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暇潰し◆ODmtHj3GLQの物語

〜Jacob's Dreame〜[1-4]
今日も快晴。
世界は曇る事を知らぬかのように、太陽を遮るものは何も無い。
人が雨の中に絶望を見るのならば、この世界には希望しか存在しないだろう。
そんなくらいに晴れ、という事だ。
そうだよ。
本当にこの世界を支配したいのなら魔王はアレフガルドの様に暗闇で覆うべきなんだ。
さすれば人間達の反抗は影を潜めるだろう。
しかし、この地上には飽きる事無く朝が来る。
いかに人の世が苦しみに満ちていたとしても、その度に光を見るのだ。
また今日が始まるという光を。
また明日もあるという光を。
未来という光……

「ねーねー、ほんで次はどこに行くの〜?」
「ジパングだろ。ってかそうするって昨日話したろ?」
「えへへ〜聞いてなかったw」
「ったく…」

プレナから貰った新しい船。
真理奈達の、船。
船首が波をかき分けていくにつれて、この船が自分達の物だという感覚が強くなっていく。
嬉しい。
必要な物がようやく手に入ったからだろうか。
誰かの役に立ったという事が、物として現前しているからだろうか。
どちらにせよこの船は、いつ終わるともとも分からないこの旅の支えの一つとなるだろう。

「でもさ〜鉄の爪直さないと私戦えないんだけどー」
「そうじゃなぁ…」
「新しいの買えばいいじゃねーか」
「え〜ダメ! 思い出があるんだからっ!」
「ピ〜…」

その鉄の爪、この世界に来た時からずっと使ってるもんな。
ってか、抱きかかえてるブルーが苦しそうだから力を込めるのは止めた方が…

「それとも、もう直らない…?」

根元からぽっきりと折れた爪の部分。
今はまったく武器としての機能を果たしていない。

「……ロマリアの北にカザーブという村がある。
 そこに腕の良い武器職人がおるんじゃ。
 頼んでみれば、もしやな」
「行く行く〜!」
「仕方ないの。寄り道じゃな」
「のんびりしてる暇あんのかよ…」
「まぁ一応順調に連合参加国も増えておるしのう。
 それに何も大国だけではなく、小さな集落にも呼びかけるのも使節の仕事じゃ」
「カザーブはロマリアがどうにかしてくれてるんじゃねーの?」
「そんなに行きたくなきゃ船で待っておれ」
「……サマンオサに向かった使節の方はどうなったの?」

お、フィリア良く覚えてたな。
連合参加を呼びかける使節として活動しているのは真理奈達だけではない。
アリアハンにいた冒険者の多くはそっちに参加したようだ。
その点、真理奈達のパーティーは残り物と言われてもしょうがないかもしれない……
4人中3人は若者だし、1人はもう老人だ。
世界を旅するには少々心もとないかもしれない。
まぁ今さらだけどね。

「そうじゃったの。一旦アリアハンに戻って状況を聞かねばいかんかもしれんなぁ」
「もうアリアハンを発ってから大分経ったよな」
「時が経つのはいつの時も早いものよう」

そんな会話を背に、真理奈は改めて鉄の爪を見てみる。
その切り口を見ると、ゾーマの事を思い出す。
まったく普通の青年だった。
プレナの言う通り、彼は何か知っているのだろうか。
私達が、この世界に来た理由を。
この世界とあっちの世界の事を。

(ルビスは何て言ってたんだっけ……?)

携帯が使い物にならなくってルビスと話してない。
もうかなり昔の事に思える。
……
携帯…
携帯電話の事だ。
モバイルフォンの事だ。(二回言った)

(お〜携帯!! アイツも携帯持ってるかな!!)

アイツはゾーマの事か。
まぁ、有り得無くは無いわな。
ルビスとの繋がり。
それは真理奈の場合、携帯を通じて行われたものであるが、
それは同時に、この世界とあっちの世界の繋がりでもあるように思えた。
もし、だ。
ゾーマを名乗ったあの青年が携帯を持っていたら。
そしてもし。
その携帯がまだ使える状況にあるのならば……
帰れるかもしれない。
しかし"魔王に携帯を借りる"って…
う〜ん、ますますシュール。

(ん〜…ルビスはこの世界を救えば帰れるって言ってたけど…)

どうなんだろうね。
まぁルビスが嘘を付くとは思えないけどな。

(あ〜もう分かんないや。やーめた)

止めんなよ…
物語の核心に迫る大事なトコだろー?
そんな心配をよそに真理奈は暇そうにしているフィリアに近づいて行く。

「ね〜ね〜フィリアちゃん。いつもあんなに早く起きてるの?」
「うん」
「凄いね〜」
「理奈は何であんなに遅く起きるの?」
「んん〜……摩訶不思議だね」

眉をしかめて、さも困ったかのように言う真理奈。
ったく、不思議じゃねーよ。
ちゃんと起きなさいよ。

「まか…?」
「そう。七不思議みたいな」
「……分かんない」
「不思議と言えば、呪文って不思議だよね〜」
「何で?」
「ってかこの世界は不思議だらけだよ〜」
「理奈の方が不思議だよ…」
「マジ? じゃあ皆不思議だw」

いまいち理解できないという表情のフィリア。

「不思議なの好きなの?」
「うん! フィリアちゃんは何が好き?」
「……見た事無いものを見る事、かな」
「へぇ〜だから色んなもの真剣に見てるんだね」
「……そう?」
「うん。その時のフィリアちゃん可愛い!」

そう言って楽しそうに笑う真理奈を真剣に見るフィリア。
真理奈の論理がイマイチ分からない。
だからフィリアにとっては真理奈はいつまで経っても不思議の対象だった。
だいたい今だって、何故ブルーを自分の顔にくっつけてくるのかフィリアには理解不可能だ。
でも理由を聞いてもきっと分からないんだろうなと、既に諦めの境地である。
女神なら、真理奈の事も分かるのだろうか。
いつか自分にもその心が分かる日が来るのだろうか。

(やっぱり私も不思議なのが好きなのかも)
「ピ〜」

フィリアはブルーのツノを引っ張って、真理奈と笑い合った。
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