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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Jacob's Dreame〜[2-4]
カザーブ。
その土地にまつわる伝説から、世の格闘家達の修行の拠点になりつつある村だ。
もちろんダーマの方が名が高いのだが、それは多様な知識と触れ合える場所だからだ。
こちらは自分と向き合う事を優先しているような者が集まっている。
とは言え、それでは商業的な発展は見込むべきもない事は確かだ。
まぁそれがまた、この村の落ち着ける理由にもなるんだけど。

「久し振りじゃの」
「ん」
「そっちのは?」
「あぁ、新しい仲間じゃ。孫は置いてきた」

カザーブの武器屋の店主との会話だ。
パトリスの言っていた通りなら、この老人が腕の良い職人なのだろう。。
それで? と言わんばかりに店主がパトリスに目を向ける。

「実はな、この爪を直して欲しくれんかと思ってな」

パトリスの意向を察して、真理奈が鉄の爪を取り出す。
店主は切断された鉄の爪を一瞥し、少々目を開かせる。

「何ぞ腕の良い剣士と決闘でもしたんか」
「いや〜何か呪文でやられちゃったんだよね〜」

会話に加わった真理奈に、老人は驚いた表情を見せる。

「……バギか」
「凄い! よく分かったね!」
「答えはそれしかないわい。
 しかしこんなにも綺麗サッパリと切るなんて芸能はそうそう出来るものではない。
 よくこんな相手と戦って生きておるな」
「まぁね〜♪」
「褒めとりゃせんよ」
「何でよ……」
「……結論じゃ。新しいのを買った方がえぇ」
「む〜それが嫌だからここに来たのに〜」
「しかしな」
「ワシからも頼む。まぁ無理なら無理と――」
「無理ではない。が、手間はかかる」
「お願いおじーちゃん!」
「それなりの理由があるという事か。しかしワシにお願いされてもな」
「え? どういう事?」
「まずはアンタ次第じゃ」
「??? 分かるように言って?」

店主はふ〜と一息つけ、パトリスをジロリとにらみつける。

「……ちゃんと教育せんか」
「武器はな、ちょいと専門外じゃ」
「むしろ専門じゃて。魔法使いが聞いて呆れるわ」
「ではこの不肖息子にご教授お願い致します」
「授業料、請求するからな」

いかにも渋々といった感じで真理奈に向き直る店主。
そして、よいか? と前置きする。

「この爪は切断されておる」
「見れば分かるよ?」
「そうではない。精神的にも、という意味じゃ」
「せーしん?」
「ちったぁ勉強せい……」
「うっ……」

この世界でも勉強しろと言われるとはねw
まぁ学だけが勉強ではないという事ですよ、真理奈さん。

「いいか。武器とは物理的な側面と精神的な側面がある。
 その両側面が合わさっていないと真に武器とは言えんのじゃ。
 この爪はその両側面で切られている」
「??????????????」
「物を使い続けるという事は、人と物が一つになっていく事。
 物側から見れば、人の精神が物に宿るという事じゃ。
 そして今、この爪は精神的にも切られている。
 つまり爪の部分と本体の部分は物理的にも精神的にも離れている訳じゃ」
「それは元には戻せないって事?」
「お前の心は他人の心になれるか?」

その突然の質問に真理奈はうぅん、と首を横に振る。
そこで店主は初めて鉄の爪に手を伸ばし、何かを確かめるかのように触れる。

「……これは元からお前さんの者ではないな?」
「え? どうだろう…おじいちゃんがくれたよ?」
「確かならば、これはかつての仲間の物じゃな」
「いかにも。真理奈には言ってなかったか?」
「へぇ〜初めて聞いたよ?」

店主は半ば呆れ顔で先を続ける。

「他人が使い古した物を使うという事は、新品を使うのとは訳が違う。
 なぜなら他人の精神がそこに宿されているからだ」
「ほうほう」
「……そして状況は更に複雑じゃ。
 お前が途中から使い出したが為に、この爪の精神は二つになっている。
 精神の重複によって爪はさらに脆くなった。
 もちろん物質的に使いこんだという事でもある」
「も〜説明長いよ〜……結局どうしたらいいの?」
「ただ物理的に直すだけでは意味がない。
 まずはこの精神を一つにする必要がある」
「どうやって?」
「他人になれるか、と聞いて否と答えたな?」
「うん」
「では他人になれ、という事じゃ。
 そうすれば説得も出来よう」
「え〜無理じゃん」
「それが無理なら、無理だという事じゃ。諦めて新しいのを買うんじゃな」
「む〜」

話は終わったというように店主は席を立つ。

「疲れたから今日はもう店じまいじゃ」
「戸締りには気をつけるんじゃぞ」
「うるさいヤツじゃ」

そんな会話の後、パトリスは真理奈を促して店から出た。
陽が傾きかけていた。

「まぁ、まだ時間はある。ゆっくり考えて、決めるんじゃな」

真理奈はじっと両手に乗せた鉄の爪を見たまま、答えなかった。

「武器の精神か〜……ん〜」

珍しく難しい顔をしている真理奈さん。
宿屋に戻ってきたようですね。
ベッドにあぐらをかき、鉄の爪とにらめっこしてます。
真理奈なりに解決しようとしているようで……

「お〜い、鉄の爪〜……って、鉄の爪じゃおかしいか。じゃあテッちゃんにしよっか?」

何がだよ。

「テッちゃ〜ん! 真理奈だよ〜握手!」

そう言いながらテッちゃんの甲の部分にタッチする。
もちろん何の反応も無いが。
だいたいそのテツは鉄のテツか、「鉄」と「爪」の頭を取ってテツなのか
非常に突き止めたい訳だが……

「名前付けてもダメか〜……ん〜難しい」

お困りのようです。
そりゃ物とコミュニケーション取るってのは難しいだろうさ。

「オッス! オラ真理奈! よろしくなっ!!」

し〜ん……
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