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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Jacob's Dreame〜[2-19]
「へへ……残念」

2人の攻撃を嘲笑ったアヴァルスは、背後のジュードに右足を引っ掛けて体勢を崩させる。
と同時にフィリアの手から武器を取り上げるかのように左手を力の限り引っ張った。
圧倒的な力の前にフィリアは成す術無く、手からモーニングスターをこぼしてしまう。
その目はいつもより見開かれ、驚きを隠せないようだ。

アヴァルスは引っ張る力を利用して左足を軸にその場で反時計回りに回転し、
その遠心力を右足に乗せて、先のお返しとばかりに倒れかけのジュードを蹴り飛ばした。

「がっ……!!」

攻撃力の上がった蹴りの衝撃で、ジュードは面白いように吹き飛んでいった。
そしてちょうど一回転するところで背中に回していた右腕を伸ばして、
野球のフォームで球を投げるようにダガーをフィリアに投げつける。

引っ張られて前のめりになっていたフィリアは着地を考えずに身を投げ出して
ダガーを避けるが、それを見越したように二本目のダガーがフィリアを襲った。

「……!!」

フィリアは唯一の防御手段である腕を犠牲にして頭をかばう。
装備している服では守備力が足りずに、ダガーは腕を貫通してしまった。

(抜いて、回復呪文……)

顔をしかめながらも痛みに負けずに脳がはじき出した対処方法に従おうとするが、
ダガーの柄に手を掛けようとしたところで力が入らなくなり、フィリアは地面に突っ伏した。
フィリアの血が土を濡らしていく。

「へへへ……こりゃあ思ったよりも上手くいったなぁ」
「げほっ……フィリア……」

動かそうとしたジュードの右手の甲にもダガーが突き刺さる。
簡単に骨を貫いたその攻撃に、ジュードは剣を落としてしまう。
それは痛みからだったが、ほんの数秒で腕の感覚が無くなってしまった。

「アサシンダガーの味はどうだ?」

余裕の足取りで歩きながら語りかけるアヴァルス。
惑わされていた先程とは違い、進行方向は確実にジュードへと向けられていた。

「マヌーサ…効いてなかったのか」
「いやいや、今でもニイさんの本当の姿は見えてないぜ?」
「じゃあ何故……」
「んまぁ、盗賊の能力を測ろうとしなかったニイさん達が悪いって事だな」
「能力……?」

空間把握能力とアイテム探索能力に長けている盗賊という職業。
彼はマヌーサをかけられた時からある呪文を使っていた。
その呪文の名はレミラーマ。
アイテムの場所を探る効果があり、その場所が光となって知覚されるという。
その光はマヌーサに惑わされずにジュードとフィリアの行動を彼に教えてくれた。
正確には2人の装備している道具がどう移動しているかを把握した、と言うべきか。

しかしジュードにはそんな事に思い至らない。
頭がボーッとして段々と視界が狭まってきた。
どこかで水の音がした気がした。

「へへへ、さぁどうする? 今ならまだ仲間に戻してやるぞ?」
「最初から仲間になんかなった覚えはないぜ……」
「そうか、残念だなぁ…」

心底悲しそうに言う。意外に役者なのだろうか。
しかしニヤニヤ顔が気持ち悪い。

「アンタみたいに迷ってるヤツに道を示すと何故か迷いがなくなるんだよなぁ。
 こんな仕事でもよ。
 だから引きずり込むのに調度いいんだ。分かるか?
 使い捨てが出来るって事だよ」

バカなヤツに教えてやってんだ、と言わんばかりのアヴァルス。
完全に見下されてるのが分かる。

「けどアンタに声をかけたのは失敗だったかな?
 下手な潜入捜査のつもりか何だか知らないけどよ。
 最後で裏切られちゃあ困っちゃうよなぁ」

結局利用されるだけだったジュードを悔しさが包む。
けれど毒のおかげで、そのこぶしを握る事も出来ない。

「俺がいなきゃ里は見つからなかったんだぞ…
 それに…裏切ったから仕事が増えて……ふっ…!
 大好きな金が貰えるじゃねーか……
 やっぱバカなんだな…」

頭が痛い。
喉が渇いて、上手く喋れない。
毒なんか使うなんて卑怯だ…

色んな思いがジュードの中を駆け巡る。
勝てなかった。
守れなかった。
コイツの言う通り、迷いがあるせいなのか…
やっぱり分からない。
まだ求めるべき答えの糸口さえも見つからない。

「へへ、確かにまぁそうだな。
 じゃあ感謝するよ、ジュードさんよぉ!!」

アヴァルスのアサシンダガーが再び振り下ろされる。
ジュードは動かない体に怒りを覚えながら、最後を覚悟した。
しかし神はまだジュードに終わりを告げはしなかった。
刃物が刺さるより前にポカッと間抜けな音がしたのをジュードは聞いた。
続いて人の倒れる振動が伝わってきた。

「はぁはぁ……ったく、だらしねぇなぁ…」

薄れ行く意識の中で、濡れた眠りの杖と開けられた宝箱を見た。
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