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◆u9VgpDS6fgの物語

サンタローズ[4]
挨拶もそこそこに扉をくぐると
宿まで送ろうかと言うパパスの申し出を丁寧に断り
二人は薄暗闇の中手を繋いで帰っていった。

階段の一番上に座り込んで
暫く大人二人の会話に聞き耳を立てる。

今までの旅のいきさつと、サンチョを気遣うパパスの言葉。
特にこれと言って収穫はなく
立ち上がろうかと言うところで
物音を聞きつけてパパスが口を開いた。

『なんだ、サン、まだ起きているのか?』
そっと立ち上がって階下に顔を出すと
サンチョが丁度腰を浮かせたところだった。

『ぼっちゃん、お疲れでしょう。今日はもうお休みになられますかな。
旦那様、少しお待ちくださいね』
笑顔で俺を抱き上げ、ゆっくりと気遣いの速度で階段を上がる。
サンチョの腕は温かく
パパスのそれとは少し違った力強さだった。

戦いに出る男と、帰る場所を守る男。
その違いだろうかと、心地好く押し寄せる睡魔の中で思った。


目が覚めたらもとの俺の部屋で
コントローラを握ったまま眠っていた―――

なんて都合のいい展開を期待していたけれど
目を開けるとそこは昨夜眠りについたままの簡素な寝室だった。
掌は相変わらず小さく、階下からは
食卓の準備をしているのだろう
食器のぶつかるような音が聞こえる。

ほんの少しだけ落胆した後、
俺は起き上がって簡単に身支度を整えた。

階下に下りると既に食事を終えたパパスが
のんびりとカップから飲み物を啜っているところだった。

『おはよう、サン。良く眠れたようだな』
笑顔のパパスにおはよう、と小さく挨拶すると、
『随分お疲れだったんですよ。ぼっちゃんはまだ小さいんですから。
すぐに朝食をお出ししますからね。少しお待ちください』
使い終えた食器を片付け、
新しい食器を棚から下ろしながらサンチョが笑う。

最後の一滴を飲み終えるとパパスは
傍らの荷物袋を手にすると一息吐く間もなく立ち上がった。
『サン、父さんはちょっと出かけてくるからな。
いい子にしているんだぞ』
『おや旦那様、もうお出かけですか。
折角ゆっくりなさられるかと思ったのに』
『うむ・・・、もう一仕事終えれば落ち着くからな。
すまないがサンチョ、留守を頼む』

困ったように頷き、サンチョは扉の前までパパスを見送った。
お気をつけて、とその背中に投げかけて、俺を振り返る。
『まったくお忙しいお父上ですな』
にこっと笑う笑顔につられて俺も微笑む。

さあ食事ですぞ、と出された料理は
ジャンクフード慣れしていた俺の舌に驚くほど美味かった。
ふた皿分をぺろりと平らげ、
ジュースのような甘い飲み物を飲み干し
一息つくと俺は
「探検に行ってくる」
とサンチョに言い残し家を出た。

今日は少し雲が多いようだった。
太陽が時折雲間から顔を出し
家々をなぞるように照らしていく。

俺はまず基本中の基本
村中の樽の探索から始めることにした。
小さな村とはいえ建物の数はそこそこある。
けれど屋外の樽や壷からは
残念なことにめぼしい収穫はなかった。

気を取り直して入り口側から順に屋内の調査に取り掛かる。
とりあえず一番近場の平屋の扉を開けると
キッチンから若い女があらあ、と笑いかけた。

『パパスさんの。ぼうや今日は一人なの?』
作り笑顔で応えると、
女はにこにこと近寄ってきて俺の目の高さまで屈んだ。
『ぼうやも大きくなったわねえ。
ぼうやがお父さんとこの村に来たときは
まだこーんな赤ちゃんだったのよ?早いものねえ』
身振りを添えながらゆっくりと話し、俺の頭を撫でる。

正直、やりにくいな、と思った。
ゲームならこっちからコマンドを入れない限り
相手は俺がいないと同じ振る舞いをするのに。
こう話しかけられると簡単にタンスの中なんて漁りにくい。
子供の無邪気さを武器にしたって
勝手に他人の家を荒らせば咎められるに決まっている。

面倒くさいな。
そう思ったところに後ろから老人が語りかけた。

『パパス殿はここに来る以前は
一体何をしておったんじゃろうなあ。
わしが見るに、あれは只者ではない筈じゃよ。
ぼうやは小さすぎて、昔のことは覚えておらんじゃろうがなあ』
『おじいいちゃんてば、
昨日パパスさんが帰ってからあればっかりなの』
くすくすと小声で笑い、
『きっとおじいちゃんはパパスさんに夢を見てるのね。
おじいちゃんも、昔は旅をしていたらしいから』
耳元でささやくと、女はおじいちゃんお薬は?と
老人に向かって立ち上がった。

王様だよ
と言ってしまおうかと思ったけれど、まあやめておいた。
突っ込まれても困るし
パパスが隠しているんだから言うべきではないだろう。

子供の幻想だと笑い飛ばしてくれる可能性もあったけれど
面倒ごとは起こさないことに今決めた。

老人と女のやり取りを尻目に、
俺は奥の引き出しに目をやる。
めぼしいものは、外から見た限りでは解らなかった。
引き出しを開けてみる度胸もなく
俺は「探検の途中だから」と
目一杯無邪気に言うと、家を後にした。
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