暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語
〜Jacob's Dreame〜[2-2]
「お、いつ帰って来たんだ? 今探しに行こうかと思ってたんだけど」
「ちょっと前に」
食事を終えたジュードが部屋へ帰ると、ベッドに腰掛けたフィリアが一番最初に目に入った。
「ふ〜ん…メシは?」
コクリとフィリア。
「食ったのかよ。まだかと思って用意したんだけどな」
テーブルに皮の袋が置かれる。
さっきの食堂でお持ち帰りしたのかな。
「……」
フィリアはそれを手にとってみる。
まだ暖かい。
「んで、どこまで散歩行ってたんだ?」
袋からジュードへと目を移す。
着替えの為にその視線には気付かないが。
「……エルフに会ってた」
服の擦れる音と重なり合ったので、聞き間違いかと思う。
でも確かにエルフ、と言った。
フィリアは冗談言わないしなぁ……
「エルフなんてホントにいるのかよ」
「うん」
即答されてしまった。
エルフなんてロト伝説の中でしか聞いた事ないような存在だ。
もしいたとしても、気軽に会えるようなものでもないだろう。
会えるものならジュードだって会ってみたい。
しかしこうもあっさりと言われるとなぁ……
正直、拍子抜けしてしまう。
「そ、そうか。良かったな」
「うん」
(うんって…嘘言うようなヤツでもないし……)
対処に困ったという感じのジュード。
まぁそりゃそうかもな。
宇宙人に会ったって言うようなもんだからなぁ。
(何でこういう時に真理奈はいねーんだよ)
確かに真理奈だったら喜んで話に飛びつきそうだけどねw
「あ、でも俺も会ってみたいかもな」
「うん…」
「あ〜…明日はどうすんだ?」
「うん……」
「……? 何だ、眠いのか?」
「……」
フィリアは一点を見つめ、そのまぶたは今にも閉じようとしている。
「よし、じゃあ寝るぞ。ほら、横になれよ」
そう言ってジュードはフィリアの手から皮の袋を取り去り、枕へ誘導してやる。
「…じゃあ灯り落とすからな」
「うん……」
フィリアがベッドの定位置に収まったのを見て、ランプの火を吹き消すジュード。
外からの月明かりだけが頼りになる。
「…おやすみなさい…」
「お…お休み」
お休みの挨拶されるとは思っていなかったのでジュードはびっくりしてしまう。
いまだに分からないところがあるが、まだまだ子供だなとも思う。
フィリアにも何か守りたいものがあるのだろうか。
そんな事を考えつつ、ジュードも床に就いた。
……… …… …
翌日、フィリアはまたエルフに会いに行くと言って出かけた。
ジュードはいよいよ暇を持て余し、武器屋や道具屋を見て回るが特に目ぼしい物は無かった。
結局メシ屋で時間を潰す事になってしまう。
昨日と変わらずにうるさい空間。
一日の苦労を互いにねぎらう大人達。
だがそこで、ジュードはフィリアの言っていた事の一端を理解する事になるのだった。
「よぉニイさん。1人で食事たぁ寂しいねぇ〜あっちのグループにまざらないのかい?
盛り上がってるみたいだぜ」
飯を食べ終わろうかという時に男がいきなり隣に座ってきた。
チラリと声をかけてきた奴と、あっちのグループとやらを確認する。
あっちのグループは酒飲みのチャンプを決めるだとかでガヤガヤやっていた。
「気分じゃないね」
「へへ、ニイさんこんな辺ぴな村で何してんの? ここの人じゃないよな?」
「……あんたこそ」
男は薄笑いを崩さない。
男に言い寄られるのは初めてだな。……まぁ女の方もないけど。
「へへへ、実は儲け話があるんだが、乗らないか?」
まず見ず知らずのヤツにそんな話を持ちかける時点で怪しさ満点だ。
「へへ、そうだよな。実はよ、確実って訳じゃねぇんだ……
おーい、こっちにも飲みモン追加だ〜!」
ジュードの酒が無くなるのを見過ごさない。下っ端として経験を積んだのか、とか考えてみる。
「ただ前金だけでも十分なくらい貰えるんだよ。大抵のヤツはそれだけもらってドロンだ。
しかしな、それも逆に怪しいと思わないか?
つまりそれだけの金をだすって事はだな、話の信憑性がグンと上がるって訳よ」
どうやらただのバカじゃないようだ。
けどジュードに話すメリットがいまいち分からない。
そこに2人分の酒が運ばれてくる。
「おっ、すまねぇな。よし、ここはオレのオゴリだ。飲んでくれや」
ソイツはグラスを掴むと、一口で半分飲み干してしまう。
「へへへ、そろそろ素直に話そうか。ニイさん昨日も1人で飲んでたろ?
だからニイさんを選んだんだ。腕も悪くなさそうだしなぁ。
正直オレ1人じゃ無事に事を運べるか心配なんだよ」
なるほど。一応人は選んでる訳だ。
それが正解とは限らないけど。
「前金で五千Gだ。成功すれば十万G。
どうだ? 悪くねぇだろ。
失敗してもおとがめ無し。それでも十分お釣りがくるってもんだ」
……まだ判断するのは早い。
犯罪なら確かめてから捕まえればいいし、くだらないなら辞めればいい。
「依頼人は?」
「あぁそれがな、代理のヤツにしか会えねぇんだ。
オレも顔を見ねぇと信頼できねぇって言ったんだがな……
案外その代理ってヤツが本物かもしれねぇ。
へへへ、まぁでももう金は貰ってんだ。
成功報酬を2人で分けても五万Gだぜ? 悪くねぇだろ」
ソイツのオゴリだという酒に手をつける。
その行為は、もう手を貸すと言っているようなモンかもな。
「……で、何を?」
「お、いいねぇいいねぇ〜やる気になったか?」
ソイツは少し嬉しそうにグラスの中身を全て胃に流し込んで言った。
「獲物はエルフさ」
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