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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Jacob's Dreame〜[1-4]
そんなこんなで商人の町から北東の方角へ進むと、やがてエジンベアが見える。
そこを北に迂回していくと、やがてノアニールという村の付近に着く。
この辺りには港が無い為、海岸ギリギリまで船を寄せて停泊させた。
座礁の危険はあるが、強力なモンスターに船を傷付けられるよりはマシだ。
海底の浅い所には比較的弱いモンスターしかいないのだ。
ここからは小さな船で陸に上がる事になる。
もっともこの船は頑丈に造られている上、モンスターが近づきにくい仕掛けがしてあるらしい。
その秘密は材木にあって、トヘロスがどうとかパトリスが言ってたけど…
詳しくは国家機密らしい。
ま、それ故に世界を回るのに最も適した船だと言われるのだけれど。

「では行くとするか。2人はノアニールで待っておれ」
「え〜? あそこの浜まで皆で行こうよ〜」
「い、や、じゃ! ワシは小船が嫌いなんじゃ」
「ぶーぶー」

頬を膨らませる真理奈をよそに、パトリスはいそいそとルーラを唱えてカザーブへと消えた。

「さてと、俺らはノアニールに行くとするか」

ジュードの問いかけにコクン、とフィリア。
ブルーは真理奈に付いて行ったから、2人きりだね。
上陸して少し歩くと集落が見えてくる。
最北の緯度に位置する村、ノアニールだ。
……
しまった。
今回はパトリスがいないから土地の説明ができないぞ。
……
まぁいいか。
何だか寒いらしいよ?

「散歩してくる」

と、宿屋のベッドに寝転ぶジュードに告げてフィリアは村を出た。
娯楽も特に無い小さな村だ。
酒場があるみたいだったが、フィリアはまだお酒には興味は無い。
フィリアにはたぶん一生縁が無さそうだけどね。
村の周りには森ばかりで見晴らしの良い景色はまったく無かった。
まぁその森のおかげで冷たい風が吹き抜けないので、海上よりは寒さが楽なんだけど。
毛皮のフードを被っているので耳がかじかむ事もないしね。
道端に落ちていた手頃な長さの木の棒を広い、それをフリフリして歩く。
そして森の奥に入り込んで迷う事の無いように、時々地面に印を付けて行く。
けど1人で出歩くなんて無謀だろ……常識的に考えて……

「危ない!!」

言わんこっちゃ無い。
突然の声とガサガサという草をかき分ける音。
その直後、誰かが背後から飛び掛ってきた。
フィリアはその衝撃に耐えられず、そのまま前へ倒れこんでしまう。
直後、頭上を何かがかすめていくのを感じた。

(モンスター?)

背中に乗っているのが誰だかは知らないが、守ってくれたのだろうと判断し、
フィリアはモンスターの方に気を配る事にした。
素早く立ち上がり上空を索敵する。

「うわっ……!」

後ろの人を振り落としてしまったが、今は気にしていられない。

しかし、茂みや木々のせいでモンスターの姿は見えない。
どこかに隠れているのだろうか。
"目がダメなときは耳を頼れ"
これが冒険者の常識らしい。
ちなみに耳の次は"勘"だそうだ。
フィリアは意識を周囲の音に向ける。
獣のうなり声は聞こえない。
枝が風に揺れ、葉が互いにぶつかり合う…

「……! バギ!」

聞こえた! 羽ばたきの音が!
左方上空に呪文を放つ。
一点集中の狙いはつけられなかったが、モンスターの右腕と右翼を切り裂く事に成功する。

グギャアァァァアアー!!

羽を失ったモンスターはバランスを崩し、地面に落下。
残った左翼をバタつかせながら這いつくばり、茂みの奥へと消えていった。

「ふっ……」

戦闘終了の一息をつくフィリア。
あれはバンパイアだったろうか。
いつか本で読んだ事がある。
ヒャドを使うらしいが、直接攻撃に徹してもらえたおかげで助かった。

「アンタ、大丈夫か?」

声をかけてきたのは、フィリアよりも身長の小さい少年だった。

「あんな風にボケっと歩いてると危ないぞ?
 森の中の歩き方知らないのか?」

えらそーな口を利くが、どうみても立派な子供だ。
十代になりたてといったところだろうか。
金に近い茶髪で、少しクセのあるハネっ毛が少年らしくて可愛らしい。
けれど、つり上がった眉と目が少年の自信の強さを表している。

「アンタどこの人? 冒険者らしいけど、1人なのか?」

何も喋らないフィリアをジロジロと見上げる。

「とにかく、さっきの奴が仲間を呼んだらマズイ。
 こっち来て!」

少年はフィリアの手を取り、走り出す。
この森の事をよく知っているのだろう。
ノアニールの村の子だろうか。
何度とつまづきそうになるフィリアに対して、森の中での走り方を心得ている。
引っ張られるままに十分程走ると、やがて目の前に小さな広場が現れた。
広場の中央には大人の背丈くらいの高さを持つ岩が埋まっている。
その岩の所まで連れてこられて、ようやく手を放してくれた。

「ふ〜……よし、もう大丈夫だろ。
 ったく、オレがいなかったらアンタやられてたぜ?
 ま、貸しにしといてやるからもう村に戻りな。
 ここなら樹に邪魔されないでキメラの翼が使えるからさ」

一方的に喋り続けた少年は、ポケットから羽根を一つ取り出してフィリアに差し出す。
しかしフィリアはすぐには受け取らない。

「一緒に帰らないの?」

冒険者の自分が村に帰って、この少年がここに残るのはおかしい。
いくら慣れているとは言え、どう見たって少年の方が危険にさらされるだろう。

「あ〜…オレはちょっと用事があるからまだ帰らないよ。
 あ、キメラの翼ならまだあるから大丈夫だって」
「……」
「いいから帰れってば。仲間も心配してるぞ」

明らかに何かを隠すように慌てている。
しかし出会ったばかりの、そして一応命の恩人でもあるらしい少年の言う事だ。
用事とやらを済ませば、少年は1人でもちゃんと帰れるんだろう。
そう思い、ご好意に甘えようとフィリアは羽根を受け取ろうと手を伸ばした。

「……ソール?」

突然誰かの声がした。
広場には誰もいなかったはず…

「あ……」

その反応で、その声が少年にかけられたものだと気付く。
フィリアが少年の目線の先に顔を向けると、
そこには少年と同じくらいの年頃の少女がいた。
一番最初に目につくのは少女の鮮やかな若緑色をしたストレートの髪。
それが寒風に揺れるのを見ただけで、サラサラなんだろうと分かる。
フィリアは知っている。
これも本で読んだ事がある。
あれはエルフと呼ばれる種族だ、と。
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