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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Jacob's Dreame〜[2-18]
「さて、そちらはこの娘を取り戻そうとしているようだが、
 こんな提案はどうだろうか。
 この娘を返す代わりに女王様、あなたの血を頂けないだろうか。
 何も私は戦いたい訳ではないのだよ」

くくっと含み笑いをしながら大げさに手振りを付けて話すクルエント。
喋り方も身体年齢に影響されてか、先程までの老人臭い話し方ではなくなっていた。
しかし負けるなどとは微塵も考えていない、その傲慢さだけは常に変わらない。
提案とは言いながらも実際は選択を迫るような言い方にもそれが見られるだろう。
無抵抗で血を差し出すか、勝てぬ無駄な戦いをするか、選択をしろと言っているのだ。

「あなた達にエルフは渡さない」

クルエントの問いに対して女王より先にフィリアが答える。
その声は簡潔で迷いがなく、決意に満ちていた。
いつものフィリアとは違って、こんなにも感情をあらわにしているのは珍しい。
予期せぬ一言に女王は言い得ぬ安心を覚える。

「その通りです。あなた達は自分の立場が分かっていないようですね。
 負けるのはそちら側ですよ」
「そうだそうだ!」

ソールの元気も相まって、女王のパーティーの士気が高まる。
悪いのはどちらなのか明白だった。
だから、必ず勝てる。

「ふふふ、そうですか……では」

会話の終わりを感じたジュード達は武器を構えた。
それを見てからクルエントの側で控えていたアヴァルスも自身のダガーを握りしめる。
対してクルエントはその手に掴んでいるフォルテを目線の高さまで上げるだけだった。
見せ付けられるフォルテの体は力無く、だらりとした四肢に生は感じられない。

しかしクルエントが何故今そのような事をするのだろうか。
その行動の意味を計りかねて攻撃のタイミングを逃す。
するとクルエントは足元に転がっていた宝箱を足だけで起こしてフォルテを閉じ込め、
ゴミを捨てるかのように宝箱を背後の湖に蹴り込んだ。
宝箱は大きな水しぶきを立て、水底へと消えていく。

「フォルテー!!」

その声を合図に全員が動き始める。
ソールはフォルテを助ける為に湖へと全力で走った。
ジュードはアヴァルスに、女王はクルエントに。
それぞれソールの邪魔をされないように、進路を確保する為の動きをとる。
そしてフィリアはマヌーサで敵の攻撃を惑わそうと呪文を唱えた。
マヌーサの効果は視覚障害を引き起こし、強制的に錯覚させるというもの。
クルエントはともかく、アヴァルスは格好から攻撃呪文を使うタイプではないと判断したのだ。
ならば攻撃を封じてしまえばいい。
広範囲を狙う事の出来る武器を使ってこない限りはこちらは有利になる。

「マヌーサ!」

アヴァルスとクルエントの2人を目標に呪文を仕掛ける。
呪文発動後、ジュードはアヴァルスの右側に回りこんだが、アヴァルスはそれに反応しない。
思惑通りにいったようだ。
アヴァルスは手持ちのダガーを突き出すが、ただ空を切るだけに終わる。
きっとアヴァルスの脳内ではジュードを斬りつけようとしたのだろう。
その隙にジュードはガラ空きのわき腹へと蹴りをおみまいする。
防御もままならないアヴァルスはうめきながら土にまみれた。

「マヌーサか、やっかいだな」

女王と呪文の応酬を繰り広げているクルエントがアヴァルスが倒れている方に目を向けて、
それほどやっかいだとも思っていないような口調でつぶやく。

クルエントにはマヌーサは効いていないらしい。
呪文への耐性や、精神的な強さがある敵には補助呪文は効きにくくなる。
クルエントのレベルが相当に高い事の証明でもあろう。
そしてクルエントは女王への攻撃を怠らないまま、アヴァルスに一つの呪文をかける。

「バイキルト!」

痛みに耐えながらもアヴァルスは立ち上がり、口の右端を上げて笑う。

「へへ……すまねぇな」

ニヤリとしたまま彼はズボンに仕込んであるダガーを取り出し、今度は両手に装備する。
しかしマヌーサの効果が切れている訳ではなさそうだ。
アヴァルスは正確にジュードやフィリアの方向に体を向けてはいない。
何の呪文を掛けられたかしっかりと把握しているはずだが、諦めの表情は見られない。

しかしいくら呪文で攻撃力が上がっていたとしても、攻撃が外れるなら意味は無いのだ。
それでもなおダガーによる攻撃を仕掛けてくるアヴァルス。
ジュードやフィリアの近くを攻撃したりするが、当然ダメージは与えられない。
音を頼りに位置を探ろうとしているのか。
それともまぐれ当たりを期待しているのだろうか。

(イケる!!)

これなら勝てると判断したジュードは目線だけでフィリアに合図をする。
フィリアの方も、コクリとうなずくだけで了解の意を示した。
声を発してわざわざ居場所を教えてやるまでもない。
汚名を返上しなくてはいけないジュードにとって、このチャンスを見逃す理由は無かった。
フィリアの方もなぜバイキルトなのか、という思考回路は形成されなかった。
ジュードは闇雲に攻撃してくるアヴァルスの背後を取り、背中に斬りかかる。

(もらった!!)

両手の力を柄に込めて放った一撃は、刃と刃が交差する音と共に防がれてしまった。

「な…何……?」

予想していない事態にジュードは焦る。
アヴァルスは右手を肩越しに後ろに回す動きだけで防御したのだ。
前を向いたままなので見えている訳がないのに。
いや、それ以前にマヌーサが効いているはず。

(足音で気付かれたのか?)

しかし攻撃の軌道までは分からないはずだ。
その疑問の答えを見つける前に、フィリアのモーニングスターによる攻撃が飛ぶ。
時間的に見れば二つの攻撃はほぼ同時だ。
しかしそれすらもアヴァルスは空いている左手で難なく無効化する。
同じくダガーでモーニングスターのチェーンを絡め取ってしまった。
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