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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Jacob's Dreame〜[2-1]
――――2――――


「……あ?」

覚醒。
どうやらいつの間にか寝てしまったようだった。
シーツに包まりもせず、ベッドに身を投げるままに眠ったのがいけなかった。
体温の低下が感じられて、少し寒い。
ベッドの淵に腰掛けるようにして起き上がり、ジュードはしばらくボーっとする。

(フィリアは……?)

時間的にもうすぐ夕飯の時間のようだが、まだ帰って来てないようだ。
まぁモンスターに襲われて大ピンチって事は無いだろうとジュードは思う。
ここ最近のフィリアは攻撃呪文の威力が上がっているようだったし。
ただ探しに行くのがめんどくさいだけでは無い。
もちろん仲間としての信頼である。

(まぁメシ食っても帰って来なかったら、探しに行くかな)

一応フィリアが帰って来た時の意思表示の為に、剣をベッドに立てかけてから宿屋を出る。
今はいないが必ず帰る、という意思表示だ。
これで食事中にフィリアが帰って来てすれ違いになっても、逆に探される事にはならないだろう。
外に出ると、昼間に増して寒さが身にしみた。
アリアハンは年中を通して比較的暖かい気候だからなぁ。
小走りして、村の中のメシ屋に入る。
こんな田舎でも飯時となれば、それなりに騒がしいものだ。
ワハハだガハハだと男達のテンションの高さがうかがえる。
ちょうど窓際に一つ席が空いているのを見つけ、店の奴に注文をしてから座る。
円卓ではなく、壁に備え付けられたテーブルなので喧騒を背後に浴びる事になるが、
それもうざったいので意識は窓の外の月に集中させる事にした。
円の形をほとんど残さないような、眉よりも細い二日月が望める。

「はいよ、待たせたな」

ドン、と目の前に大皿と飲み物が置かれた。
結局昼も抜いてしまったので、何とも美味そうだ。
美味いと言えば、いつか真理奈が言っていたカップラーメンというものを食べてみたいなと思う。
お湯入れるだけで食事が出来るなんて、どんな料理なのかいまいち想像出来ないが、美味いらしい。

(そう言えば、久し振りに1人で食べるな)

いつもなら真理奈が何だかんだとうるさいが、この状況に比べれば大分マシだなと改める。

「……」

黙々と食事をするのはこんなにもつまらないものだったかとさえ思えてきた。
昔はそうな風に感じた事も無かったはずだが……
昼間も話したが、いつの間にかこの生活にも慣れてしまったなと実感する。
4人での生活に。
何の因果かは知らないが、この4人で旅をしてるのを不思議なものだと思う。
同じアリアハンにいたのに顔も知らなかった2人と、もう1人は違う世界の人だってんだから。

(あ、もう1匹いたか。スライムが)

そんな事言うとブルーが怒るぞ?
けどスライムと旅するなんて貴重な体験かもな。
まぁ有意義かどうかは別にして。

「ふぅ……」

一通り食べ終わって、飲み物を口にする。
言いもしないのに、運ばれてきたのは酒だった。

フルーツベースなので甘いのだが、暖かくしてあるので口当たりが良く感じる。
ふぅ、と吐く息が白くなった。
両手でコップを持ち、再び月を見上げる。
人が太陽に希望を見るなら、月には願望を見るのだ。
だが二日月と呼ばれる今宵の月は願望と言うにはあまりにもか細く、
とても望みを聞いてくれそうにない。

(夢か……久し振りに嫌な夢だったなぁ……
 夢にまで喜怒哀楽なくてもいいんじゃないか?
 どうせ虚構なら楽しませろよ)

剣の鞘を撫でようとして、置いてきた事を思い出す。
触るのはいつものクセだ。

(商人の町で思い出したからか……?)

思い出すきっかけとなった2人の人物。
プレナと兵士長。
2人共自分の信念に基づいて戦った者だ。
1人は最後まで国の為に、1人は最後まで人の為に。
その行き着くところはまったく正反対だったが、強さを持っていた。
そしてジュードはプレナ側に加担した。
兵士長はその強さの使い方を間違えていると感じたからだ。
そう考えれると、プレナも兄貴も同じだったな、と思う。
自分よりも他人を、1人から大勢までを守りたがったものだ。
しかも、プレナは敵味方の枠を超えて守ろうとした。
そんな姿勢は嫌いだったはずなんだけどな……

「だった、か……」

それは無意識の自覚なのだろうか。
嫌いだった。
少なくともそう思っていたものに、実は影響されていたなんて。

"ありがとう。本当に感謝してるわ。
 これからはあなたの守りたいものを守ってあげてね"

ふと、商人の町を出航間際にプレナと交わした会話を思い出す。

(俺の守りたいもの、か)

戦士は一番前で戦う者であり、仲間を守る者でもある。
だから本来であれば戦士というだけで、何かを守っているはず。
でもプレナの言う意味は、それとは少し違うような気がする。
しいて言うなら、ジュードが本当に守りたいものを見つけて欲しい。
そんな感じだろうか。
どうしてこの旅に同行する事にしたのか。
どうして戦士を志したのか。
実は最近のジュードはその意味を確かには見出せなくなっていた。
最初はあったのだが、改めて考えるとちっぽけなものに思えてくる。
商人の町での戦闘の後からはそれが顕著に現れた。
たぶん信念を持つ事の真の強さを実感したからだろう。

(真理奈の次は、俺がそれを見つける番かな)

その願いは、月まで届くのだろうか……
二日月は静かにその光を放ち続けていた。
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