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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜The Sacrifice of Isaac〜[1-1]
――――1――――


「はい、あ〜ん」
「……」

困惑した表情を浮かべる少女。

「どうしたの? あ〜んして?」

しかし催促には勝てず、おずおずと唇を動かすと果物がその小さな口に運ばれた。
果実の甘さが舌を満たしていく。

「ふふ、おいしーね」

問いかけられた少女はどうしたもんかと思いながらも、
自分を抱きしめている人の機嫌を損ねないように小さく頷くのが精一杯だった。
けれど、怖いからそうしているのかと言われると、ちょっと違う気がした。
手を引かれ、木の下まで連れていかれた時は何をされるか不安だったけど、
今のところ、後ろから抱きすくめられながら、果物を食べさせてもらっているだけだから。

これが「お前をたべちゃうぞー!!」とかそういう目的だったなら怖いけど、
このお姉さんは優しいし、髪を撫でてくれるし、可愛いねって言ってくれたから、
何となくそうじゃない、と少女は思う。
お姉さんのそういう行為、それはそれで恥ずかしいのだけれど、
イヤじゃなかった。
けれどこの一連の行為が何の為にあるのか分からない少女だから、
とりあえず逆らわないように事態の流れに身を任せているのだ。
とは言えどう対応したらいいのかも分からないので、
少女は口をぱくぱくさせて、困ったアピールをするのだった。

「ん? もっと欲しいの? はいどうぞ。あ〜ん」
「……何やってんだよ」
「お〜ジュード。もう出発?」
「そうだけどよ」
「ちぇ〜もう何泊かくらいしてってもいいじゃーん」
「あのなぁ、だいたい爪を修理しに来たのだって寄り道だったんだ。
 余裕はないの。
 アヴァルスだって犯罪者として連合に引き渡す予定なんだし」
「じゃあ1回アリアハンに帰るの?」
「そうなるだろうな」

少女は自分とは関係のない話が始まってしまったのを感じた。
一緒にいるのにその輪に入れないのは何となく居心地が悪いものだ。
何だか一人ぼっちになってしまったような気がした。
けれどそう感じるという事はやっぱり構ってもらいたいのだろうか。
そうかと思うと少女は複雑な気分なのである。
答えを出せない少女はいつも微妙な立ち位置にあった。

「で?」
「あ、この子? 可愛いでしょ〜?」

頬をスリスリしながら、少女はギュッと強めに抱きしめられる。
こんな風に他人に甘えられた事がないエルフの少女は、
真理奈の行動にいちいちドギマギしてしまう。

「ねぇ、この子一緒に連れてってもいい?」
(え?!)

やっぱり誘拐とかされちゃうんだ!
女王様が言ってた通り、人間は怖いんだ(((( ;゚Д゚)))
と少女はガクガクブルブルしてしまう。

「ダメ」
「え〜? ファンタジーな冒険にはエルフは付き物なのにぃ!」
「知らねぇよ。なんだそりゃ」
「ジュードのケチっ!」
「この子は行きたくないってよ」
「そんな事ないよ〜。ね〜? 一緒に行きたいよね〜?」

同意、というよりは強要に近いように聞こえたのか、
ぁぅぁぅと助けを求めるようにジュードを見上げる少女。
少し涙目になりつつあるのが何とも可哀相だ。
仕方なくジュードが助け舟を出す。

「分かった分かった。
 じゃあ後で【いつでもエルフに会いに行ける券】やるからそれでいいだろ?
 キメラの翼一年分付きだぞ」
「お〜それいただきだ〜!」

ぐおーと腕を振り上げる真理奈。
よっぽどエルフの事が好きなんだろう。

「ったく、小さい子をあんまり困らせるなよ。
 お前が変な事言うから泣きそうじゃねーか」
「あ〜ゴメンゴメン! もうしないから! ね?」

チュッと頬にキスをし、頭をナデナデする真理奈。
ちょっと必死な真理奈が可笑しかったのか、
少女は片目をつぶりながらも、安心したように笑顔を見せた。

「よしよし、んじゃあ行きますかね!」

真理奈はヒョイっと立ち上がり、少女をようやく解放した。
そして少女と手を繋いでエルフの里への道を歩き出す。

「ジュードも手、繋ぐ?」
「いらん!」

馬鹿話をしながら真理奈は少女を家まで送っていった。
エルフの少女は手を振って真理奈を見送った。
不思議な人だけど、また会いたいなと思いながら。
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