暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語
〜Jacob's Dreame〜[2-16]
「ふふ、エルフとはおかしな種族おのぅ。
たった二匹助ける為だけに王が出てくるとはな。
サービス精神旺盛な事じゃ」
「うるせ〜!! その口調、似合ってないぞ!!」
ソールが耐えかねてか、フィリアの制止を振りほどいて突撃してしまう。
「くそっ!!」
ジュードがそれを追いかける。
場は一瞬にして戦闘状態へとなだれ込んだ。
「「ピオリム!」」
「スクルト」
「ルカナン」
女王とフィリアがそれぞれ呪文を唱え、パーティーを強化する。
「イテテテッ! 止めろ! 離せよ!!」
勢いよく突撃したソールの攻撃はあっけなくかわされ、
クルエントはソールの首を掴んで、小さい体を持ち上げた。
続けてジュードがソールを傷つけないように斬りかかる。
「ベギラマ」
炎の壁が自身の前に築かれ、クルエントの姿が見えなくなる。
しかしジュードは走るのを止めない。
「フィリア!」
「バギ!」
ジュードの後ろから追走していたフィリアが壁に穴を開ける。
その呪文はちょうど炎をかき消す程の威力で、ソールを傷つける心配はない。
その道にジュードが飛び込み、壁を切り抜ける。
しかしその先にはクルエントの姿はなかった。
「まだまだじゃ」
死角から現れたクルエントの攻撃を防げず、炎の中に突き飛ばされる。
その攻撃の瞬間をフィリアがモーニングスターで狙う。
動きを止めようと足元に攻撃をしかけるが、武器ごと踏み抜かれてしまった。
クルエントはフィリアの攻撃を見てなどいなかったはずだ。
驚いているフィリアもバシルーラで吹き飛ばされる。
「おっと女王様。あなたの大切なお仲間がどうなってもいいのですか?」
続けて攻撃を仕掛けようとしていた女王の動きが止まる。
聖なるナイフを首に突きつけられているソールの姿に躊躇したのだ。
ソールは刃に恐れ、ゴクリ唾を飲み込む。
その小さな動きでさえ、皮膚に刃が食い込みそうになる。
「……人間など……」
口ではそう言いながらも、行動では人間であるソールの身を案じていた。
「エルフの血というのはやはり若い方が美味しいんですかねぇ?
それとも寝かした赤ワインのように歳取った方が味わい深いのかな?」
その嘲笑は女王の感情を逆なでするのに十分だ。
「ふふふ…さぁその体に流れる血を私に!」
「……!! イオラっ!!」
女王は呪文を唱えると同時に走り出す。
「むっ……」
爆発を促すその呪文はクルエントに直接放たれたものではなく、
彼の二メートル手前で地面をえぐった。
巻き上げられた粉塵が炎をかき消し、クルエントの目をくらました。
「ふっ」
その一息で女王はクルエントとの距離を詰める。
ソールを掴む左腕に一閃の真空刃を放ち、ダメージを与えた。
力の緩んだその手からソールを奪うと同時に、バシルーラを腹に叩き込む。
「ごぉっ!!」
クルエントが肺の空気を吐き出す音を聞きながら、フォルテを探した。
残り火から上がる煙と、舞い上がった粉塵のせいで視界が悪い。
「女王様…あ、ありがとう。もう大丈夫だよ」
ソールの礼で彼を抱いていた事を思い出し、降ろしてやった。
ソールは少し恥ずかしそうに頬を赤くしていた。
女王もその素直な礼に、言い得ない気恥ずかしさを覚える。
「くく…エルフが攻撃的なのはイメージに合わないのぅ」
和やかな一場面も、戦闘中では場違いにさえ思えてしまう。
視界が晴れ、その先にクルエントの姿が確認出来た。
クルエントはフォルテの二の腕を掴み、無理矢理立たせている。
「フォルテー!!」
フォルテの服は自身の血で染まってしまっていて痛々しい。
「残念だったねぇ」
対してクルエントはダメージなどないかのように、余裕の表情で笑う。
「へへへ…クルエントさんよぉ」
そこに今まで傍観していたアヴァルスが現れた。
「…アヴァルス、とか言ったかの?」
「あぁ。良い仕事したろ?」
「くくく、そうじゃのぅ」
「オレをもう一回雇わねぇか? 邪魔者はオレに任せてくれよ」
呪文で回復したジュードとフィリアが女王の横に並ぶのを示しながら、
アヴァルスは契約を持ちかける。
今まで傍観しながら金になるのかどうかを算段していたのだろう。
「フィリアねぇ、ありがとう。大丈夫だよ」
心配してくれたフィリアにソールが礼を言う。
どうやらケガはないようだ。
代わりにソールは埃まみれになったフィリアの顔を拭いてやる。
フィリアはくすぐったそうに顔をしかめていた。
しかし小さい子に世話を焼かれている様子は、はたから見れば可愛い。
「あ、ありがとう…」
その横でジュードはボロボロになった自分の姿をしきりに気にしていた。
炎の中に放り込まれたのがよほどこたえたのだろう。
髪の毛が少し焼けてしまっているのが目立つ。
(これ終わったら髪でも切るかな)
髪をさっとかき上げ、気合を入れなおす。
「しかし女王様強いんだな…エルフのイメージ、確かに変わったぜ…」
「そういうアンタは弱すぎ。フィリアねぇは僧侶だからいいけどさ〜」
「ただ敵につかまるような役よりはいいと思うけどな」
「アンタは仮にも戦士だろ? 同じ条件ならオレだってやれるぜ」
「ったく、子供が生意気言うなよ…アイツは強いぜ」
「どうしよう?」
フィリアが作戦の事を言う。
「人数では勝ってるんだから、後はコンビネーションだろ」
「じゃあオレが引き付けて、フィリアねぇは援護。
アンタは突撃で、女王様が追撃で決まりだね」
「フィリアよぉ、武器落としたらダメだろ。攻撃できねぇじゃん」
「うん…ごめん」
「無視するんじゃねーよ!!」
「正面からでは駄目ですね。かく乱でいきましょう」
「よし、オッケー」
レベルの差を見せ付けられてもまだ、士気は下がっていなかった。
「…悪いな、俺のせいでよ」
自分のせいで皆を巻き込んだ、とジュードは反省する。
「私にも責任はあります」
つくづく自分は女王に向いていないな、と女王は自嘲する。
「それより今は助ける方が先だと思う」
妖精をいじめる人間は許せない、とフィリアは憤る。
「そうだぜ、皆で一緒に帰ろう」
この手でフォルテを助けるんだ、とソールは誓う。
「くく…作戦は決まったかね?」
その問いかけによって、再び戦いの火蓋が切って落とされる事になる。
©2006-AQUA SYSTEM-