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◆u9VgpDS6fgの物語

サンタローズ[6]
方向を変え、村はずれまで歩く。
只でさえ森に囲まれた村道は
洞窟近くになるとさらに深く影を落としていた。

洞窟の入り口は目に見えてわかりやすかったが
くぐもったその先に足を踏み入れるのは
やはり少しだけ躊躇われた。

村までの道のりはパパスがついていたから
不安はかなり小さかった。
今回は頼れるのは自分ひとりだ。
しかもこの奥は記憶が確かなら
おおきづちとかが出るはずだ。
痛恨を食らったらどうなるか。あまり想像したくない。

自覚している以上に緊張していたのか
肩を叩かれるまで声に気がつかなかった。
はっと息を飲んで振り返ると
緑に映える鮮やかな赤い鎧を着た男が
心配そうにこちらを覗き込んでいた。

『ぼうや、大丈夫か?どうしたんだ?』
額の汗を手のひらで拭って、俺はひとつ深呼吸をした。

「大丈夫。ちょっと探検に行くんだ」
我ながら固い口調だったが
鎧の男はふんと頷いて、
『この先の洞窟か。
ぼうやには少し、危険じゃないかな』
諭すような声色で言う。

どうしても中が見たい、一人で行きたい、と
子供らしく駄々をこねると、男は

地下には降りないこと
危なくなったら大声を出すこと
(反響して入り口にも声が届くから)

という二つの約束を俺にさせ
『迷子になるなよ』と笑って送り出してくれた。

入り口から数歩進むだけで
外の明かりは洞窟内にはもう届かなくなった。
どこかに光源があるのか、中はぼんやりと
進むのに支障がない程度に照らされている。

右手から僅かな水音が聞こえるのは
村の中央に流れる小川の水源だろう。

モンスターはまだ姿を現さないが
岩壁の向こう、もしくは背後に
今にも奴らの呼吸が聞こえてきそうで
俺は唯一の武器、木の棒を握り締めながら慎重に進んだ。

手前に分かれ道が見える。
陰から何か飛び出してくるんじゃないかと息を詰めたが
奥を見渡してもまだ
モンスターの気配すら見当たらなかった。
左に向かう道に進む。

水音が背後に回る。その音に混じった
キキッ、という小さな鳴き声を
俺は聞き逃さなかった。

反射的に振り向く。
向こうは足元の岩陰に隠れたが
鮮やかな青い色を視界の端に捉えた。
スライム。一匹だけか。

足音を殺しながら一歩、踏み出そうとした時
今度は背後から衝撃を受けた。
それに合わせるように
手前のスライムが岩陰から飛び上がる。

もう一匹いた。
囮だったのか。
頭使いやがる。
なんだこいつら。

思考が頭を巡る間に近付いてくる
最初のスライムのつるんとした質感。
俺は咄嗟に右手の木の棒を振り下ろした。

ばちん、と衝撃音がして、スライムが地に転がる。
立て直してくるかと思ったが
それはそのまま沈黙した。

もう一匹がピキーッと甲高い声を上げる。
それに向けてもう一度棒を振り下ろすと
避ける間もなくスライムは地面に転がって動かなくなった。

・・・強くなってる。そう直感した。
パパスの背に隠れて、殆ど戦いに参加する機会はなかったのに。
ちゃんと強くなってる。
不意に緊張が解けるのがわかった。

スライムの死骸から小銭を抜き取ることも忘れずに
俺はさらに奥へ進んだ。

分岐の奥は行き止まりだったが(勿論わかっていた)
奥に打ち捨てられたような、小さな箱が転がっていた。

手に取ると端のほうからぽろぽろと木の屑が落ちる。
壊すようにして蓋を開けると
中から薬草の包みが転がり落ちた。
それを腰袋にしまいこみ、俺は来た道を戻った。

レベルは上がっていく。
それがわかって、俺は少し安心した。

適度に戦闘をこなしながら行けば
この洞窟は問題なく最深部まで辿り着けるだろう。
武器が木の棒だけと言うのが不安だったが、
まあなんとかなる。

何度かスライムや
土から顔を出した昆虫みたいなの(名前忘れた)を叩き潰して
俺は突き当たりの分かれ道に差し掛かった。
右からは水音。左側は道が湾曲していて奥は見えない。
俺は迷わず左の道を行き、最初の階段を下りた。

下り切ったところは、左右に伸びる道の真ん中だった。
どっちだっけ、と僅かな時間考え込む。

宝箱が幾つかあったはずだから
歩き回っても問題ないだろう。
そう考えて俺は、そこから
左に向かう道のほうへ歩き出した。

すぐに右手に分かれる道が見える。
曲がって進むとすぐに突き当たったが
装飾のはがれかけた荷箱の中から小銭袋を拾った。
中身は確認せずそのまま自分のものにする。

少し戻りさらに進むと
僅かに水音が聞こえてくるのがわかった。
視界が開ける。
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