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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Jacob's Dreame〜[2-14]
フィリア達が西の洞窟へとたどり着くより少しばかり前、
湿った土や木の根を踏みつけながら2人の男が走っていた。
人を担いで走るのはこんなに辛いとジュードは知らなかった。
エルフの体重が軽いのがせめてもの救いだが。

「へへへ、上手くいったな」
「あぁ…それにしても、手慣れてるな」

ジュードの前を走るのは一時的にジュードの相棒となったアヴァルス。
里に入りエルフを気絶させ、連れ出すまでの彼の手際は鮮やかだった。
決して褒められはしないだろうが。

「へへ、そうか? オレは元々遺跡専門の盗賊だぜ?」

それでも褒め言葉として受け取ったのだろう。
アヴァルスは、謙遜しつつも嬉しさを隠さない。

「まぁここ最近は似たような仕事をやってたからな」
「……人さらいか?」
「いやぁ、あれは少しばかり危険だよ」
(やった事があるのか…?)

さも経験があるかのように語るアヴァルスの発言に、嫌悪感を覚える。
都合上ジュードもエルフをさらうことになってしまったが、
当然気持ちの良いものではなく、少々後悔している。
もちろんフィリアの話がなければ違う方法を取っただろう。

そもそもこの怪しい商売を利用してエルフ狩りの連中を捕まえようと考えたのは、
フィリアがエルフと会ったという話があったからであった訳だが。
しかし捕まえるまでは仮の姿とは言え、自身もエルフ狩りを装わなくてはいけない。
それはつまり、ジュードもエルフをさらわなくては怪しまれてしまうという事だ。
いくらなんでも手ぶらでエルフ狩りの依頼主に会う訳にはいかないだろう。
問題はその事に気付いたのがフィリアの後を付けて里に入った時だという点。
行き当たりばったりの行為と言われればそれまでだ。
だいたいエルフを狩ろうとする者が何人いるのかも分からないのだ。
ジュード1人でどうこう出来るレベルの話ではないかもしれない。
何とかフィリアに助けを求めておいたが、どうなる事やら……

「今はモンスターをさらう仕事をやっている」
「……?」
「ある方面ではエライ人気でな。興味あるか?」
「……」

この後の事を考えていたジュードは一瞬会話についていけない。
そんな事をして金になるのだろうか?
モンスターを食べたりするとか……?
せいぜい、そんな事を考えられたくらいだ。

「へへへ…やっぱ用心深いんだな。そういうヤツは好きだぜ」

沈黙を勝手に解釈してアヴァルスが話を進める。
そういうお前は間が抜けてるな、とは言わないでおく。
その薄ら笑いから受ける印象は正直あまり良くはない。

「なぁニイさん。このヤマが終わった後も一緒に仕事しねぇか?」

まだ仕事が終わってもいないのに、次の仕事の話をするアヴァルス。
そこまでジュードの事が気に入ったのだろうか。

「……どうして俺を?」
「へへ…目だよ、目」
「目…?」
「目は口ほどにモノを言うって言うだろ?
 アンタの目には確固たる決意ってのが宿ってなかった」
(ケンカ売ってんのか?)

一瞬本気でそう思う。
少なくとも褒め言葉ではない事は確かだ。

「おっと、怒らないでくれよ? 俺はそれが良いって言ってるんだ。
 人間は迷う。だからいざという時に強くなれる。そうだろ?
 だからオレはそういうヤツとしか組まねぇんだ。
 下手に信念持ってるヤツなんかは逆に危なかったりするんだぜ?
 こんな仕事だと特に、な」

こんな仕事を続ける気は、ジュードにはさらさら無い。
けど、その持論には少しだけ説得力があったような気がした。

「あぁ、依頼主は別だけどよ?
 金払うヤツに迷われちゃあこっちが困っちまう」
「はは」

そのギャグには素で笑ってしまった。

(迷ってる、か…)
「まぁ考えといてくれや。着いたぜ」

考え込むジュードを横目に、アヴァルスは声をかける。
森の中にひっそりとたたずむように洞窟が口を開けていた。
洞窟の中はさらに気温が下がり、ひやりとした空気が肌を刺す。

「なぁ、今までどんな所に潜ったんだ?」
「へへ、そうだな…有名所で言うとガルナの塔に東バハラタの洞窟。
 ピラミッド、シャンパーニってところか。
 今度は西の大陸に渡ろうかと考えてる。
 手付かずの塔があるらしくてな」

自分の功績を話したりするのが好きなようだ。
ペラペラと喋り上げる。
しかし、さすがに経験は豊富なようだ。
アヴァルスは薄暗い通路を迷わずに進んで行く。

(遺跡専門って……なるほどな)
「その途中で他の仕事したりしてたんだがな。
 久し振りに洞窟潜ってみたくなってよ、へへ。
 そこでこの話を聞いたって訳だ」

しかし、こんな場所で依頼される話なんて明らかに怪しい。
アヴァルスにはどこか警戒心が薄いようなところがある。
もしくは変わり者だって事だ。
それからは会話もなく、ただ進んでいった。
荷物を持ったままモンスターの相手をするのが厄介だった。
後ろからどーんと体当たりしてくるのは止めてもらいたいものだ、と思う。

二つほど階段を降りると、さっきまでと空気の違う事に気がついた。
ここがおそらく洞窟の最下層なのだろう。
そのフロアの最奥に、これまでとは一転して明るくて広い部屋があった。
ちょっとした泉になっていて、水底から光が溢れている。
こういうのを地底湖というのだろう。
宝箱が一つ、口を開けたまま横倒しに転がっており、
その側で老人が1人背を曲げ、眼前の杖に体重を預けるようにして立っていた。

「おぉ、早かったですねぇ。それに二つもですか」

挨拶を交わす前から喋り始める。
二つとは、エルフの事だろう。

「あぁ、思いのほかスムーズに里が見つかったんでな。
 へへへ、こんな楽な仕事は初めてだったよ」

アヴァルスはニヤニヤと笑いながらソイツに近づいていく。

「はじめまして。私の名はクルエントです」
「そりゃどうも。アヴァルスだ。こっちはジュード。協力してもらった」
「そうですか、それはそれは……さぁ、こちらに渡して下さい」

低くしゃがれ気味で、けれど重みのある声色。
フードを深く被っている為に顔を見る事は出来ないが、相当高齢であるのは分かる。
ジュードは彼の声の中に、隠しきれない高揚感を感じ取っていた。

そして同時に後悔していた。
この老人は、危ない。
そう思わせる何かが確実にあった。

「先に金を見せてもらおうか」
「一匹十万Gじゃったな」
「あぁ」
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