りの色が滲む。

ちっと舌打ちした次の瞬間
背中に重い衝撃を受けて俺はよろめいた。
体を捻ってどうにか尻をつく。
攻撃に気を取られて、背後への注意が疎かになっていた。
肩口がひどく痛む。痛恨だ。くそ。

薬草を取り出そうと腰袋に手を突っ込んだ時
最後の一匹がハンマーを振り上げるのが見えた。
咄嗟に両手を目の前に掲げるが、間に合わなかった。

視界が暗転する。

『ぼうや。ぼうや、気がついた?』
涼やかな女の声に、俺は目を開けた。
様々な色が眩しく俺の上に降りかかってきて、眉間に皺を寄せる。

『ああ、よかった。気がついたのね。神父様』
女が呼びかけると、隣で何か呟き続けていた男が
声を止めて組んでいた手を解いた。

『洞窟の奥で倒れていたんですって。
少しやんちゃが過ぎるんじゃないかしら』
身を起こすと、女が優しくそれを支えてくれた。
教会の中だとすぐに解った。

ああ俺死んだんだな、と
まだぼんやりと霞む頭の中で思う。

なんかの映画で見たのと同じ
色ガラスを組み合わせた天井から光が差し込み
白い床に不思議な模様を描いている。

紺色の修道服姿のシスターと
刺繍が施された真っ白い衣服の男。これが神父様、か。

『彼が見つけて運んできてくださったのよ』
示す方向に目をやると
少し離れた椅子に赤い鎧の男が心配そうに腰掛けていた。

『戻るのが遅いんで、探しにいったんだよ。
まさかあんな所まで降りているとはな』
約束を破ったな、と男は微笑んで見せる。

ぺこりと頭を下げると
男は立ち上がって真新しい
小さな布袋を俺の膝の上に置いた。
中から金属のこすれるような音がする。

中を覗くと何枚かのコインが
色ガラスを反射して虹色に光っていた。

『袋が破れていてな。出来る限り拾ったが・・・
足りていなくても恨まんでくれ』
『あら、助けていただいて恨むなんて』
少しばつが悪そうな鎧の男に、シスターが笑う。

鎧の男とシスターを見比べながら
俺はありがとう、と口にした。
シスターの頬がほころび、
男が照れ臭そうに兜の上から頭をさする。

『お父様とサンチョ様には内緒にしておいてあげる』
というシスターにもう一度礼を言って
俺は鎧の男と連れ立って教会を後にした。

日はもう傾きかけ
次第に橙色に染まっていく太陽が
点在する家屋を照らしている。

『ぼうや、もう無茶をするんじゃないぞ』
兜の奥の瞳を少しだけ細めて
男は言いながら、腰を落とした。
真っ直ぐに真剣な眼差しが、俺の両目を捉える。
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