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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Jacob's Dreame〜[2-12]
薄暗い森の中を駆けていく3人。
世界は既に夕日を迎えており、もう数時間もすると闇に包まれるだろう。
夜に森を進むのはとても危険だ。
等間隔に生えなどしない木々が位置感覚を混乱させていくのに加えて、
視界が利かなくなってしまうとモンスターを視認するのが困難になってしまう。

「……急ぎますよ」

女王は後続の2人に声をかけ、ピオリムを唱えた。
クンッと体が軽くなり、速度が二倍ほどアップする。

「うわっ! ……っと!」

危うく木に衝突しそうになったソールを最後尾のフィリアが軌道修正してやる。

「気をつけて」
「これが……呪文かぁ……」

初めて体験する呪文に感動し、ソールは目を輝かせながら女王の背中を追っていく。
そしてフィリアも女王に羨望の眼差しを向ける。
時たまバリイドドッグやさまよう鎧がウロウロとしているのに鉢合わせするのだが、
モンスターは全て女王にバシルーラで吹き飛ばされていく。
その半分以上が大きな音を立てて木にぶつかり、気絶してしまう。
運よく上空まで放り出されたとしても雲まで届きそうな勢いで、視界から消える。

(凄い……)

まさにその一言に尽きた。
おそらくパトリスよりも呪文の力があるだろうとフィリアは推測する。
フィリアやソールも一応の装備はしている。
ソールに与えられたのは、使うとラリホーの効果がある眠りの杖。
フィリアには少々扱いが難しいが、多数の敵を相手にするには適したモーニングスター。
二つとも女王が用意してくれた物だ。
しかしそれらも未だに出番を得る事は出来ないでいた。
女王の独壇場と言っていいだろう。
ここまでレベルが違うならば、むしろ2人は足手まといになってしまうくらいだ。

なのにどうして一緒に行くなどという方法を選んだのだろうか……
現にフィリアとソールの2人と、女王との距離が少しずつ離れてきている。
その足りない素早さをフィリアは2人だけにピオリムを重ねがけして補った。

「フォルテ…今行くからな……」

黙したまま考え込んでいたフィリアの思考は、ソールの独り言で方向を変える。
すなわち、フォルテは何故連れていかれたのか、という事だ。
エルフが貴重な存在である事は既に知っているが、
誘拐する事の意義がフィリアには分からない。

だいたいエルフの里を簡単に見つける事自体、ほぼ有り得ない事態なのだから。
なぜなら、里に入ろうとした時に感じた違和感。
あれがきっとエルフの里と下界を断絶する効果を持つものなのだろう。
その為にエルフは人間の記憶から忘れられていった、と予想する。
それなのに、フォルテは連れ去られてしまった。

(後を付けられた……?)

そしてもう一つの気がかりがある。
ソールに"西の洞窟に来い"と告げた男の事。
フィリアの事を知っていて、なおかつ助言するような人物は誰か。
とは言っても、暇そうなジュードしか考えられないのだが……
しかし彼が誘拐犯の側にいる理由が分からない。
けれど、もしそうだとしてもきっと理由はあるはず…

「見えました」

女王のつぶやきに合わせて走るスピードを緩めると、目の前に洞窟が現れた。

「ここからは今まで以上に危険です。周囲に気をつけるように」

女王はトヘロスを唱え、洞窟内へと進んで行く。

「行こう。フィリアねぇ」

ソールがフィリアの手を握ってくる。
ソールの手は少しだけ震えている。
最初に会った時の威勢の良さはどこにいってしまったのだろうか。
不安を吹き飛ばしてあげようと、フィリアも手を握り返す。

「行こ」

結局疑問は解消されなかったが、この洞窟の底にきっとその答えがあるのだろう。
そう。
分からないならば探しに行けばいいのだ。
それが冒険の醍醐味ではないか。
そしてフォルテを無事に助け出したら、今度は船に乗った時の話をしてあげよう。
そう心に思うフィリアだった。
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