暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語
〜Jacob's Dreame〜[2-20]
「あんっ! あぁ! 見ないでっ……!」
私を見る彼女の目が見開かれた。
その瞳を通じて彼女の心が見て取れる。
助けて欲しい。
けれど、見られたくはない。
そんな矛盾した感情。
「あっあっあっ! くっ……ふっ……」
彼女は意思に反して漏れる声を、口を塞ぐ事で聞かせまいとした。
そんな彼女を嫌らしい目で見つめる男…
その息遣いが生々しい。
「はぁはぁ…いいぞ……気持ち良いんだろ? もっと締めろ!」
そんな事を言いながら、体を彼女に打ち付ける。
気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い……
私はその場で胃の中のものを全て吐き出してしまった。
「いくぞ…いくぞ……はっはっ! いくっ!!」
「イヤイヤ! やめて! ん〜っ!!」
彼女が嫌悪の声を上げるが力が入らないようで、男を跳ね除けることができない。
しばらく動きを止めていた男は一息つけると、彼女から体を離した。
彼女はそのままの体制でぐったりとしたまま動けない。
しかし男は私の存在に気付いていたのだろう。
顔をこちらに向け、ニヤリと笑みを見せた。
(嘘……)
そして裸身を隠そうともせず、むしろ見せ付けるようにして歩いてくる。
「次はお前かぁ〜、確かに数は多い方がいいよな。
まだ出し足りなかったところだし」
何を勝手な事を言っているんだ…
私にもソレをしようとしているのか?
本能的に後ずさる。
一歩でも遠く、この醜き者から離れたい。
これが、人間のする事なのか……?
「今気持ちよくしてやるからな。その代わりちゃんと産めよ?」
男の手が私の体に触れようとする。
その汚らわしい手で。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁー!!」
私はそこで初めて叫び声を上げた。
無意識の内に、その声に魔法力を込めていた。
男は一瞬にして人の形を失い、私の前から姿を消す。
「はぁはぁ……」
「……うっ…ううぅ……」
荒い息をしていた私は、彼女の嗚咽で我に返る。
私はフラフラと彼女の側に寄っていった。
「ひっ!! やめてっ!!」
怯えた目。
私の事を先程の男だと思ったのだろう。
彼女の体はがくがくと震えていたが、
私が自分と同じエルフだと認識すると、恐怖は消え去ったようだ。
彼女の頬に手を当て、目元の涙を拭ってやる。
すると彼女は、にっこりと笑った。
「……して……」
「……?」
「自分では…出来ないから……」
彼女があごを上げて首元を私に晒し、
私の両手をそこへ添えるようにそっと促した。
それで彼女の望みを理解する。
その時の私にまともな思考などありはしなかった。
ただそうするしかないんだ、と思った。
手で輪を作るようにして、彼女の首にあてがった。
汗でしっとりと濡れた肌を少しずつ圧迫していく。
トクトクと流れる彼女の血液の動きが、私の手の平を力無く押し返した。
その働きのなんと力強いことか。
いっその事、私の手を跳ね除けてくれれば良かったのに。
締められる痛みと、酸素の不足で彼女の顔が歪む。
しかしそれでも彼女は一切抵抗する事はなかった。
目を閉じ、あ・り・が・と・う、と唇を小さく動かして私に伝える。
そして間もなく、彼女は息をしなくなった。
「……」
私は彼女と同じように息を殺して泣いた。
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