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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜The Sacrifice of Isaac〜[1-2]
エルフの誘拐事件が起こってから3日と経たぬ内に
真理奈一行は出発する事を決めた。
女王の葬式とソールとフォルテの結婚式で1日強滞在したが、
それでも長い休暇だったかもしれない。

「フィリアねぇ、もう行っちゃうの?」
「そうだよ、もう少しゆっくりしていってよ」

フィリアは繋いでいた手を解き、ソールとフォルテの頭に乗せた。
フィリアも別れたくはなかったが、やるべき事があるので仕方がない。
もちろん一生会えないという事はないんだけれど。
それでも寂しいものは寂しいのだ。

「また来るね」
「約束だよ」
「ゆびきりしよ?」

そんな子供らしい光景をパトリスは微笑みながら見ていた。
やはり無垢なものは見ていて心が洗われる。
この子らのようにいつまでも純粋にいる事が出来たなら、
きっとエルフが人間から逃げ隠れるような事態は起こりえなかったはずだ。
それが逃れる事の出来ない運命だったとしても、
再びあのような事件を目にすれば悔しいと感じてしまうパトリスだった。
どんな呪文を覚えようとも、運命を変える事はできないのだから。

「お待たせ〜」
「やっと来たか。何をしておったんじゃ」
「へへへ、ちょっとね〜」
「ちょっと何じゃ?」
「考え事〜♪」

そんないい訳にもならない事を言うと真理奈はフィリア達の方へ歩いていった。
後ろから来たジュードがパトリスに告げ口する。

「アイツ何かエルフを連れて行こうとしてたぜ」
「なっ…!!」

唖然としたパトリスは慌てて真理奈を追いかける。
が、真理奈さんのすばやさには追いつけない…!

「よ〜し!
「ソール君とフォルテちゃんに今日はお姉さんからプレゼントをあげよう!」
「え? 何なに?」
「こらソール、はしたないでしょ?」
「いいのいいの。貰ってくれないと私が困っちゃうんだから」
「ほらみろ。遠慮すんなって。何くれるの?」
「ジャジャーン!」

真理奈はバッグから深緑に光るオーブを取り出して、2人に手渡した。

「お〜キレイだな」
「ホントね…」
「グリーンオーブって言うんだよ〜」
「……」

パトリスは真理奈ののんきな声に体を震わせ、
怒りが爆発しそうなのを静かに堪えた。

「……真理奈さん? ちょっとよろしいかの?」
「え? 今いいとこなんだけど」
「どういう事か説明してもらえるとありがたいのじゃが」
「いや〜エルフって言ったら何か緑ってイメージがあるからさ〜」
「そうではない! オーブをそんな軽々と――」
「軽々じゃないよ。ちゃんと考えたもんねーだ!」

パトリスの声を遮った真理奈は腰を手に当て、皆の注目を自分に集める。

「おほん!
 え〜こうして巡り合ったのも何かの縁!
 という事でエルフの皆にも今日から連合に参加してもらいます!
 さらにエルフは超保護対象とするように
 連合を通じて世界中に通達していきましょ〜!
 これでエルフの皆も安心して暮らせるね♪」
「……」
「あれ? どうしたの?」

一同唖然。
ソール・フォルテは何の事か分からずポカーンと真理奈を見、
ジュードとパトリスは判断しかねて考え込み、
フィリアだけはうんうんと小さく頷いていた。

「なぁじいさん。これっていいのか?」
「……」
「そういえば俺らってどこと連合結ぶかって全部決めてないよな?」
「……そうじゃったかのう」
「……どうする?」
「ふ〜む……ここはエルフさんに決めてもらおうかの!」
「あ、逃げやがったな」

さすがに真理奈の言葉だけでは説明不足なのでパトリスが補足する。
魔王に対抗する為、世界中で協力しようとしている事。
そして世界中の人々の架け橋となるべく旅をしている事。

「確かに連合がしっかりと機能すればエルフ保護も出来るかもしれんな」
「でしょ?! どう? どう?」
「そうですね。
 私の一存では決められないですけど、お願いしたいです」
「俺も賛成!」

「けどさ、『保護』じゃあ立場が対等じゃないだろ。
 協力するんだからもっと違う言葉じゃねぇか?」
「そうじゃのう。擁護…愛護…庇護…」
「そんな難しいのなんてダメだよ〜」
「……友達、がいいと思う」
「お〜さすがフィリアちゃん! それ採用!!」

有無を言わさず決定という感じでビシっと親指を立てる真理奈。

「じゃあ友達記念って事で、イエーイ!」
「イエーイ!」

何のノリか知らないが真理奈はフォルテとソールとハイタッチを交わす。
その時不意に、パトリスの心に懐かしい言葉が甦ってきた。

"過ぎ去った苦しみの思い出は、喜びに変わるのよ"
(確かにそうかもしれない。だから生きていける、か)

昔の記憶につられたのかパトリスも少しだけ若さを取り戻した気になり、
真理奈たちがはしゃぐ輪の中に入っていった。
妖精と人間の未来がありますように、と願いながら。
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